泥沼

はるむら さき

泥沼

どろどろしていて、気持ち悪い。

あの子と一緒にいる時は、私の心はいつも汚い灰色になる。

この気持ちは「不快」「嫌悪」その他諸々、国語辞典に載っているありとあらゆる嫌な言葉を全部混ぜても足りないくらいのよくわからないぐちゃぐちゃな感情だ。

でも、言葉にしなくたって皆が知ってて、皆が持ってる感情だ。

汚い灰色の自分になるのが嫌で、皆が皆、あの子の側にいることを、自分よりやさしい誰かに押しつける。

そうして、盥回しにされて、ないがしろにされていることにあの子も気づいているから、やさしい人ほど、どんどん、どんどん、あの子の口から吐き出される、汚いどろどろした言葉にまみれて、苦しくて息もできなくなる。

だから、自分の呼吸が途切れる前に、もっと、もっと、やさしい人にあの子を預けて、そこに二度と戻らない。

ねえ。

では、いちばんやさしい人はどうなったと思う?

あの子の汚いどろどろした言葉に溺れて、どこまでもどす黒い灰色の塊になって、呼吸も止まってしまった。

そして、ついにはあの子になった。

そのうち世界中があの子になるよ。

皆が皆、あの子になってしまう前に、やさしい人の隣にもう一人誰かがいて、誰かと誰かであの子の話を聞いてあげれば、こんなことにはならなかったのにね。

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泥沼 はるむら さき @haru61a39

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