第22話 人型兵器三等兵
「よーし、搭乗しろー!」
横山2等陸尉の号令のもと、オレはシュミレーターみたいな筐体の中に潜り込む。
今日は座学講習の2日目。
まあ、座学というか演習になるのだが。
うん、この筐体、ゲーセンとかに在りそうな感じの奴だなとか思ってたら、それ以上にアニメの中みたいな内装で驚いた。
視界は360度ビューモニターがあり、シートはアームで浮かんでいる。
操作はシンプルで左右に複数のレバー、アクセルにブレーキ、あとはなにかを発射するときのボタンとか、なんかのスイッチとかたくさん。
VRのヘッドギアを装着し、目に赤い光が飛び込み網膜チェックが行われ、聴覚、平衡、脳波、各チェックが為されていく。
ノーマルスーツみたいなパイロットスーツには各所に電極が設置され、身体の状況をダイレクトにモニターしているらしい。
しかもこのスーツ、なんと長時間の過酷な使用にも耐えうるように排泄しても2回分までは吸収する特殊な下着もオプションなのだ。
このオムツ、老人ホームでも実装されねえかな?
って、オレもう介護士じゃねえんだった。
あれ? ヘッドギアのゴーグルで視野確保してるなら360度ビューモニターいらなくない?
なんて思っていたら、あくまでもビューモニターは補助的なものであり、メインはゴーグルとのこと。
ゴーグルは状況によっては偵察機からの俯瞰画像等も投影できるのだが、人によっては「酔う」らしい。
なので、「酔った」搭乗員が平衡感覚を取り戻すために実際の視点と同じビューモニターが必要になるとのこと。うん、オレも酔いそう。
「この操作筐体は戦地ブリルリアルに在る23式戦車K54号機とリンクしている。つまり、月の裏側では実際に
おおう、男の子魂をくすぐってくれるじゃないか!
「今回は演習だが、もし敵襲があればそのまま戦闘になだれ込む可能性もある。緊張感を持って臨むように」
実戦ですと?
実戦ってあれですよね? 互いに殺し合うやつ。
まあ、遠隔操作だから命の危険はないとはいえ、オレがヘマこいたら月面上の戦車という戦力が一つ破壊されるわけで。
やべ、なんかひゅんッとなった。どこがとは言わないが。
「よーし、
横山2等陸尉のカウントが終わると、流星のような光が流れ込んだ視覚情報と共に、まるで実際に戦車に乗っているような感覚が身体を包む。
「微速前進、目標、前方マーカーの位置まで」
「
ゴーグルの視界に現れた仮想マーカーの位置まで戦車を進ませる。
なんというか、もっとてこずるかと思ったがハンドルがレバーに代わった車を運転しているような感覚で比較的スムーズだ。
「停止! アンカー下げて主砲発射用意」
「
今度は視界の中に仮想の
うん、仮想の的だといちいち破壊とか設置とかしなくていいから訓練の準備は楽だな。
「照準合わせ――
照準用レバーでマーカーの中央に合わせて発射ボタンを押す!
仮想とは思えない轟音と衝撃が筐体の中に響き、見事、仮想の
うん、発射した弾頭は炸薬こそ入っていないが実物の様だ。
仮想の的が消えた視界には、地面を弾丸がえぐった後が見受けられる。
「続いて、
指示通りにして待機していると、まさに自衛隊の兵員輸送車が近づいて来て停車する。
その荷台から降りてきたのは、宇宙服を着た宇宙飛行士ではなく――
なんと、段ボール箱のパーツを組み立てて造ったような、まるでロボット三等兵のような見た目の人型サイズのロボットたち。
ロボットたちは、若干ぎこちない動きを交える個体も見受けられるが、概ねスムーズにオレの操る戦車K54号機に弾薬や燃料を補給していく。
補給は人力なのかと思いきや、これはあくまでも戦場で基地に戻れずスタックした機体の救助訓練という事で、普段は基地内でオートメーションの補給が行われるとのこと。
その動きを眺めていると、ロボットのうちの一台? 一人? がこちらに向かって手を振っている。
そして、通信のコールが入り、VRゴーグル聴覚に女性の声が聞こえてきた。
「主任! じゃなくて彰人さんっ! それに乗ってるんですね! 私です! いろはですぅ!」
「おう、いろはちゃん‥‥‥じゃなくて川島曹長? そっちも訓練だったんだな」
「えー、そんな堅苦しい呼び方やめてくださいよー。そうです、戦車訓練は先々週に終わって、今はヒト型活動機体での細部活動訓練なんですぅ!」
え? いろはちゃん、2週間も前に戦車訓練終えてたの?
ってことは、単純計算で全く同日に入隊してから2週間もカリキュラムの進行に差がつけられてしまったってことだな。
「そして、これから【覚醒】の最終訓練なんです! 緊張しますぅ!」
おお、どうやら、オレもいろはちゃんの最終訓練とやらを見学できるらしい。
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