第4話
砦の見張りが、砦を完全に囲みながら近づいてくる、いくつもの巨大な攻城用の櫓とそれを押す多くの兵士達を見たのは、まだ早朝のうちだった。
本来なら十分以内に、バーリン卿、そして砦内の全騎士団団長に伝わるはずだった。
だが普段からまともな訓練をしていなかったことが響いて、実際に連絡が全員についたのは一時間以上かかっていた。
カイルがジェルや、聖ジャッカス騎士団の面々と、壁の上の持ち場についたとき、すでに壁から徒歩で十分の距離まで敵は来ていた。
「くそっ。なんだ!? あの攻城櫓は。あれほどの高さじゃ、簡単に壁を乗り越えてくるぞ」
カイルが歯噛みして言った。
敵方がこの砦に乗り込んで、一気に落とそうとしているのは明白だった。白兵戦で重要視される槍兵や騎兵はほとんどおらず、三分の二は櫓を押したり、そこに乗り込む歩兵達に割かれていた。
残りも大多数が弓兵だった。あれでは砦の上に立っているだけで、狙い撃ちにされることはほぼ確実だった。
「まるで塔だな。櫓というより。だが、なぜ砂地に沈まない? あれだけの大きさなら、重さも相当だろ!?」
カイルの隣で、団長のルフェイが首を傾げた。その顔色は気の毒になるほど青ざめており、普段のおしゃれな口髭が自慢の、伊達男ぶりは見る影もなかった。
「見てください。あの車輪」
カイルは攻城櫓の下を指差した。
まるで百足の足のように、車輪がいくつも並んでいるが、どれも通常のものより幅が広く、大きい。
「あの車輪なら、重みが分散されるので、砂漠に沈むことはないでしょう」
櫓には前方から綱で引く兵士が数十人、横と後ろから押す兵士が数十人仕えていた。さらには櫓にも数十人の兵士が乗っている。
櫓自体は、太い丸太をいくつも組んで塔のように高くした上に、厚く、おそらくは水に濡らした毛皮をいたるところにまとわせた、見るからに丈夫そうで、火にも十分耐えそうな造りだった。
そんな櫓が全部で五十個ほど、砦を囲み、その輪を縮めていた。
まさかポリオネスの奴、この攻城櫓を作るために時をかせいでいたのか?
だとしたら臆病者どころか、とんだ策士だ。
「カイル、ざっと見、敵の数は一万人と少しだ。単純な人数ではこちらの方が多いぞ」
横からジェルが口を挟んできた。若干声が震えているのが分かる。
ジェルの言葉は慰めにはならなかった。
もちろん、ジェル自身もそれは分かっていた。頬は引きつるようにピクピクと痙攣している。それがジェルの笑いにならない笑いだということを、カイルはよく知っていた。
「ああ、そうだな。こっちは一万五千はいる。その半分が女、子供、老人じゃなきゃ、俺も素直に喜べたんだが」
ジェルが今度こそ、引きつった顔になった。
「隊長、バーリン卿がお呼びです」
使いの者が知らせてきた。
「分かった。ジェル、お前も来い。カイルは木のまま持ち場を見張ったいてくれ」
「分かりました」
もっとも見張っていたところで、できることは何もない。
騎士も、兵士も、市民も完全に浮足立っている。
「奴ら、この攻城櫓を造る時間をかせいでいたのか」
カイルが一人ごちたが、答える者はいなかった。
誰もが恐怖と混乱で、目を見開き、視線を泳がせていた。
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