第2話 最低評価

 クビから数日後、クローラから例の人物がバーに現れる予定だとの連絡が入った。


 予定というのは他の常連の冒険者から聞いた情報だそうで、バー(食堂)来るかどうか確定できないらしい。


 一つ深呼吸をして、バーの扉を静かに開く。


 今回会いたいのは冒険者だ。それもギルドマスターと対等に渡り合えるほど爵位の高い貴族の出身なのに結構上位の冒険者でもある癖の強い人物。


 持ってるヒトが自分が持ってない分野に興味を持った感じかな。


「あ、リトさん! いらっしゃいませ!」

「どうもー。またカウンター席使わせてもらうよ」


 ウエイターに挨拶を返しながら個人経営にしては広いホールをかき分けるように奥へと歩いてゆく。


 目当ての人物は雑多な店内でも大変目立っていた。


 黄色っぽいランプの明かりを反射してもなおのこと白さを残す銀髪を肩口で切りそろえ、メリハリの少ないスレンダーな身体をシンプルな軽装備で包んでおり、金があるのかないのか微妙な見た目をしている。


 そう、目的の人物は少女だった。


「キミがフィナーナ・カルヴィン?」

「誰です? わたくしに気軽に話しかけないでくれます?」


 あー、チョーお嬢様っぽいー。

 下手にいくしかないか。


「もちろん上位の冒険者様ですからお忙しいことは理解しています。が、少々僕に時間をいただけないですかね?」


 少女はこちらを向くことなくグラスに口をつける。


「まずは名乗るのが常識では? それともこのままつまみ出されたいですか?」

「リト・マクルーハン。元ギルド職員ですよ」

「要するに無職ってことじゃない。で、何の用ですか。依頼も物乞いも受け付けませんけど」


 ここまで俺に向いた視線はゼロ。

 今もカラカラとグラスを壁走りしている氷を眺めながらこちらの返答を待っている。


「グーテンベルク家のスキャンダルをお求めかと思いまして」


 ぴたりとグラスを回していた手が止まる。


「老いぼれどもの権力闘争などわたくしには関係ありません」

「でも興味はあるんだろ?」


 先ほどまでとは打って変わって彼女の身体ごと俺の方を向き、その歪められた顔があらわになっていた。


 少しキレ長の青い目にスッと通った鼻筋、あどけなさを残しながらも整った顔立ちからも彼女のプライドの高さがうかがえる。


「いえ、興味ありません。わたくしを家系で見ないでください」


 貴族の出であることにプライドはないんだな。

 どちらかというと温室育ちから上位冒険者になったことにプライドの軸があるっぽいな。


 ウェイターとして見守っていたクローラに挨拶をし、立ち去ろうとする彼女の背中に向かって口を開く。


「ギルドマスターの不祥事だったら?」


 ピタリと少女の足が止まる。

 が、少女は、フィナーナ・カルヴィンは振り向くと、


「いえ、興味ありません。見ず知らずのあなたに協力する義理はありませんので」


 では、とフィナーナはツカツカとバーを出ていってしまった。


「さすがにフラれたか」

「無理ですよぉ。あの人は貴族でSランク冒険者さんですからリトさんなんかじゃ近づかないですよ?」

「しれっとディスるよね君。まあ、金も地位もないのは事実なんだけどさ」


 彼女が出ていった扉をうっとりと眺めていたクローラの言葉を流し、俺はフィナーナに渡す予定だった書類を眺める。


 完全に目論見が甘かった俺に原因がある。


「別角度から説得しないとだよなぁ」

「なんでそんなにフィナーナさんにアタックしてるんですか? 好きなんです?」

「違うわ! 告発するにも同等の地位がある告発人がいないと法廷にすら上がってこれないんだよ」


 ハザンは貴族。平民の俺が貴族を訴えたとしてもこの現実世界の中世並みに身分制度がはびこっているこの世界では門前払いを食らうのがオチだ。


 だからこそ訴訟人として貴族の協力者が必要だ。


「あいつには確実に法の裁きを受けさせたい。そのために貴族が必要ってだけだ。フィナーナは家柄的にもふさわしいんだよ」

「フィナーナさんの家ってギルドマスターの家と敵対してるんでしたっけ」

「よく知ってるな」

「お酒は口を軽くしますから~」


 酔った客の愚痴ってのもいい情報源かもな。


「ギルドマスターを訴えてどうするんです? ギルドを乗っ取るつもりですか?」

「それもいいかもな。だが、目的はそれじゃない」


 目の前に広げた書類に手をかざす。


「俺の『拾われた記録』だ」


 俺は前世があるという事実だけを抱えさまよっていたところをハザンに半ば強引に拾われた。

 ただ、拾われた以前の記憶が、ない。


 名前もハザンの口から初めて聞かされたものだ。


「あいつは俺に関する書類を持ってるはずだ。だけど、良好な関係だった今まで隠されてきた書類を今さら俺に見せるはずがない」


 だから、強引に手に入れることにした。

 ムカつくけどクビにされたのがいいきっかけだったな。


「口説きにいくか」

「やっぱ好きなんじゃないですか~口説くなんてね~」


 クローラは相も変わらず恋愛に脳に支配されたまま。

 ある意味信用できるかもしれないな。


「じゃ、またフィナーナが来るようだったら教えてくれ!」

「はーい。わかりました~」


 口説くにしても彼女について俺は何一つ知識がない。


 となるとやるとは一つ。


 彼女についての聞き込みだ。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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