第5章:「最終局面、そして決着の時」
5-1:「制圧戦苛烈 王女、その内で果敢」
自衛隊各隊は、ついにエーティルフィ城へと踏み込み。その掌握制圧戦を開始した。
「――GOGOGOッ!」
王城内を通る、広く空間の取られ荘厳な造りを見せる廊下通路。
その内に並ぶ扉、部屋の一つがまた蹴破られ。
壁側に並びカバー待機していた陸自の一個分隊が、流れるように突入していく。
その傍ら、別方をまた制圧掌握に向かうべく。他の分隊が騒々しく駆け抜けて行き。
その向こう近くでまた別のチームが、別の部屋を破り踏み込む。
そしてそこかしこより、絶え間なく響く銃声。
城の内の確保制圧は、流れるようにしかし苛烈に進んでいた。
「ぅぁ……っ」
「くぅ、こんな……っ」
廊下同士が交差して小規模なホールを形成する空間。
そのど真ん中に、ダークエルフの男女たちの並べられた光景がある。
その姿はいずれも衣服を剥がれ裸に剥かれ、首輪と鎖で繋がれている。
ダークエルフたちは、このミュロンクフォング王国の近衛兵に侍従侍女たち。しかし今国に城を支配占拠する帝国軍に捕らわれ虜囚となった立場。
今に見える光景は、そんなダークエルフたちを利用した。ここまで散々見て来た帝国軍の策たる肉の盾。
そしてその背後では帝国軍の一部隊が篭り配置。しかし不利な状況にある帝国兵たちは、焦り少なからず狼狽えた様子で、声を荒げている。
――劈くような破裂音――銃声が響き。
その肉の盾の向こうに籠る帝国兵の一人が、しかし肉の盾たるダークエルフたちを置いて。もんどり打ち弾け飛んだのは瞬間だ。
「ひっ……!?」
「うぁ……っ!?」
それに、間近にいたの侍女のダークエルフの若い女が悲鳴を上げ。またダークエルフの青年近衛兵が動揺の声を上げる。
しかし直後には、それすらを遮り掻き消すように。
次に、次にと、劈き空気を切り裂く何かがダークエルフたちの頭上を掠め抜け。背後に籠る帝国兵たちを射ち屠り始めた。
「な、なに……!?」
思わず身を竦め屈めたダークエルフの若い女が。同時にホールより伸びる廊下の向こうに見たのは、何か得体の知れない様相、緑色の衣服装備の者等。
――それこそ、自衛隊部隊。
今の事態現象は、その内の選抜射手や狙撃手の開始した。ダークエルフたちの肉の盾を越えての、精密射撃による帝国軍部隊の排除であった。
それによって。ダークエルフたちを越えて、次に、次にと射ち弾かれ倒れて行く帝国兵たち。
「ひ……いや……っ!」
しかし、正体は不明ながらも明らかな攻撃の物と分かるそれが。まるで肉の盾とされている己達すら構わずの様子で飛び抜けるそれに。
ダークエルフの若い女は危険、恐怖を感じて。怯えの小さな悲鳴を漏らす。
「――臆するなっ!狼狽える必要は無いっ!」
しかし、そんな女にダークエルフたちを。宥め落ち着かせ、そして激を飛ばすかの様相で。
透る可憐な、しかし確かな意志を込めた声が、廊下の向こうより響き聞こえたのはその時。
そしてその姿が見えたのは同時。
「!」
ダークエルフたちはその声と姿に覚えが。いやそれを聞き、見間違えるはずは無かった。
「ミュロンクフォングの民としての、矜持を確かに持てっ!この我が――第三王女、ミューヘルマが戻ったっ!!」
そうそれこそ、己たちが使える存在、王女。
ミューヘルマ第三王女のものであった――
ホールより伸びる廊下を、挟んで越えた向こう側。
そこに在るは、その場に展開配置して戦闘排除行動をすでに開始している自衛隊部隊。
正確には会生等の観測遊撃隊と、第32戦闘群からの一個小隊に、第12戦闘団からの一個小隊。
そしてそれに同行しているミューヘルマであった。
「ミューヘルマが王国に、救いの手を伴い戻ったっ!希望はすでにここにあり、絶望は間もなく打ち砕かれるっ!」
各隊各員の内の選抜射手に狙撃手が、帝国軍部隊の手たるダークエルフたちの肉の盾を、しかし臆さず物ともせず。
精密射撃によってその合間、隙を突き。向こうに籠る帝国兵だけを的確に撃ち仕留めて行く中。
ミューヘルマはその内で堂々と立ち構え、自らの臣下たるダークエルフたちに姿を見せ、訴える言葉を発し上げている。
優然で勇敢たるまでのその様相。
それはそれまでの護られる姫君から、民を導く王女へとその心身を覚醒させた、彼女の見せる姿だ。
