第3話

 初配信の日はあっという間にきた。


 結局あの後、他メンバーなどについて新たに知らされることはなく、あったのは私の初配信とその配信環境についての指示だけだった。


 まじでこれ大丈夫なの?


 まあとにかく、社長の言っていた「最初はギャル風に振る舞って、その後 陰キャ感を出してそのギャップでウケをねらう」という作戦に従ってやってみるしかない。


 もしかして、他のVtuberもこうやって戦略的に陰キャラ営業したりしていたのかな……なんかやだな。


 いやいや、余計なことを考えている場合じゃない。



 私は指示された通りに配信ソフトO B Sを操作し、配信を開始する。



コメント:

>ざわ……ざわ……

>キターーー

>うおおおおおおおおお!!(`•ω•´)/

>これどこの事務所?

>きちゃ!



 ぽつり、ぽつりとコメントが流れ始める。


 今のところはまとまりを欠いた、ネットによくあるちょっと寒いノリという感じだ。


 同時接続者数は少しずつ増えて20人、30人、35人……え、こんなに少ないの?


 まあ、もともと一期生が2人しかいないし底辺事務所だしこんなものか。


 よ、よし、行くぞぉ……


「こんにちは! 新人Vtuberの星色りりあだよ〜☆」


コメント:

>こんにちは〜☺️ 最初の挨拶はこれから決めるのかな?

>ちなみ先生の配信から来ました! かわいい!

>なんか音プツプツしてない?💦

>あれ? 音が……😥


 ……なんか、一人で画面に向かって話すって変な感じがする。


 ん? え、ていうか何? 音?


「え、音がおかしい? ちょ、ちょっと待ってね」


 いや、音がおかしいとか言われてもどうすればいいかわからないんだけど。


 どこを設定すれば……メディアソース? 映像キャプチャデバイス……いや違うか?


 あ、やばい間違えて押しちゃった。


「ちょ、ヤバいんですけど〜! 音がおかしいのってマジどうすればいいのー!笑 いやマジで〜」


 というか、ギャルの喋り方ってこれであってんの?


 いや、それよりもとりあえず音をどうにかしなければ……


コメント:

>開幕早々放送事故で草

>遅延の設定が悪さしてるのかな🤔

>うちは聞こえるよー👍


 えーっと、この間違えて押したのはどうやって消せば……logicool VCAM-56lv? あれ? 私のマイクってlogicoolだっけ?


 まあいいやとりあえずOK……っと。


コメント:

>!?!?!?www

>え、なんかめっちゃ部屋映ってるけど大丈夫😰?

>え? 何これ💦

>まじで放送事故じゃん


「みんなー! 音大丈夫かな? じゃあ早速自己紹介……ん?」


 急にコメントの速度が速くなる。


 おっと、これは……どうした?


 コメントの不穏な文字が目に入ったので配信画面を確認する。




 まず、奥には、見慣れた薄暗い汚部屋が、映っている。


 そして手前には、私が来ているのと同じヨッレヨレの痛Tシャツを来た人物の下半身が、映っている。



 ???????????????????????????????????????????????????????????


 あっ


 これは


 机の上に転がっているWebカメラが目に入る。


 すぐさまそれを手で押さえ、そのまんま掴んでレンズを床に押し付ける。


 あ……


 あっぶねえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!


コメント:

>え?ww

>ガチ放送事故やんけ!

>とんでもない超美麗3Dダァ(白目)

>めっちゃ部屋散らかってて草

>まじで大丈夫…? 面白さよりも心配が勝つよ😥



 心臓がドックン、ドックンと音を立てている。


「あっ、えっと、」


 言葉が出ない。あれ、これ、どうすれば……


 次の瞬間、電話がなる。


「あれ? え? 松下さん?」


 電話を取る。


「も、もしもしぃ」

「あ、りりあちゃん!? ちょっと一回配信とめて!」

「え、でもまだ途中なのに」

「良いから! 間違えて顔が映らないようにカメラは押さえたままで!」

「えぁ、は、はい!」

「配信止める順番は覚えてる?」

「いや覚えてないですけど、グループLINEに送られてきたやつを見れば……」

「じゃあそれでも良いから早く!」

「はいぃ」


コメント:

>マネージャー参戦で草

>松下さんって誰? これ聞いて良いやつ?😥

>松下マネ介入草


「そ、そんじゃあリスナーの皆さん! ちょっとマジでトラブったので配信やめますよー☆」


 もうギャル口調もめちゃくちゃだ。


 視聴者にそう言った後は、指示に従って配信を止める。


 カチ、カチ、カチ……と数回の操作で配信がオフラインになった。


 そうして部屋は、静寂に包まれた。



 ────や、やってしまった────。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る