時間

学生作家志望

ごめんなさい

帰り、いつもの電車を待つ、いつもの俺。


横を見ると同じ格好をした社会人が暗い顔をして俯いていた。俺の後ろにいる人たちもみんなそうだ。



「俺ぐらいか、学生は。」普段使わない電車、いつもより帰りは1時間ほど遅かった。遅かったというか、「意図的にずらした」のほうが近いだろうか。



部活の生徒ですら乗ることのないだろう夜の20時近くの電車を狙って、俺はいつものホームにきたんだ。



もうちょっと空いているかと思っていたけど、今度は社会人の帰宅ラッシュの時間にぶつかってしまったらしい。おかげで心の中にしまい込んでおいた罪悪感がまた爆発してしまった。



俺は今日、学校を休んだ。


特に理由なんてない、いじめだってされてるわけでもないし、なんなら普通に友達もいるさ。でもそれでも俺は、今日、


学校を休んだ。



俺は昔から、今日みたいな学校に行けない日がたまにある。世間で言う「不登校」っていう状態。


まあ別に連続して休んだりは今はしなくなったけど、それでもたまに休んでしまいがち。


俺はこんな自分を許せないし、みんなみたいに毎日学校行けるようになりたいと思ってる。でもどうしても、玄関前とかホームの前とかで足が止まっちゃう。涙だって自然に出てくる。


それでも頑張って学校に行こうと思って、1歩踏み出して学校に行ける時だってあった。


だけど、学校に行って同級生にこんなことを突然言われた。



「不登校じゃん、楽でいいよな、俺もサボりてえー。」



不登校、自分で自覚はあったつもりだった。でもその言葉を他人に投げつけられてレッテルを貼られるとすごく悲しい気持ちになった。


それと同時に、楽という言葉にも引っかかった。確かに、他の人からすれば俺はただの学校をサボっている不登校の生徒のように見えるかもしれない。


だが、学校に行きたいと思って1歩を踏み出すことができなかったその日は罪悪感という大きな爆弾を抱えて1日生活することになるんだ。


周りの社会人や学生は、みんな真面目に会社や学校に行って今日も頑張っているのに、それなのに俺は、休んでしまった。泣いてしまった。電車に乗ることもできなかった。


毎日、毎日、自分が大嫌いになる日々を送っている。それを楽というたった一文字でまとめられてしまったのが納得ができず辛かった。


そりゃあみんなが俺より頑張っているのはわかる。「勉強しなさい」って親から怒られるのも当たり前だ。


全部俺が悪い、悪いってわかってても朝になると体がまったく動かなくなる。


俺もみんなみたいになりたい、


俺も。


俺も。



ガターーーーーーー


駅のホームが揺れているような感覚と、少し肌寒い風が待っていた電車がきたことを予感させた。



シュ………



目の前で電車が止まり、次の瞬間にはドアが開いていた。



「帰る………のか。」俺は今日、行きの電車に乗ることはできたものの駅周辺で学校に行くことが出来ず足を止めてしまった。

罪悪感という爆弾を抱えながら近くのビルの中で1日を過ごし、帰りの学生に見つからないよう1時間遅らせて電車に乗り込もうとしたのだ。


親にバレているのではないか、また怒られてしまうのではないか、今度はスマホを没収されてしまうかもしれない、様々な恐怖が俺の頭をよぎる。


俺は後ろのサラリーマンに後を押されるような形で電車に乗り込んだ。

なんとなく席には座らずに、立ったままで夜の街を見ていた。


しばらくしていつも降りている駅の名前がアナウンスされ、電車から降りた。降りた後はサラリーマンの姿が少なくなり、罪悪感が軽減されてなんとなく体も軽くなった気がした。


「明日、金曜か。明日は行かないとな。でもやっぱり怖い、、」


中学のお世話になった先生が紹介してくれた学校なんだから、頑張らないとな。


頑張らないと、頑張らないとって、学校に行かなきゃ頑張ってないってことか、?


俺は俺なりに頑張ってるつもりだけど、時間を無駄にしてるだけなのかな。


考え事をしているとあっという間に家に着いてしまった。


俺はゆっくりと恐る恐る玄関の扉を開ける。


今日という1日をまた無駄にした、また時間を、無駄にした。


今日も、「ごめんなさい」って謝らないと。

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