第5話

一通り自己紹介も済んだところに、料理を持った店員が二人のテーブルにやってくる。そのタイミングでエレノアはポーチから木の実を出しネべにあげる。


「はーい!おまちどうさま!って"狼"じゃん!!」

「うるせぇ…。」

「しかも幼女連れてる!?え、なにこの白いもふもふ!?」

「こんにちは。この子は私の友達です。」

「可愛いっ!!」

「おい。」

「わかったよ、もう。君、いっぱい食べてね!!」


陽気な店員のお姉さんは手際良くエレノアの前に料理を並べ、その場を離れた。運ばれた料理は煮込みハンバーグにコンソメスープ、パンとなっており、美味しそうな匂いが食欲をそそる。


「うわぁ、美味しそう。いただきます。」


さっそくフォークを煮込みハンバーグに差し込むと中から湯気と肉汁が溢れ出す。一口食べるとデミグラスの濃厚さと肉の旨みが口の中に広がり、あまりの美味しさに足をパタパタさせる。


「んー美味しい!!」

「パンは硬いからスープに浸して食えよ。」


ルークはそう言って、パンを一口サイズにちぎり、エレノアのスープの隣に置いたコクコクと頷き言われた通りスープをパンに染み込ませてから口に運ぶ。硬めのパンんは随分と食べやすくなったことで更に食事は進む。


残り少ないところで、皿の上にはハンバーグの付け合わせのにんじんが残っていた。エレノアの食事を見ていたルークも気づいていたが、木の実を食べていたネべは、エレノアを見て皿を残すなと言わんばかりにペシペシ叩く。


「っう…。」


エレノアは仕方なく、ニンジンを口に入れすぐに残り少ないスープで胃の中に流し込む。子供舌な由えあの味がどうしても苦手なのだ。綺麗に完食し、お昼を食べ損ねていたお腹もいっぱいになった。


「ごちそうさまでした。」

「食べたら、行くぞ。」


ルークはテーブルにお金を置き、席を離れる。急いでフードを被りテーブルにいるネべを回収してから後を追う。


「ルーク、宿に行く前に服屋に行きたいです。」

「服屋?」

「はい。今、お金とナイフとネべのご飯の木の実しか持っていないんです。」

「お前…いやなんでもない。ガキの着る服なら、別の大通りのところだな。」

「大人の服も売ってあるところがいいです。」


ルークは怪訝そうにエレノアを見る。


「分かった。」

「ありがとうございます。」


食堂がある大通りから噴水のある広場を抜け、更に進むと1件のお店の前で止まった。


「ここは子供用の服もある。俺は、店の前で待ってるから行って来い。」

「分かりました。すぐに済ませてきます。」


お店の中は、服が壁に沿ってたくさんかけられている。奥から、男性の店員がエレノアのもとにやって来た。


「いらっしゃい。何が欲しいんだい?」

「こんにちは。子供用の服が見たいのと、あと大人用の白いシャツとズボンも欲しいです。」

「分かった。こっちにおいで。」


店員は手招きをし、子供服が置いてあるエリアに案内する。


「子供服はここにあるのだけで、白いシャツはどんなのがいいんだい?」

「女性用のシンプルなものがいいです。」

「お嬢ちゃんが今着ているものみたいなのかい?」

「はい!ズボンもそれ似合う大人の女性用でお願いします。」


エレノアは大人用のシャツを腕まくりしワンピースのようにして着ている。


「分かった。シャツとズボン用意してくるから、先に子供服を選んでいてくれ。」


そう言って、男は壁にかけられている所から、要望のものを探し出す。その間に、エレノアは子供服のエリアから寝巻きに使えそうな、生地の薄い白いワンピースや下着類もあったのでそれも手に取る。


「嬢ちゃん、あったよ。」


店員が1枚ずつ白いシャツ見る。その中から数枚とズボンを1本選び会計を済ませたあと全てポーチの中に納める。


「これ、よかったらお嬢ちゃんにおまけ。」


店員がエレノアに幅が少し太い赤い紐を渡す。


「綺麗。これなんですか?」

「髪紐だよ。私の娘は手芸が趣味でね、よくこういうの作るんだ。君の綺麗な髪に似合うと思って。」

「ありがとうございます!」


受けっとった赤い髪紐で後ろの髪をハーフアップにする。白い髪に赤色が映える。


「似合ってるよ。これは作った娘も喜ぶ。」

「ありがとうございます。とっても気に入りました。」

「また、いつでもおいで。」

「はい。」


フードを被らずにお店を出て、ルークと合流する。その足は浮き足立っているようでどこか軽やかだ。


ルークの前に立ちくるっと後ろに振り向き後ろ髪を見せる。


「見てください!これ、お店の人に貰ったんです。」

「よやったな。分かったから、フード被れ。」

「うわぁっ」


グイッとフードを被せエレノアの頭を軽くポンとして歩き出す。


「次行くぞ。」

「待ってください。」


先を行くルークを追いかけ隣に行き不服そうに見上げる。


「見ました?ちゃんと見ましたか?」

「見た見た。」


その後、日用品店にも寄り生活必需品を揃えてから宿に向かった。案内された宿は熟年の夫婦二人で営んでおりルークが宿泊している宿でもあった。


「あら、ルーク。おかえり。随分と早いじゃないかい?」

「あぁ、一人、泊めたいんだが部屋はあるか。しばらく滞在する予定だ。」

「一人かい?」


エレノアは背伸びをして、ぴょこっとカウンターから顔をのぞかせる。


「こんにちは。」

「あらまぁ、可愛らしい子じゃないの。」

「こいつなんだが。」

「親はいないのかい?子供ひとりはね…。部屋も今二人部屋しか空いていないし。」

「親はいません。お金ならたくさんあります。」

「うーん、そうだね。」


宿の女将が悩んでいると、後ろから大きな男が出てきた。


「おう!ルークじゃねぇか。ん、どうした?」


男は女将の旦那で、事情を説明する。


「それなら、二人部屋にルークとお嬢ちゃんを泊めたらいいじゃねぇか。」


明らかにルークは嫌そうな顔をする。


「おいおい、ルーク。お前この子が心配だから、ここに来たんだろ。そうじゃ

なかったら他の宿に案内したはずだぜ。」

「それもそうねぇ、あんたのそばにいればこの子も安全だしいいじゃない。」

「でも…。」

「遠慮しなくていいのよ。」


エレノアはそっと見上げルークの顔色を伺う。ルークはすでに諦めたようだった。











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