「ここに参上するは、手練れの射ち手等!悪しきのみを屠り、皆を傷つけはしないっ!信じろ、臆すことなく気丈にあれっ!!」
さらに続け、臣下たちに向けて訴え発し上げるミューヘルマ。
「ミューヘルマ様……!」
「王女様……!」
そんな、己たちの使え良く知るミューヘルマの。しかし記憶にあるまだ幼さの残る少女とは違う、驚くまでに様相を変えた勇敢な形での登場に。
ダークエルフたちはそれまでとは別の、驚きの声を口にする。
「グソ……小癪なァ!」
「うぁ……!?」
しかし、その内の青年近衛兵の体が突然に捕まえ掴み上げられたのは直後。
それを行ったのは帝国兵のオーガ、この場の指揮官級。
状況に急き焦り、そして煩わしく思ったのだろう。オーガは青年を肉盾として利用し、己たちの側から討って出る手段に繰り出たのだ。
それに同調し、籠っていた帝国軍部隊の兵たちも動きを見せる。
「帝国兵の諸君にも伝える!最早姑息な手段で覆せる状況ではない、我らミュロンクフォングの民は、そのような小手先に臆しはしないっ!」
しかしミューヘルマはその動きを見せた帝国兵たちにも、勇敢なまでの姿を見せ、訴える声を張り上げる。
「下がれェッ!」
しかし次にはミューヘルマは、近場に居た観測遊撃隊の舟海に。王女という身分も構わずにその首根っこを掴まれ、遮蔽物としていた近くの大柱に引き摺り込まれた。
帝国兵の寄越した矢撃が、今までミューヘルマの立っていた場所を掠め飛び抜けたのは直後だ。
間一髪にそれを逃れ。ミューヘルマは大分雑に、放り込む勢いで柱に隠されカバーさせられる。
入れ替わるように百甘が柱より半身を出し、M240Bを突き出し。押し上げて来た帝国兵たちに向けて牽制、脅しのための機関銃火を唸らせ始めた。
そして向こう、廊下のど真ん中では。お約束のように会生が堂々と立ち構え。愛用の得物たる10.9mm拳銃を片手で突き出し構え。押し上げて来た帝国兵たちを迎撃すべく、唸らせている。
「我が民よ、臣下よ!恐れるな、臆するなっ!悪しき企みは間もなく潰え、道は切り開かれるっ!」
その背後で、苛烈な状況からやや雑になった己の扱いにも、今の危機一髪の状況にも。しかし一切の臆し怯む様子など見せる事無く。
ミューヘルマは各員の迎撃行動の苛烈さに負けじと。臣下に向けた張り上げる声を、堂々たる色で張り上げ続ける。
それこそまさに、彼女の「覚醒」を確かに表すものであった。
「グソォ……っ!」
青年を肉の盾として利用し、廊下を最早自棄の域でズカズカと押し上げ進める指揮官級のオーガ。
しかし、その途中で。
それを潜み待ち構えていた存在が、仕掛け襲った。
「――ヅァッ!?」
瞬間、響いたのは鈍い破裂音――発砲音。
そしてオーガの片足を、鈍くも痛烈な衝撃と、鈍痛が走り襲う。
見ればオーガの太い片足は、しかし大穴が開いて半分欠損。そして次にはオーガは、それによって巨体をグラと崩した。
「――入ったッ」
それを成したのは、オーガの近場。そこにある柱に潜んでいた存在。
M870MCSショットガンを構え、待ち構えていた第32戦闘群の隊員。
その隊員の待ち伏せからの襲撃射撃が、オーガの真横の隙を取り、そして襲い崩したのだ。
「――チィェストォォォッ!!」
そして、そのショットガン装備の隊員が引いた瞬間。入れ替わりに柱より飛び出したのは、件の第12戦闘団の日本刀持ちの二等陸士。
二等陸士は奇声の如きそれを劈かせながら、床を蹴り飛び。直後には片脚を折ってその巨体を崩したオーガに肉薄。
――ズ ッ パ ァ ッ、と。
肉を断ち切る鈍い音が響く。
最早明白。それは二等陸士の薙いだ日本刀が、オーガを襲った音。
「き゜ァッ」
妙な音がオーガより上がる。
オーガの身は、その首横から反対の肩に掛けてを。横殴りで襲った日本刀の刃に切断され、見事に体より〝分離〟。
次には本体より別れを告げたそのオーガの首は、ドチャリと床に虚しく落ちた。
「ひっ!?――ぎゃぇ!?」
狼狽え悲鳴を上げたのは、指揮官のオーガに続いていた一体のオーク兵。
しかしそのオークからも、次には悲鳴と血飛沫が上がった。
それを成したのは反対別方の柱にまた潜み待ち構えていた、また第12戦闘団の隊員のその火器による射撃。
そこからは、あっけなかった。
