第17話 さらなる人事異動
「「ほえー」」
ここは東京。
北東北の田舎から出てきたオレといろはちゃんは圧倒されていた。
だってあなた。
人がこんなにいるんですよ?
田舎なんて、人よりタヌキの方が人口多いまでありますからね。
しかも、人が道を歩いているんです。
田舎じゃ道を歩いている人なんて、郵便局か農協のそばでしか見たことないですし。
引っ越し荷物を宅急便で送り、オレたちは飛行機で羽田に降り立った。
どうにか京急線の乗り場を見つけ、品川まで出て山手線に乗り換え。
有楽町で降りてそこから歩く。
細かな路線なんて知らん。
田舎者に地下鉄はハードルが高すぎるのだ。
で、どうにか到着しました。
中央合同庁舎の5号館。
うん、たしかに厚生労働省って書いてあるね。
でも、なんか変だな?
だって、ここって庁舎だよね?
つまり仕事場だよね?
オレ達の荷物の宛先もここだったんだが?
オレたち職場に住むのかな?
たしか官舎の場所が書かれている場所に来たはずなんだが?
受付の人に話をしたら、警備員みたいな人に先導されて建物の奥に向かう。
ん?
何で地下に向かってるんだろう?
オレたち住むところに向かってるんだよな?
そして案内された薄暗いフロア。
長い廊下と、両側に並ぶ数々のドア。
そのうちの一つにカード鍵を差し込む警備員さん。
「吉岡様はこちらのお部屋です。川島様はお隣です。」
そうしてふたりに手渡されるカードキー。
え? 本当にここに住むのかな?
ドアを開けると、3LDKのモダンないかにも都会のマンションという感じの、こぎれいなお部屋。
家電もPCも、なんと据え置き型最新ゲームまでそろっている。おっと、アレはVRヘッドギアじゃないか。
お掃除ロボットやAIスピーカーまで。
なあ、知ってるか?
これだけ豪華なのに、ここの家賃5千円なんだぜ?
「外出は自由です。が、出入りは裏の職員用入り口を使ってください。その時は、このIDカードが必要になるのでお忘れなく。では、私はこれで。」
警備員さんはIDカードをオレ達に渡すと一礼をして持ち場に戻っていく。
部屋の中には、すでに送っていた段ボール箱が運び込まれていた。
そしてピロンとなるスマホの着信音。
『主任! このお部屋すごいですっ! お風呂ジェットバスですよ!』
おお、さすが女の子だ。真っ先に風呂場を見に行くんだな。
オレも自室の風呂場を見に行くと、同じ構造なのだろう、そこにもジェットバスが鎮座していた。
まあ、オレとしてはジェットバスよりもウォシュレットトイレの方がありがたいのだが。
とりあえず、今日はもうやることはない。
あとは、明日の朝にこのビルの20階にある事務次官のお部屋に挨拶しに行くだけだな。
そんなことを思いながらぼーっとしていると、部屋に備え付けの内線電話? が鳴り始める。
「はい。吉岡ですが」
『おお、吉岡君。無事着いたようですね。添川です。』
内線の相手は添川さんだった。
明日のことや、諸連絡が告げられ、最後に、
『ああ、最後に一つだけ。荷解きはまだしない方がいい。理由は今は話せないが。以上です。』
その一言を告げて電話は切れる。
荷解きしないほうがいいってあなた。
それってまたどっかに回されるってことだよね?
しかも理由はまだ言えないとか。
初っ端の異動の告示と言い、国の機関って秘密主義なのかな?
こちとらつい数日までしがない介護職員だったんですけどね?
慣れないと言うか、場違いというか。
この時、オレはまだ知らなかった。
翌日、さらなる場違い感がオレ達に降りかかってくることを。
◇ ◇ ◇ ◇
「吉岡彰人殿。厚生労働省老健局企画官に。川島いろは殿。同主査に任命する。」
翌日の辞令交付式。
着慣れないスーツを見に纏い。
事務次官とかいうとってもお偉い方から辞令を渡されます。
何回も言うけど、オレってただの介護職だったんですよ?
厚労省の企画官って、けっこう偉い役職なんじゃないかな?
公務員試験も受けたことないんですけど、何でこうなった。
「さらに同日発令、異動を申し伝える。吉岡企画官。自衛隊横浜駐屯地、国際保安部隊、3尉に任官せよ。川島いろは殿。同曹長に任官せよ。」
「「‥‥‥はい。」」
もう、頭がついていきません‥‥‥。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、悪かったね。すっかり振り回してしまった」
こじんまりとした会議室のような別室で、コーヒーを勧められながら添川さんの話を聞く。
曰く。
最初から、オレ達は自衛隊に行くことが決まっていたらしい。
ただし、特別養護老人ホームに所属する職員をいきなり自衛隊に『異動』させる訳にはいかないため、老人ホームを所管する厚労省にいったん出向とう扱いにしたのち、正式に国家公務員として登録しつつ、自衛隊に異動させるという手間が発生したとのこと。
まあ、その辺の事情があることは分かった。
わかったのだが。
何故オレ達は自衛隊に行くことになったのかの理由も説明してほしかった‥‥‥。
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