第6話 私が近づきたくて、千夏が離れたくて

「奏ー、みゃーちゃん、おはー」

「おはー!」

「おはよう。怜円れいえんさん」


 無気力な挨拶をする彼女は、怜円千夏れいえんちなつちゃん。


 彼女はいつもダルそうな目をしていて、小柄のせいかサイズの合わない制服を着てて、だらしなく着ているように見えてしまう。

 私よりも明るい茶髪に、セミロングのゆるふわパーマ。寝癖なのか少しボサッてるところが可愛かったりする。


 そんな小柄な彼女には、いつも私の頭の中で小動物の恰好をさせてしまう。

 ハムスター、うさぎ、チンチラ。そんなところだろうか。


「今日も小っちゃくて、ボサボサでかわいーねぇ」

「触んなバカ、アホが移るだろ」


 綺麗な花には棘がある。それは間違っていないと私は思う。

 怜円千夏れいえんちなつという少女は、可愛い見た目にも関わらず、毒をお持ちなのだ。


「そうよ、怜円さんの頭に何かあったらどうするの?」


 ここにも毒持ちがいる。

 雅の毒には耐性が付いているけれど、千夏ちゃんの毒はかなり効く。

 慣れていないだけかもしれないけど、彼女の毒は即効性だ。


「もぉー!そんな汚い言葉使っちゃダメでしょ!どこの口から出たの!?ん!?ここか!?」


 毒が吐かれる度に私はおかしくなってしまう。

 こんなに可愛いのに口が悪いなんてもう、あれだよ、可愛いんだよ。

 どっかの不愛想な奴とは大違い。


 私は彼女の小さい頬を両手でもちもちと揉むと、小さな唇が突き出る。


「ほんと、うぜ、ぇな。早く、離せ、アホ女、そのちいせ、え頭でも、日本語わ、かんだろ」



 私が頬を押しながらでも彼女は喋り続ける。

 嫌なら私の手を払い除ければいいのに、めんどくさいのか、抵抗は一切ない。


 あぁ千夏ちゃん可愛い。癒される。


「ほらまた言った!ダメ、ダメ、だよ?」


 子供好きの保母さんはこんな気持ちなのだろうか。出来れば千夏ちゃんを部屋でお世話したい。


「ほら、それくらいで止めなって」

「あぁー!もっと言われたいぃ!」


 私は雅の手によって無理矢理に引き剥がされた。


「ごめんね怜円さん。顔洗った方がいいかも」

「ん。……平気」


 洗うってそこまで私は汚いのか?

 さすがに傷ついちゃうよ……女の子なんですよ?


「お前の手汗が染み込んだぞ。病気になったら責任とれよ」

「いいよ!ちゃんとお世話してあげるから!任せてっ!」

「大丈夫、触られてる私が何ともないから安心して」

「雅さぁ、さっきから言い過ぎじゃない?」

「うるせぇどっか行ってろ」


 小さな足が私のお尻を蹴飛ばす。

 彼女の言う通りに、そのままふらふらと自分の席へ着いた。

 へらへらと笑う私に優しい声がかかった。


「奏、嬉しそうだね」

「ゆうちゃんも千夏ちゃんの毒に侵されれば分かるよぉ」

「あんまり、分かりたくは、ないかな」


 私は遠目で雅と千夏ちゃんが話しているのを眺めていた。

 雅は、私には決して見せない笑顔を千夏ちゃんに向けている。

 その笑顔に、千夏ちゃんは嬉しそうに俯いていた。照れ隠しなのか、そこがまた愛くるしい。


「意外と仲いいよね、あの2人」

「そうー?私の方が千夏ちゃんと仲いいよー」


 ゆうちゃんは黙って2人を見つめている。

 その後ろ姿はどこか怒っているようにも見えたけど、きっと私の気のせい。

 雅以外には余計な事は言わない。それで喧嘩とかになったら面倒で、悲しい気持ちになるから。


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私の幼馴染は私にだけ不愛想で無表情 あきろん @aki-ron

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