ホスピタル・ラブストーリー 〜自殺未遂した美少女はヤンデレで僕にめっちゃ懐いてきます〜

夜幻 伊月

第1話 ヤンデレ美少女瑠奈ちゃん

 早速だけど、僕の名前は朝日 太陽あさひ たいよう

 現在は高校二年生……だけど、休学してる。

 理由は単純で、骨折しちゃったから。

 正直言って僕は容姿も性格も家柄も何もかも平凡な、ただリハビリに励んでるだけの男子高校生だ。


 僕がいるこの病院は星橋ほしはしリハビリステーション病院。

 いわゆる普通のリハビリ病院で、七階建てで一階に小さな売店がある。

 あとはロビーにテレビと小さな本棚があるぐらいでスマホの利用は制限されてるし、病院食もまあみんなが想像する病院食と変わらない……まずいって事さ。

 僕がこのリハビリ病院に来てから一週間が経ったけど、現在僕は美少女に懐かれている。

 その理由は病院に来て三日目の頃だった。


 その日も僕はキツいリハビリをこなして、部屋に戻ろうとしていた時だった。

 ──車椅子に乗った黒髪ストレートロングが綺麗な、線の細い美少女が窓から夕日を見ていた。

 オレンジ色に照らされた彼女の瑠璃色のような瞳が本当に綺麗だったけど、その瞳に憂いの色が見えてしまって少し悲しくなってしまったのをよく覚えている。

 つい、車椅子を漕いで彼女の元に行って声をかけてしまった事も。


「ねぇ、君……名前なんて言うの?」


 我ながら酷い第一声だ。

 僕が女の子だったらすぐ逃げてたと思う。けど、彼女は僕にしなだれかかるように白い両手でこちらの手を握ってきた。

 どうやらその第一声が彼女には効果的だったようだ。


「私っ、宵瀬 瑠奈よいせ るな……ごめん……なさい……っ、なんかもう辛くって……うぅ……」


 いきなり手を握られた上に泣かれた僕はどうすればいいんだろうか。

 そんな事を考えてたら、彼女が泣き止んで僕に尋ねてきた。


「ねぇ、あなたは運命って──信じる?」


 瑠璃色の瞳が僕を捉えて離さない。

 その力強さに、あぁ彼女は本気で言ってるんだなと確信した。


「運命……か。あればいいけどね。僕はあんまり信じてないかな」

「じゃあ、今この瞬間が運命よ。私とあなたは今この瞬間に交差したの」


 正直すごく電波だと思った。

 けど、何故か凄みがあった。……そして、凡人の僕はやっぱりその美貌に目が行ってしまう。

 綺麗に切り揃えられた前髪と夜空を映したかのような黒髪ストレートロングヘアに、大きく並行二重な瑠璃色の双眸、鼻筋の通った鼻梁、桜色の薄い唇、シルクのような白い肌──。

 僕が酷く軽薄で単純な人間だから、彼女に手を握られても振り解こうとも思わないし、こんな短期間で電波な信号を送る彼女を突き放す事も出来ない。


「と、取り敢えずさ──なんで泣いてたの? なんか辛い事あった?」

「……あなた、私の事好き?」

「えっ……うん」

「なら話してもいいわ」


 何故僕は「うん」などと答えてしまったのだろうか。

 それはきっと、彼女にこの時点で惚れてしまったからだろう。

 いわゆる一目惚れだよね。

 でも、何故か今まで経験した事のある惚れ方と違った気がする。


「……私、自殺しようと飛び降りたのよ。そして、今治りかけな自分に絶望したの」


『自殺』と言う物騒なワードがその桜色の唇から放たれて僕は呆然とした。

 ふと気付いたら彼女は僕の手を握るのをやめて、左手で髪をくるくるし始めた。


「え、自殺……?」

「そう、自殺。私、宵瀬 瑠奈は自殺をする為に六月一日の金曜日に飛び降りたの。もう全部嫌になったの。私は──イヤッ!!!!!」

「うわぁっ!」


 突然彼女が吐いてしまった。

 その吐瀉物は至近距離に居た僕に容赦なく掛かった。

 頭を押さえて首を激しく左右に振りながら吐いていたので、廊下は吐瀉物だらけになった。

 突然どうしたんだろう……と思ったら遠くから看護師さんが駆け寄ってきて、その日はそれで終わった。


 ──で、今に至る。

 あれから彼女は僕に話しかけてきて、そして全てを話してくれた。

 彼女は実の父親に捨てられた事、そしてその理由は自分が愛人との子供だからで、四歳の頃にとある親戚の家に引き取られたが虐待されていて、十六歳の頃に宵瀬家に引き取られた事、宵瀬家は酷く平和で牧歌的で義両親も義妹も優しくてそんな優しさに溺れてる資格なんてないと自分が嫌になって自殺を図った事、そして奇跡的に(彼女にしてみれば呪われたように)花壇がクッションになって助かった事、僕より一日先に星橋に転院してきた事を話してくれた。


「太陽くん、私にはあなたしかいないの。あなたなら私を見捨てない。いや見捨てられない。高校はどこ? 私、そこに引っ越すわ」

「……。宵瀬さん……、なんで君は僕にそこまで執着するの? 別に嫌いじゃないけど、ちょっと病的だよ」

「私にはもうあなたしかいないの。お願い、見捨てないで」

「見捨ててないじゃないか、こうやって話し相手になってるし──」

「じゃあ通ってる高校教えて、私たち同級生よね? まさか可哀想な私に嫌気がさした? 悪いけど話した事全部事実よ」

「分かってる、分かってるからちょっと一人にさせてくれ」

「嫌。本当はあなたと同じベッドで寝たいぐらいなんだからそれは聞けない」


 正直言ってかなりウザい。

 けど、やっぱり僕は宵瀬さんを見捨てる事は出来ないみたいだ……。


「あと、宵瀬さんはやめて。せめて名前で呼んで。瑠奈よ瑠奈」

「……じゃあ、えっと……瑠奈、さん……」

「ありがとう。……悲しいわね、もう消灯時間よ」

「そ、そう……」


 退屈な病院生活に、黒百合が咲いたと思えばなんて事もないただの日常だ。

 ──そしてあの時、声をかけた僕グッジョブ……!

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