第5話

「え、それで終わりですか」


 やさしい世界に鋭い声が刺さる。


 言ったのは知らない女性2人のうち、髪が長く真面目そうな雰囲気のお姉さんだ。


「話題になって良かったとか結果論ですよね。ちなみ・・・とか放送中に本名言われてるんでしょ? 普通に洒落になってないと思うけど」


 なんやコイツめっちゃ私に言ってくるやん。誰やねん貴様。


 ……あと、ちなみに『ちなみ』というのは松下さんのVtuber名『道惹みちびきちなみ』のことだ。ちなみにね。


 それはそうと、お姉さんの怒りが止まらない。今度は私に直接牙を剥いてきた。


「え、私りりあちゃんのこと言ってるんだけど。聞いてる?」

「えあっ、ぅ、そ、それは……」


 私が答えに詰まっていると、


「ッスゥまあまあ、初めてだからね、しょうがないね。最初は誰でもそういうもんですから」


 社長はギスギスが苦手なのか、ややおちゃらけた雰囲気でお姉さんをなだめた。

 いいぞ社長! もっと私を擁護して!

 さあどうするお姉さん、こっちには社長が着いとるんやぞ!(人間のくず



「……。ま、私関係ないのでみなさんが良いなら別に良いですけど」


 なんか全然良くなさそうな口ぶりだけど、一応納得したらしい。


 一件落着、なのか?


 少し気まずい間があった後、気を取り直した様子で社長が話だす。


「ま、まあまあ、そういうことなので、りりあちゃんも今後はつけてもろて。はい、この話はこれで一旦終わりで! それじゃ、今日の本題に入ります。今日はね、現在いまの『らぶりあ!』のメンバーの顔合わせをしようと思っとるわけですよぉ」


 顔合わせ。だから知らない女性が2人いるらしい。

 社長は話を続ける。


「んでぇ、まず新人のりりあちゃんとあいすちゃんに一期生の先輩2人を紹介! んじゃ、道引ちなみちゃんからどうぞ!」


 そう言って松下さんに話を促す。


 さらっと聞こえた『あいすちゃん』は多分私と同じ新人の名前だ。


「あ、道引ちなみです。一応肩書きはバーチャル教師です。教員免許は持ってないんだけどね。社長は大学の先輩で、そこから誘われた感じです。普段はここリーベカラットのVtuber事業の裏方も手伝ったり、あとはちょっとよそのIT系の会社にも勤めてます。よろしくね!」


 松下さんの話を聞いて、先ほど『あいすちゃん』と呼ばれていた私の同期二期生が「えぇー! IT企業と兼業ってバイタリティありますねぇ!」と驚いてみせる。コミュ強だ。


 松下さんは「いやホントに大したことしてないよ〜」と照れている。


 しっかし確かに、IT企業勤務で社長の後輩とは。ここにきて松下さんの新情報。

 まあとはいえ松下さんは一度会っているので、大体どんな人かは知っている。


 それより、問題はもう一人のほうだ。

 私はその問題の人物に目をむける。


「次にこちらが、教守きょうもりせいかさん。もう一人の一期生です〜」


 そう、次に社長が紹介したのはまさに今さっき私にキレてきたお姉さん。

 せいかさんと言うらしい。


「教守せいかです。バーチャルシスターとしてやらせてもらっています。前職はゲーム会社の企画です。ちなみとは高校の生徒会からの友人です。よろしくお願いします」

「せいかさんはウチの事務所のなかで……って言っても一期生は2人だけなんだけど、一番の人気でらせられるので尊敬してくださいねぇ〜」


 教守せいか(本名は謎)。

 こいつぁ要注意人物だぞ……。


 そう思いにらんでいると、せいかさんと目が合った。やべっ。


 とっさに目を逸らし、横にいる松下さんに目線を映す。そしてさらに社長に目線を映す。

 これぞ、「周囲の人の顔を見ていただけで、別にあなただけを注視してたわけじゃないですよ〜」という高度な『目線言い訳』!


 ──あと、今の話だと松下さんは社長の友達。で、せいかさんは社長の友達松下さんの友達ってこと? 一期生めっちゃ身内じゃん。


 私がそんなことを考えている間に社長たちは話を続ける。


「じゃ、次は新しく二期生をやってもらう2人を紹介しようかなぁ! では、りりあちゃんからよろしく!」

「うぇ、あ、はい!」


 ボーッとしていたので、社長に話すように促され虚をつかれる。


 えっと、何を話そう。


「あの、星色りりあです……」


 どうしよう。な なにか面白いことを言わなければ。

 そうだ、ここは1つ自虐ネタで……


「あのぅ、へへ、私大学を挫折してからずっとニートをやってましてぇ……で、ようやく働くのかと思ったらいきなり例の放送事故をしてしまいましてぇ……ホントに『お前は何ができんねん!』って言う感じなんですがぁw……まじでちょっとADHDと言いますかぁ、フヘヘ、あの、それで──」


 ……おかしいな、あまりウケていない。

 しかも、ウケていないせいでどこで話を終えればいいのかもわからない。

 あ、ちょっと泣きそう……。


 そのとき、松下さんがフォローに入ってくれる。


「あのっ。りりあちゃん、初配信のことはホントに気にしなくていいからね? そんな自分を卑下しないでね」

「え?」


 ど、どういうことだ? 自虐ネタのつもりが心配されてしまった。

 私のユーモアが通じていない。ネタということを伝えなければ……。


「ぁ、いや大丈夫です気にしてないです! 今のはその、ネタというか……」

「……? それならいいんだけど……ほら、せいかが責めるから……」


 そう言って松下さんはせいかさんの方に目線を向ける。

 当のせいかさんは「我関せず」という感じだ。なんかごめん。



 ……しかし、なぜか松下さんに気を使わせてしまった。

 これはもう自虐ネタがスベるとかではない、もう一つ先の次元の地獄だ。


 私が立ち尽くしていると、社長が遠慮がちに言う。


「……えぇっと……りりあちゃん、他に何かあるかな?」

「あ、以上です……」

「ああ、うん、そうしたら次、あいすちゃんに自己紹介してもらおうかなぁ!」


「はぁい♡」

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私以外のVtuberは全員死ね しまかぜゆきね @nenenetan_zekamashi

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