私以外のVtuberは全員死ね

しまかぜゆきね

第1話

 

 ところどころでハッキリ、でも全体としては朧げな記憶。


 あれは確か、家族で私の好きなアイドルのライブに行った帰りだった。


「わたし、あいどるになる!」


「おおー、そうかそうか。あやせは可愛いからな。絶対なれるぞ! パパも応援する!」


「へへへ。ママもいっしょに、わたしとあいどるになろ!」


「ママはちょっと難しいかな……」


 わたしこと早川あやせはアイドルに憧れるごく普通な小学生だった。


 でも今思えば、15年前のあの頃が私の人生のピークだった気がする。




〜そして現在、2024年〜




 暗い部屋。


 にごった空気。


 部屋に響くのはパソコンのキーボードの打鍵音。


 わたしこと早川あやせ(22)はプライドの高さ以外成長しないまま大学中退ニート生活をむさぼっていた。


 生きがいは、インターネットを見ながらインターネット上の他人を見下して自尊心を保つこと。


「ズズズズズ」


 エナジードリンクをすする。


 部屋の中には大量の段ボールやエナドリの空き瓶が放置されていて、甘いような、薬品っぽいような、異様な匂いを発している。


 今日も今日とて何もする気が起きないのでネットサーフィンをしていたけど、それすらも退屈になってきた。


 いくら広大なインターネットの海といえども、毎日一日中見ていれば飽きる。


 そうして立ち上がるも、猫背がひどいせいで血行が悪いのか、激しい立ちくらみに襲われる。


「あ、あああ、うっぷ」


 やばい、さっき食べたカップ飯with納豆がリバースしそうなんだけど……。


 部屋にこもりはじめて数年経つが、ここ最近はいよいよ何か生存に最低限必要な気力のようなものが失われてきている気がする。


 ったく、このままじゃ数年後には人生も中退ENDまっしぐらだっぜ!



 ……閑話休題。さて、立ち上がったはいいものの、何もやることがない。


 Xツイッターでも見ることにしよう。


 ベットに寝転び、スマホを起動する。


 いや、というか使ってる道具をPCからスマホに変えただけで、結局やっていることは変わらないじゃんこれ。人類の歴史か!(教養にあふれるツッコミ)。


 適当におすすめトレンドを巡回する。


 暗いニュース、切り抜き動画、政治、切り抜き動画……「特集・若手起業家」「話題沸騰・天才女子高生シンガー」?


 はぁ……しねよまじで。


 私と同世代、ましてや同い年・年下で活躍している人を見ると、こう、殺意に近いモヤモヤが込み上げてくるな。


 どこの誰だか知らんやつよりも、もっと私をほめてよ、世間は。許せねえぜまじで。全世界の私より年下のやつは全員無能であれ。


 女子高生シンガーて。歌声って生まれながらのものですよね? それで人を判断するって、それってぇ、歌声差別ですよねぇ!!?


 ムカつくから人生初の誹謗中傷でもしようかな……。VPNを通せばバレないのでは(※ノーログVPNを使うとIPアドレスの隠蔽が可能とされている)。


「えー、『若いだけで評価されているコイツは女子高生ブランド使えなくなってからが地獄()』っと……」


 そのままツイート……しようとして、やっぱりせずに消去した。


 ふぅ、落ち着け。私は今までROM専でやってきた。


 なぜか。


 私がツイートをした瞬間、私は多数のユーザー中の一人になり、ツイッター上の多数を見下すことができなくなってしまう。


 ROM専のまま「ぬは、今日もトゥイッターでは不毛な争いが勃発してますなぁww」と高笑いポジションを確保することで、私は全てのSNSユーザーより優位に立ち心理的マウントをとることができるのだ❗️(LINEでしか使わない『!』)



 と、そういうわけなので気を取り直して何か他に面白そうなものを……。


 そういえば最近はVtuberも見てない。ちょっと覗いてやろうかな。


 適当に有名どころのアーカイブを開く。


コメント:

>うん

>かわいい!✨

>めっちゃ良いと思う😄

>そうだね笑

>おもしれー女


 ケッ、チヤホヤされやがって。こんくらいガワLive2Dモデルがあれば私でもできるわ。こいつも視聴者も早よぅしねよまじで、意味ないんだからよ。



 あ、そうだ。


 私もVtuberやってみようかな。


 CGにのせて喋るだけの簡単なお仕事でしょ?


 中学高校では女子友達から「あやせちゃんってめっちゃ喋るよね。YouTuberとか向いてそう(笑)」と言われたし。

(あと「パソコンとか詳しそう(笑)」とも言われた)


 しかも引きこもりニート属性なんか珍しいだろうし、大手事務所も余裕かもしれない。


 ふふふ、これで登録者100万人になって、今まで現実でもインターネットでも私みたいなのをバカにしてきたやつらを見返してやる。


 あ、そうだ。人気Vtuberになったあかつきには、さっきXで見た女子高生シンガーとコラボをしてやってもいいな。よーし。



 さっそく私は立ち上がり、再びPCをつけてGoogleに「新人Vtuber オーディション」と入力した。


 ──そう。これはダメダメな私が、ひょんなことから大手Vtuber事務所に所属し、伝説を生む物語!




- - - - -




 そう。これはダメダメな私が、ひょんなことから大手Vtuber事務所に所属し、伝説を生む物語だ……


 ……そのはずだったんだけど。


 あれから数日、書類選考の合格通知が来ない。


 書類は有名事務所から無名事務所まで、何ヶ所か送った。


 しかし今のところどこの事務所からも連絡が来ないor不合格通知 しかない。


 今日が合否の期限なので、さっきからずっとメールの更新ボタンを押している。


 これはつまり──先方のミスかな。


 困るなぁ、社会人はきちんとやってくれないと。


 そんなふうに画面とにらめっこしていると、一つだけ『一次選考通過』すなわち合格と書かれたメールが目に入った。


 送り元は……Vtuberグループ『らぶりあ!』を運営する株式会社リーベカラット。


 まぁ、底辺事務所だ。


 とはいえ、ようやく一つ目の合格。


 ここから大手事務所まで一気に行くぞ!




 - - - - -




 結局合格したのは、『らぶりあ!』だけだった。


 うん……まあ、書類だけで私の魅力に気づくのは難しいか。


 結局私が得意なのはアドリブ? ライブ感? だしね!


『らぶりあ!』の方はというと、今度対面での面接があるとのことだった。


 正直外に出るのは久しぶりなので勇気がいる。


 でも面接は喋りが売り(?)の私の得意分野だもん! これはいける!

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