指揮官を失い、側方を取られ。
肉の盾を頼りに、焦り自棄のそれで押し上げて来た帝国兵たちは。しかしそこに来て面白いように瓦解。
側方からの銃火に。さらにそれにより崩れた所を、正面からの密な射撃攻撃に撃たれ。
――程なく、一人も残すことなく床に沈む末路を迎えた。
「――クリアーッ」
「残敵ナシッ!」
場に、敵の姿が無くなり。
各隊各員がそれを確認、知らせ張り上げながら。繰り出て来て展開、周囲の確保掌握に当たり。合わせて人質となっていたダークエルフたちの保護回収へと向かって行く。
「っぁ……こんなことが……?」
その最中で、呆けるまでの驚く色で居たのは。オーガの手より、肉の盾の立場より解かれ身を崩して置いていた、ダークエルフの青年近衛兵。
「――大丈夫か?」
そんな所へ、その青年に声が掛かる。
主は、今にショットガンにてオーガに初撃を叩き込んだ第32戦闘群の隊員。
「怖かったな、よく頑張った――〝お嬢ちゃん〟」
そしてしかし、隊員は次には青年に向けて。宥める言葉と合わせてそんなワードを紡いだ。
「お、お嬢……っ?」
それに少しの戸惑いを見せた青年。
ミュロンクフォングの民のダークエルフは、若くから老いた者までもが皆中性的で美麗な顔を持つ。
地方の村などを訪れた旅人が、村の子供の男の子かと思い話しかけたら。実は村の最年長の長老であったなどという珍事も、しかし珍しくない。
そんな御多分に漏れずの容姿の青年を。ショットガンの隊員は女、少女と間違えそんな言葉を送ったのだ。
「ん?あッ――悪い、嬢ちゃんじゃなくて兄ちゃんかッ」
その反応と、そして今は一糸纏わぬ青年のその体つきから、隊員はしかしその事実に気づき。
そしてこの異世界に来てから、ようやく馴染みつつある「そういうケース」である事に思い当たり。
隊員は「おっと」とでも零すような色で、謝罪の声を向けた。
「――無事ですか?」
そんな、少しの珍事がまた起こっていた所へ。。透る声での案ずる言葉が傍より掛かる。
「!、ミューヘルマ王女様……!」
それに目を引かれ、そして見えた姿に青年はまた別種の驚きの色を浮かべる。
歩み近寄り、そして青年の前に立ったのは、他でもないミューヘルマであった。
「ミューヘルマ様!」
「王女様!」
「っと」
そして、他に虜囚と、肉の盾とされていたダークエルフたちも。その身を解かれ、見つけたミューヘルマの元へ一番に駆け寄って来る。
それに少し驚くショットガンの隊員。
そして一糸纏わぬ姿も構わぬといった様子のダークエルフたちに。数名の隊員が少し困りつつも追いつき、自分の上着なり、近場の部屋から拝借したシーツなりを羽織らせる。
「申し訳ありません……!帝国の暴虐を許し、私共は虜囚と落ちる様を晒しました……!」
ミューヘルマを前に集ったダークエルフ達は。
青年近衛兵を始め、一様にまずは一番にその前で膝を突き。そして青年近衛兵が言葉を紡ぐ。
それは近衛兵として、または国の護りを預かる立場として。帝国の手より国を護れなかったことを謝罪するものだ。
「……兵よ、そして皆。私が認めないのは……あなたたちが己を責める事です」
「!」
しかし、ミューヘルマが返したのはそんな言葉。そして同時に、ミューヘルマは自身が纏っていた衣服の上着を、青年へ掛け羽織らせた。
「恥があると言うのならば、それはおめおめ逃げ出した私も同じ。そして認められぬは、それをただ嘆くだけでいること――これよりの反旗を翻すべきに、目を向けないことですっ」
そしてミューヘルマは、毅然とした色でそんな訴える言葉を続け紡いだ。
続けてミューヘルマは目の前の青年に、静かに優し気に己の手を差し出す。
「さぁ兵よ、皆よっ、今よりその時ですっ。彼等が――ニホンの地よりのつわもの等が、それの力強い助けとなってくれますっ!」
そしてミューヘルマは、その青年近衛兵の手を取り。
今も周囲で掌握制圧のための行動を展開する、自衛隊各隊各員の姿を、臣下の皆に促し見せながら。
凛とした声で訴えた。
装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路― EPIC @SKYEPIC
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