第2話

 そして迎えた面接当日。


 急に出かけると言い出した私をママが心配していたが、私はもう大人だ(22歳)。


 あのあとメールからLINEに誘導され、そこで詳細な場所などが伝えられた。


 それに従い、秋葉原駅で降りる。


「えーと、面接場所は……」


 指示された住所を見ながら歩く。


 そしてたどり着いたのは……ん?


 ──そこにあったのは、マクドナルドだった。


「ん? んんん?」


 マックで面接ってこと? そんなわけある?


 しかしそのときLINEで「申し訳ありません、少し遅れます。お伝えした場所でお待ちください」と送られてきた。


 仕方ないので、適当にSサイズのジュースを買って席に座る。


 うーん、なんだかなぁ。



 しばらく窓の外を眺めていて、はたと気づく。


 ……ちょっと待って。


 これ、『闇バイト』なのでは?


 今話題の、ネット上で仕事の募集をうたって人をおびき寄せて、脅して犯罪に加担させるっていう……。


 そう考えたら、それしかないような気がしてきた。


 だっておかしいじゃん。


 この前はテンションが高い日だった(社不特有の躁鬱)から「私ならVtuber余裕」とか言ってたけど、冷静に考えたら引きこもりで大した実績もないし、普通は選考受かるわけないし!


 やややばいこのままじゃ私犯罪者に……!?


 そのとき、後ろから声をかけられた。


「あのー、すいません。早川あやせさんですか?」

「ひ、ひいいぃぃぃぃ! ぁ、いや、違……す、すみません私そんなつもりじゃなくてぇ! 許してくださいぃ!」

「え? あの……すいません、早川さんですよね?」

「えぁ? あ、あの」


 恐ろしくて閉じた目を開くと、目の前にいたのは落ち着いた感じの優しそうなお姉さんだった。


 え、もしかしてこれ闇バイトではない?


「あ、えーと。私が早川あやせで合ってます……」

「ああ、よかったー! 本当遅れてすみません。社長ももうすぐ着きますから」


 お姉さんはカバンを下ろし、私の向かいに座る。


「あ、私は『らぶりあ!』でライバーをやっている松下のぞみです! よろしくね!」

「ぁ、よろしくお願いしますぅ……」


 松下さんは落ち着いた感じの私服で、大人な雰囲気。


 彼女はどうやら先輩のVtuberみたいだ。


 このあと社長が来るらしい。


「……。」


 ──少し気まずい間があって、社長らしき人がやってきた。


「遅れてすんませーん! 社長の星野です〜」


 Tシャツの上からジャケットを着た格好で、老けた大学生みたいな雰囲気のオッサンだ。


 私たちの方に小走りで来て、松下さんの横に座る。


「ッえーでは、面接をはじめます。まず、僕らの自己紹介からでぇ。えーとまず僕の横にいる松下さんね。この子はうちのライバーで、今回みたいに手伝ってもらうこともある感じです、でぇー、僕が株式会社リーベカラットの社長をやってる星野です。よろしくお願いします早川さん」

「あ。よ、よろしくお願いしましゅ」


 すごい早口だ。


 それにしてもうさんくせえな、この社長……。


 社長は話を続ける。


「えー、でまあリーベカラットは僕が大学いるとき作ったベンチャー企業みたいな感じなんだけどぉ、まあ2018年くらいかな? そんでまぁ、これからの時代VRとかメタバースとか、そういう技術のデカい波が絶対来るって思ったわけですよ。そういうコンセプトで、まあAR Kitとかってわかる? まあそれとかでアプリ開発とかやってたんだけどぉ、まあいつの間にかVtuber事業にも参入してなぜか今はそっちがメイン事業みたいな? 感じです(笑)」

「な、なるほどぉ」


 なんか言ってるけどなに言ってるかわからん。


 松下さんの方を見るが、慣れた様子で聞き流している。


「でまあ、早川さんはまあもう半分合格みたいな感じで、今日は説明会? みたいな感じ、なん、です。ッスゥーでぇえー、まあ早川さんに担当してもらうキャラクターはこの子になるんだよね」


 そう言って社長はステッカーのベタベタ貼られたMac Bookの画面をこちらに向ける。


 『星色りりあ』と書かれたそのキャラクターは、金髪でオタクが思い描くギャルという感じの見た目。


「えーでまぁ見ての通りギャルっていう設定なんだけど。まず早川さんて、確か引きこもりみたいな感じなんよね?」

「ぁ、そうです。へへ……」

「なんでまぁ、そこのギャップ狙い、みたいな? ギャルっぽいキャラで最初デビューしてさ。その後で中の人は陰キャなんかい!みたいなそういうマーケティング? あのほら、初期の委員長みたいなさぁ! 清楚キャラかと思ったらムカデ人間で清楚じゃないやんけ!みたいなさぁ!」

「社長、ちょっと声大きいです」


 松下さんが社長をなだめる。


「ゴホン、ごめん、昔から張り切ると声大きくなるんだよね。オタク特有の早口みたいな、ヤムチャが武道館でうんぬんみたいな(笑)。でまあ早川さんにお願いしたいのはそういうキャラ付けなわけ。おk?」

「お、おけです……」

「はい。じゃーもうちょい細かい話をしてこうと思うんだけどぉ──」




 - - - - -




「──っていう感じなわけ。で、早川さんの先輩には松下さんも含めて2人、一期生がいて、でぇ早川さんの同期の子つまり二期生はちょうど今メンバー集めてる最中って感じです。っであと、あ、今日は本名呼びだけど、普段はコラボのときとかに間違いがないように、メンバー同士はキャラ名で呼び合って欲しい感じになります。と、まあ、今話すことはこんな感じかな? 松下さんは何かある? 大丈夫?」

「大丈夫です」

「っはい、では今日はこれで終わりです。また追って連絡しますんで、そんときはよろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします……」


 その日はその場で解散になった。


 ……これ、大丈夫なのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る