第4話
初配信(放送事故)から1日。
今日の夜には、初配信についてなども含めて事務所で一度話があると連絡があった。
……怒られるのかな。嫌だな。
ともかくそんなわけで、今は自宅で待機。
「憂鬱だ」
私は寝転がり、天井を見つめながらつぶやく。
しかしいつまでも失敗を引きずるわけにもいかない。なにか生産的な活動をしなければ。
私は数秒天井にぶら下がった明かりを見つめ、ある覚悟を決める。
……そう。私もついにやってしまうことにしたのだ。人生初のエゴサーチというやつを。(エゴサーチが生産的活動なのかは諸説ある)
スマホを取り出し、自分のVtuber名『星色りりあ』で検索をかける。
「く、くぅ〜」
検索結果を見るのが怖くて、ジョン・カビラみたいな声を出しながら目をつぶってしまう。
しかしもう見るしかない。見るぞ〜!
私は目を見開き、検索結果を凝視する。
どうだ!
──こ、これはっ!
……『りりあ』という名前の知らない人のアカウントがいっぱい出てきた。
つまり、それほど話題になっていないらしい。それもそうだ。まだ初配信をしただけだし、底辺事務所だし。
しかしその後『星色りりあ 放送事故』『星色りりあ Vtuber』などさまざまなワードで調べていると、一つ掲示板のスレッドを発見した。
【悲報】Vtuberさん、初配信で汚部屋&私服を全公開する放送事故を起こしてしまうwwwww
0003:
誰?
0005:
>>3 星色りりあっていう底辺Vtuber
0006:
まじで誰やねん どうでもええわ
0008:
Vtuberって何でみんなAV女優みたいな名前なん?
すごい! ちょっと話題になっている。
その後さらに検索すると、Xなどでも『星色りりあ』が一部話題になっている。
しかもYouTubeチャンネルの方を確認すると、一気に登録者が増えていた。
これはきてる! きてるぞ!
思わず口角が上がりニヤけてくる。
さらにエゴサをしてわかってきたのは、やはり
・初配信で放送事故
・「ギャル」キャラなのに引きこもりみたいな汚部屋と私服
・パニクって配信中に会社側と通話
ということがウケているらしいことだ。
つまり、放送事故由来とはいえギャル↔︎引きニートのギャップ作戦成功。
やっぱり私、Vtuberの才能があるのかもしれない!!!
困っちまうなぁ、あっという間に人気Vになっちゃうぜ。
- - - - -
日も暮れて、指示のあった打ち合わせの時間が近づいてきた。
ここ最近急に使用頻度が増えたスニーカーを履き、ママに声をかける。
「ママー! またちょっと出かけてくるー!」
「え、こんな時間から? 夕食はいるの?」
「たぶんいらないー」
「えー。もう準備始めちゃったのに……今度からもっと早く言いなさいよー」
不満そうな母親を横目に、家を出る。
場所はまたしても秋葉原で、今度は雑居ビルの4階にある事務所とのこと。
なぜ前回は事務所じゃなかったのか謎である。
と、そんなことを思いながら歩いているとそのビルに到着。
……で、どこから入ればいいんだろう。
正面口には別のショップが入居していて、入り口が見当たらない。
「……ここか」
建物の周辺を数秒うろうろして、横にある階段から行けることがわかった。
入り口付近にはビルに入居している複数の企業の郵便受けがあり、一部は手紙が散乱したまま放置されている。
そこに書いてある入居者の中にしっかり『4F リーベカラット(株)』とあり、少し安心した。
階段を登り、恐る恐る事務所のドアノブを握る。
……緊張するなぁ。怒られるのかな。絶対怒られるよな……。
そんな気持ち&材質のせいでやたら重い扉をゆっくりと開ける。
すると中にはパソコン機材に囲まれた松下さんと社長、それから知らない女の人が2人いた。奥には数人のスタッフ。
何か話している様子で、邪魔になるのではないかと不安になりながら声をかける。
「こ、こんにちは〜。早川です〜」
「あ、りりあちゃん!」
「え、あ、はい! りりあです!」
松下さんに『りりあちゃん』と呼ばれて、普段からVtuber名で呼ばなければならないと言われていたことを思い出した。
そういえば昨日も放送中なのに『松下さん』って呼んじゃったな。
それも含めて即刻謝罪しなければ。
「あ、あの初配信は、あの、ああいうことになってすいませんでした!」
松下さん、それから社長に頭を下げる。
すると答えてくれたのは社長だった。
「いやいや、りりあちゃんは気にしなくていいっすよ。ほら、これ見て欲しいんだけど〜、マ、要するに件の放送事故がちょっと話題になってるのですよぉ」
「そうそう、りりあちゃんは今後気を付けてくれれば良いから」
松下さんもフォローに回ってくれる。や、やさしい世界……。
……ま、まあ結果出てますからね! あれで登録者増えてるわけですから。
みんな気にしてないみたいだし、私が気にしすぎだったのかもしれない!
「すいません、ありがとうございま……」
「え、それで終わりですか」
──やさしい世界に鋭い声が刺さる。
言ったのは知らない女性2人のうち、髪が長く真面目そうな雰囲気のお姉さんだ。
やっぱり怒られるのか……!?
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