第18話 自衛隊
そしてやってきました陸上自衛隊横浜駐屯地。
電車で移動かと思いきや、なんと自衛隊の移動車両でのお出迎え。
運転手さんから敬礼されてしまいましたよ。
そして通される駐屯地指令室。
厚労省の事務次官さんと会ったときより緊張したのは内緒だ。
そして、とうとう明かされることになる。
オレといろはちゃんが自衛隊に呼ばれたわけを。
「君たち二人はかつての英雄の手ほどきを得てアストラル界と同期し、侵略者への干渉能力を発現せし者たち。どうか、我々を、そして世界を救うためにチカラを貸してほしい。どうか、よろしくお願いしたい。」
指令さんはそう言うと、オレ達に向かって深々と頭を下げた。脇に控えた幹部の人たちと共に。
そしてそのあとに通されたのは――。
病院の処置室みたいな部屋だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「私は、あなたたち二人の担当となる医官の保科薫子です。階級は1等陸尉。一般的な健康管理はもちろん、アセンドミッション時の肉体保全や、スペースミッションに関わる健康管理までを担当致します。よろしくね。」
そこに居たのは、20代後半から30代前半の理知的な女医さん。おそらくオレよりは年下になるだろう。
女医さんの口からは、なんか聞きなれない単語がたくさん出てきたが、ここで聞き返しても上手く理解できないだろうからスルーしておく。
まあ、あとで誰かがゆっくり説明してくれるだろう。
で、この女医の薫子さん。体つきは低身長で、ツインテール。整いながらも幼さを思わせる顔つきに、比較的大きい丸眼鏡が乗っかっているという印象だ。
そして、乗っかると言えばその胸部は何かを乗せても大丈夫なくらい豊かでいらっしゃる。
おもわずまじまじと見ていると、隣にいたいろはちゃんがオレの手の甲をつねってくる。
「主任、なに見とれているんですか?」
「いや、もうオレ主任とかじゃないからね? 公務員とか自衛隊とかの役職とかよくわからないけど、なんかややこしいから呼び方変えない?」
「むー。なんかごまかされた気がしますけど。じゃあ、彰人さんって呼びますね?」
なんだろう、いろはちゃんの距離感が近い。
ちなみに今、オレもいろはちゃんも人間ドックに入る時の検査着みたいなのを着ており、なんとなくドキッとしてしまう。
あれ? 検査着ってことは、もしかして、ノーブラ?
思わず動くオレの視線と、頬を染めるいろはちゃん。
「あー、あー。これから各種検査をするので、無駄に血圧を上げるような行為と思考は慎むように。」
はい、薫子さんに怒られました。
そこから行われるのは、まさに健康診断の各種検査。最近のバリウムうめえ。
採血の本数がいつもより多いのとか、全身MRIや特殊な脳波測定といった結構盛り沢山な検査であったが、特にこれといったこともなく終わり、この日はそのまま解散となる。
そして案内された官舎は、厚労省の地下のところと大差ない感じの設備。
うーん、結局厚労省の官舎には一泊しただけだったな。
それでも、次の人のためにハウスクリーニングとかはいるんだろうな。お金もったいない。
そして、部屋の中にはしっかりと配送されている引っ越し荷物の段ボール箱。
荷解きするなっていうのはこういう事だったんですな。
ふう、疲れた。
風呂に入って‥‥‥いや、湯をためるのも面倒くさい。
オレは軽くシャワーを浴びて、そのまま備え付けのベッドに倒れ込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝――。
「「「いっち! いっち! いっちにー!!」」」
なぜこうなった。
朝食時に陸自の分隊に紹介され、なぜかそのまま駆け足訓練に。
いろはちゃんも女性部隊と一緒に走らされているだろう。
もちろん、迷彩服とヘルメット着用だ。
模擬銃持たせられなかっただけ助かったというべきか。
いや、オレ、つい数日前まで単なる介護士だよ?
こんな、国防を担う熟練の隊員たちと一緒に走れるわけないじゃないですか?
訓練場のグラウンド、最初の2周まではそんなことを思っておりました。
で、息が上がってもう限界だと倒れ込んだその時、部隊の伝令? という人がオレの隣に来て話しかけてきた。
「吉岡3尉! チカラをイメージしてみてください!」
はあ? チカラ?
なんの根性論だと思って聞いていると、
「今、ここは『ブリルリアルの栄枯衰退』のゲームフィールドで、最初の『キベッタの街』から、次の『クベニア領主街』に向かう途中、『パリユセロ草原』です! 3尉は、RUN移動で次の街に向かっている最中です! さあ、オートで行き先を設定しました! もう一度、走り始めてください!」
この人何言ってるんだろう?
というか、自衛隊員でもVRMMOプレイするのね。
この時点でオレがそう思うのも無理はないはずだ。
だって、まだ何も知らされていないのだから。
妙に親切な伝令の人の言葉に従い、仕方ないなと思いながらも若干回復した下半身に鞭打って、どうにかもう一度立ち上がる。
そして、言われた通りにゲーム内のオート移動をイメージして――――
その直後、オレは身体の疲れなど感じることなく、先行して走っていった隊にすぐさま追いついてしまったのだ。
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