転生した異世界で新聞社を作ったらペンがチート武器になってしまった
紙村 滝
第1話 【検索】「クビ 雇用主 反撃方法」
「リトォ! てめぇどこほっつき歩いてたァ!?」
恰幅の良い腹から叩き出された怒鳴り声が作業場に響き渡った。
「今日のノルマ作業終了したんで、色々手伝ってただけですけど。バーとか受付とか」
「テメェ、持ち場にいろって言ってんだよ! 勝手に動くんじゃねぇよ」
「職人の工房じゃないんですよここは。冒険者ギルドなんですから作業を終えた裏方が表を手伝った方が効率的じゃないですか」
言い争っていた大男は食い気味に俺の胸ぐらを掴み上げて、キリキリと締め上げた。
自分としてはもっともなことを意見しただけだったが、納得してないらしい。
周囲のざわめき、耐え難きを耐える空気を無視して大男は怒鳴り続けた。
「逆らう気か? あぁ? リト、俺が誰かわかってほざいてんだろうな?」
「もち、ろん。ギルドマスター、グーテンベルク公爵家当主の弟、ハザン・グーテンベルク。パワハラ野郎だよ」
言い終わるや否や、俺の身体は数々の書類の山をなぎ倒しながら壁へと叩きつけられた。
強制的に肺から吐き出された呼気に押されるように咳き込みながらなんとか立ち上がる。
背中イッテェ……折れてないだけマシだな。
「なんの身分もねぇテメェが口答えしてんじゃねぇよ! クビだクビ! 給料も払わん! 二度と足を踏み入れるんじゃねぇよ!!」
ハザンは再び俺の胸ぐらをつかむとそのまま窓から力任せに俺の身体を放り投げる。
こうして俺、リト・マクルーハンはこちらの世界でも無職になったのだった。
⭐︎
リト・マクルーハン。
22歳。
職なし。
自宅なし。
貯金微量。
「生きてけないなんて言っている場合じゃないんだよなぁ」
ぽつりと呟くとウイスキーに口をつける。
ハイボールないから頼んだけど、単体だとあんまり美味しくないなこれ。
クビなった数時間後、俺は馴染みのギルド併設のバーを訪れていた。
併設とは言っているがパチンコ屋の三店方式みたいなもので正確にはギルドではない。
「クビになっちゃったんですもんね……」
カウンターの向かいで、はあ、と眉を八の字にしながら少女は共感力高めなため息をついた。
彼女はクローラ・ファレンス。バー『ブラウズ』の店員だ。
ハーフアップの金髪に、メイドカフェのウェイトレスのようなフリルのついたエプロンの上からでもわかるほどメリハリのついた身体にまだあどけなさの残るルックスで、くたびれた冒険者たちを癒してるとかなんとか。
「クビになっちゃったんだよなぁ。ってことは……」
やけくそ気味にウイスキーをあおる。
「新しい仕事を探しましょう!」
「内部告発はやめにするか」
酔いもさめるほど冷たい沈黙がカウンターの上をすり抜けていった。
「あの、なんて言いました?」
「いや、本当は内部告発してハザンをギルドマスターから降ろそうと思ってたんだけどねー」
告発材料もそろえ、計画も最終段階まで進んでいたところに唐突のクビ宣言だったのだ。
別にハザンを嗅ぎまわってたわけでもなく収支報告書とスタッフの聞き込みをしていただけなんだけどなぁ。信者でもいたかな?
ふと、顔を上げるとクローラが口をあんぐりと開けて立ち尽くしていた。
「い、いま、無職なんです、よね?」
「そうだけど? まあ、ハザンはあのままにしたくないからね。優先順位の問題だな」
「で、ですが内部告発って……あの方って貴族の生まれですよね? 危なくありませんか?」
問題ない、と俺はカバンから麻ひもでくくられた紙の束を取り出すと、ドスンとカウンターに置いた。
「これは?」
「ギルドの収支報告書と許可をもらったスタッフの給与明細。ハザンの中抜きにおまけでパワハラとかも告発できる算段だった」
内部告発ならば告発に失敗してギルドマスターを下ろせなかった場合、「クビ」を身代わりに他の懲罰を軽減できる可能性があったけど、もうそれもなくなった。
「それ、持ち出し禁止じゃないんです?」
「持ち出し禁止だよ。原本はね。いやー魔法って便利だね。少し魔術回路をいじるだけで複写できるんだから」
そう、この世界は紛れもない剣と魔法の世界。
少し魔法より。
コピーなんて芸当は魔法でお手の物らしい。
「あとは適切な身分の人間を協力者にして告発してもらうだけだったんだけど……。あ、エール1杯もらえる?」
注文を受けていそいそとカウンター内を動き回るクローラの背中を眺めるだけでも趣や風情とは違った、光景が身体に染みわたるような、おとぎ話の中に入りこんだかのような奇妙なノスタルジーがあった。
実際、転生者の俺にとってこの世界はおとぎ話みたいなものだ。
「どうぞ。告発するって言ってもどうするんです? もう
ギルド職員ではないですし」
「そこでクローラ、君の力が借りたいんだよ」
「私ですか?」
ずいっと顔を寄せる。
「よく来るだろ? 貴族としてあいつを恨んでる女が」
まずは復讐。次に、起業だ。
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【あとがき】
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