第5話

 ルフェイ団長からの言伝を携えて戻って来たジェルがカイルに言ったのは、【首はね役】の使命だった。


「味方の士気を高揚だと!? 戦争の前に敵の首をはねることで? いったいどこの野蛮人がそんな風習を考えた!?」


 ジェルは砦の中心にある宮殿に目をやった。


「バーリンか。やっぱりな。イカれた奴だと思ったんだ」

「とにかく、使命は使命だ。もう時間はあまりないからな。急いだほうがいい」

「ちょっと待て。そもそも、なぜ俺なんだ?」

「一番剣の上手い奴を推挙しろと言われて、団長がお前の名前を挙げたのさ。剣の下手な奴じゃ相手を苦しませるだけだからっていう、情けだよ」

「ずいぶんとお優しいんだな」


 カイルは鼻で笑った。

 もちろん敵兵とはいえ、無抵抗の人間を殺すことに躊躇いがないわけではない。そもそもそういう行いは、騎士道精神に反するのではないかという気もする。

 だが、そもそもこれは戦争なのだ。きれいごとが重用される宮殿の舞踏会ではない。そもそも、自分と同じ人間ならともかく、相手は所詮異教徒。

 しょうがない。他に選択肢はないのだ。

 カイルは自分にそう言い聞かせた。

 力が湧くとどころか、むしろ腰が抜けそうな気がしたが、何とかジェルを促した。

 

「それじゃ、そのかわいそうな敵兵さんの所に行くとするか。どうせ戦争になったら、いくらでも敵の首をはねるんだ。捕虜を一人付け加えたところで、大して変わらないものな」


 ジェルは何とも奇妙な表情をした。

 というより、表情が少しも変わらないことが奇妙だった。

 ジェルはゆっくりと口を開いた。


「違うよ。首をはねる相手は、敵兵の捕虜じゃない。宮殿にいる侍女だ」

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