第3話 窓際経理部
「おい、何で捕まんなきゃならないんだよ!? 同じギルド職員だっただろがい!」
「お前はもう、クビになる」
「なるってかなったんだけどな! とりあえず外せ!!」
今朝、俺はかつての同僚にフィナーナについて聞き取りをしにいく、つもりだった。
が、バーに昼飯を食べにきたギルド職員から神がかった抜き手を食らい気を失ってしまった。
んで、意識を取り戻した時には、ギルドの地下室で壁に大の字で吊り下げられてたってわけ。
思い切り暴れてみるが、四肢をつなぐ麻縄はきしむだけでちぎれない。
「グーテンベルクの敵は全て、排除しなければならない。ギルドの規則である」
「そんな規則なかっただろ!? アンタ、グーテンベルクの家臣だったんか!?」
「うご、動くナ。一撃で、仕留められないダロウ」
同僚だった男はダーツの狙いを定めるように男性の前腕ほどもある針を振りかぶったまま動かない。
「そもそも誰だよお前!! 存じ上げないんですけど!?」
「経理部所属、グーテンベルクの古参ファン、ノイジー・カッテナインであル!!」
「知らん! てか経理は俺がやらされてただろうが!」
経理部なんて存在自体初めて聞いた。
なんたって俺のハザンからのノルマに経理業務が入ってたからね!
「だからダ! 貴様がクビになったせいで我々が仕事する羽目になったンダ!! 窓際族の幸福をカエセ!!」
「意味わかんねえ! 思いっきり逆恨みだろうが! てか仕事しろオッサン!」
「労働せずに金が欲しイ!」
怒りに任せて振り下ろされた針は俺の右手と麻縄までも貫通した。
焼けるような激痛で瞼が閉じられるのを何とか阻止し、力いっぱい右手を引き寄せる。
ビチビチッ、と強引に右手が解放された。
「最初から心臓を狙う度胸なないんだな、オッサン……。おかげで右手が自由になったぜ」
「あ、ありえなイ~。グーテンベルクの敵は殺さねバ……殺さねバッ!!」
血塗られた針が再度、先端をこちらに向ける。
次はしっかりと胸に狙いを定めて。
なるべく大声でしゃべってたけど誰も助けは来そうにないな。
つまり、
「絶体絶命ってわけね。ってか踏んだり蹴ったりなんだよ!」
死の際だというのに身体が熱い。
最期に見るのが走馬「灯」なのは身体が熱くなるから? とか無駄に思えるほど引き延ばされた時間感覚の中で最後の抵抗と言わんばかりに右手を伸ばす。
「命命イノチ!! 窓際族の恨み!!」
某男らしい梅のように顔をゆがめたノイジーが針を振り下ろす。
俺は白羽取りできるほど達人なわけでもない。右手はただむなしく、虚空を掴むだけ。
かと、思われた。
貫通した手のひらから流れ出る血流とともにあふれ出たナニかが周りの木箱を巻き込みながら空間ごとノイジーの身体がしたたかに壁に打ち付けられる。
「貴様ァ! なんだそのチ! チィ!!」
「た、助かったわぁ。てか血? なんだよ、これ?」
右手を確認してみるが、ズキズキと痛む傷口から出血しているだけで、力のモトみたいなものは確認できない。
「貴様ァ!! 魔法ダロ!! それは、魔法ダ! ギルド内での魔法の使用は禁止でアル!!」
「来るんじゃねえ、よ!!」
再び針を振り上げて向かってくるノイジーに向かって右手を突き出してみる。
すると、先ほどと同様にノイジーは無様にすっ飛んでいく。
「だから、魔法使うんじゃねえって言ってるダロォ!!!」
「なんとなくわかってきた!! そういえばこの世界は剣と魔法の世界だったな。忘れてたよ。あとこれ、魔法じゃなくて魔力だな」
この世界で魔法を使うには体内に流れる魔力を変換しなければならない。
しかし、魔力だけでも、塊にして放出すれば相手の魔力と共鳴し、ニンゲンが吹き飛ぶ程度の力にはなる。
「ていうか、解放しろ!!」
「殺すまでは、無理! フン、殺さなけれバ……!! 貴様を殺すためならッ、グーテンベルクのためとあらばッ、規則など……! いや、だがッ。規則など破ルノダ!!」
ノイジーが三角形を作るように合掌すると手のひらの間に小さな炎が揺らめいた。
「待て待て待て地下で炎ぶっ放すなァ!!!」
もちろんそんな俺の忠告を聞くはずもなく。
「キ・コーホー!!!」
ノイジーの叫びとともに、火炎放射が放たれる。
その事実はすぐそこまで来ていた。
瞬間、鼓膜が破れそうなほどの轟音とともに天井が崩落する。
「リト・マクルーハン!! 助けに参りましたわ!!」
「ありがとうだけど、雑!! もう少しで死ぬとこだったんですけど!?」
「うるさいわね。黙って助けられてなさい!!」
ぽっかりと開いた頭上から一人の少女が飛び降りる。
天井を派手にぶち抜いたのは彼女の持つ大剣だろう。
彼女はすぐさま大剣を振るい麻縄から俺を開放した。
「あんたが来てくれるとは思ってなかったよ。フィナーナ・カルヴィンお嬢様!!」
「言いたいことは後で言います! さっさと逃げますよ!」
「にが、逃が、殺スゥ!! 殺スゥ! グーテンベルクのためニ!!」
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【あとがき】
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