近所の公園に行ったんやけど

おくとりょう

どろあそび

 公園に遊びに行ったら、男の子がいてん。

 今どき珍しい和服の男の子。他には誰もおらへん公園のど真ん中に、ポツンと立ち尽くしてた。せやから、つい気になってしもて、こっそり近づいてみてん。

 そしたら、その子な、服は泥まみれで、顔は鼻水と涙でぐっちゃぐちゃ。なんか、人形みたいに立ち尽くしたまま、しくしく泣いてはってん。声がガラガラやったから、長いこと泣いたはったんかもしれへん。


 声をかけるべきか、放っておくべきか。どないしよかと途方にくれてたら、その子が何か小さく言ったはるんが聞こえてん。

「……こわれちゃったよぉ。

 祠が、こわれちゃったよぉ」

 年端もいかへんような男の子の口から、「ほこら」なんて言葉が出てくるとは思わへんくて、ボクは「へぇ」と感嘆の息を漏らしてしもた。


 そしたら、ビクッ!って、男の子はこっちを振り向いて、ボクのことをじーっと見てん。キラキラした真っ黒なまん丸お目々。それがだんだんウルウルし始めたかと思うと、まゆ毛がキューッと八の字になって、小さい口を大きく開けて、わんわん泣き始めてん。

 ……いや、ちょっと話盛ったかもしらん。「わんわん」ってほどは泣いてへんかったかも。というか、声がガラガラで口から声が全然でてへんかった。

 とにかく、めちゃくちゃ大泣きするもんやから、ボクはもう困ってしもて。

「大丈夫、大丈夫。ボクが祠のつくり方教えてあげるから」

 って言ってしもてん。そしたら、男の子はピタッと泣きやんで、あのまるい目でじっと見つめてくんねん。

 ボク、別に祠のつくり方なんて知らんかったんやけど、もう今さらそんなこと言えへんくて、とりあえず、その場で小さい土山つくって、そこに穴掘ることにしたんや。要は、泥遊びやな。

 男の子は最初、きょとんとした顔で眺めてたんやけど、ボクが泥遊びしてるって気づいてからは一緒に土山かためたり、穴掘ったり、服が汚れるのも構わず楽しそうにしてたわ。

 そうこうしてるうちに、日が落ちて、暗くなってきたから、「もう帰る?」って聞いてん。

 そのときには、会ったときよりもドロドロのぐちゃぐちゃになってたなぁ、あの子。ボクの言葉にすこし寂しそうな顔をしたけど、「また明日」って言うと、だまって元気にうなずいてた。

 家まで送ってあげようと思っててんけど、あっという間に走って帰ってしもた。この辺住んでる子やったんやろか。

 ほんで、ボクも楽しい気持ちのまま帰ったんやけど、家に着いてめっちゃびっくりしたわ。

 だって、ぐっちゃぐちゃに壊れてるんやもん、ボクの家。こりゃ明日もあの子と一緒に泥遊びせなあかんわぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

近所の公園に行ったんやけど おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