第6話

二人が同じ部屋に泊まる話はとんとん拍子に進みルークは荷物を二人部屋に移した後、一人出掛けて行った。


布団の上に寝っ転がっていると、女将が部屋を訪ねて来た。


「エリーちゃん、部屋は問題ないかい?何かあったらすぐに言うんだよ。」

「はい、大丈夫です。」

「朝は朝食用意してるから。それとネべちゃんは何を食べるんだい。」

「ネべは木の実や果物とか後はパンも食べます。」

「そうかい、じゃあその子には果物とパンを用意しておこうね。」

「ありがとうございます。」


ネべのことを念の為、あらかじめ女将と旦那に言っておいた。最初は魔獣と疑われたが、人に害を与えることはないと説明し、一緒に泊まることを許可してもらった。


エレノアは再びゴロンと寝転び、目を閉じる。


「エレノア様、そのままではいけません。寝る前に着替えてください。」

「うぅん……。」


外はもう夜になっており、幼い体のエレノアは体力の限界が来ていた。今日1日だけで色々なことがありすぎ、これからのことも考えないといけない。しかし、エレノアの意識はもうすでに夢の中であった。


「仕方がないですね…。ゆっくりお休みなさいませ、エレノア様。」


飲みに出ていたルークが部屋に戻ると入り口側のベッドでは丸まっているネべと寝巻き姿のエレノアがスヤスヤ規則正しい寝息を立てていた。その姿を見て深く溜息を溢し、長い1日が終わった。




「…おい、起きろ。」

「ぅんー、………ん?せんせぃ?」


夢現の中、目を少し開けると黒い長い髪の男がエレノアの肩を揺すっている。手を伸ばし、髪を掴もうとするが叶うことなく、ベッドに手が落ちる。


「すぅ…すぅ…」

「はぁ…。」


今度は、無理やり上半身を起こし二度寝させないよう背中を手で支える。


「いい加減、起きろ。」

「…うぅ、まだ眠いですよぉ。」


ゴシゴシと目を擦り、大きな欠伸をする。


「おはようございます。ふたりとも。」

「あぁ、ようやく目が覚めたか。」

「はい、すみません。朝はどうしても苦手で。」

「朝食ができてる。着替えたら下に行くぞ。」


そう言って、ルークは胸の位置より少し長い髪を束ねようとしていると、エレノアが徐に寝巻きを脱ぎだしたのネべは焦り、ルークは無意識に後ろを向き窓の外を眺めながら髪を結う。


「…ルーク、お願いがあります。」


振り返ると、エレノアは白いシャツに着替えていたが、その両手は長い袖で隠れていた。


「袖を捲って欲しいです。一人だとなかなか上手くできなくて。」

「…。」


両手をルークに突き出し見上げるので、渋々、それに従う。どうもエレノアの上目遣いのお願い事には弱いようだ。そんな自分に少し腹を立てる。それを誤魔化すため袖を折ながらエレノアに話しかける。


「今日は何するんだ。」

「ご飯食べた後、冒険者ギルドに行ってみようと思います。ビーネ商店のエンテさんが、ギルドに登録すると薬草の買取や、簡単な依頼を受けることができると言っていたので。」

「ギルドなら俺も用があるから一緒に行ってやる。」

「ありがとうございます!!」


エレノアも髪を結い、ローブを羽織って1階でルークと一緒に宿の旦那が作った朝食を食べる。ネべには昨日女将が言ったように、小さくカットされたりんごとパンが用意されてあった。


「二人とも行ってらっしゃい。」

「行って来ます。」


女将に見送られ、エレノアたちは冒険者ギルドへ向かう。ギルドは昨日食事をした食堂の正面にある。


「そういえば、周りの人たちが"狼"とか"がろう?"ってルークのこと見て呼んでますけど何なんですか?」

「知るか。」


今日も通りを歩いていると、周囲の人が二人を見る。小声で途切れ途切れに聞こえる同じ単語。皆、ルークではなく別の言葉で呼んでいた。ギルドの着くと、更に視線が二人に集まる。


「おい、餓狼だぜ。」

「ちっ、気に食わねーやつ。」

「ガキ連れてるぞ。」

「どっかの令嬢か。」

「餓狼のくせに。」


みんな言いたい放題だ。それに対してルークは全く反応せず、エレノアをカウンターへ案内し受付の人がいるところに座らせる。


「こんにちは、ってえぇ!?ルークさん、このめちゃくちゃ可愛い子どうしたんですか!?」

「こんにちは。」


笑顔で挨拶をしていると、受付のお姉さんは前のめりに見てき少し気圧されている。そんな彼女の頭をルークが面倒くさそうに抑えた。


「いたっ、いたたたた!痛いっ!」


頭を鷲掴みにされ、お姉さんは痛みに悶える。


「ルーク、ダメですよ。優しくしないと。」


チッっと舌打ちが聞こえ後、頭から手が離れ、解放された頭を撫でながら目の前で起こっている光景が信じられず、思わず口から言葉が漏れる。


「…うそでしょ。あの狼を手懐けてる?」

「おい、仕事しろ。」

「はっ!そうね!えっと、ごめんね取り乱しちゃって。あまりにも珍しいことが目の前で繰り広げられてたから。」

「大丈夫です。」

「こいつの冒険者登録しに来たんだよ。」

「よろしくお願いします。」

「依頼じゃなくて、登録?…ルーク、この子とどう言う関係?君、この人と居て怖くなかった?何もされてない?」

「とても親切にしていただきました。宿も同じ部屋に泊まってるんです。」

「……まじか。」


あまりのことでお姉さんの開いた口が塞がらない。


「…いい加減仕事してくれ。」








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迷子の魔法使い 雨瀬和紗 @ka-zusa

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