第13話 ギルド【予言の遺産】
ふう。
いろはちゃんが解毒薬を生成する際に、素材として使われたと思われる市販薬の数量が合わないことを何とかごまかした。
市販薬でよかった。
これが医師の処方による個人の薬剤だったら、紛失の報告書だけじゃなく、原因究明と対策策定のプロジェクトチームを組まなきゃならないところだ。
これ以上サービス残業が増えるのは勘弁してほしい。
ほんとうに、正二さんは、いくら『大賢者の試し』とはいえ、胃と心臓に悪いことはもうやめて欲しい。
まあでも、正二さんには感謝もしているのだ。
なんたって、結果的には魔法を使えるようにしてもらったんだからな。
オレが覚えたのは、いまのところ火と水の魔法だが、そのほかにも恩恵がある。というか、恩恵の方が実利が大きい。
というのも、VRMMOの『ブリルリアルの栄枯衰退』の世界の中でビルドした能力が現実世界でも反映されるようになったからな。
例えば、身体の強化。
ゲーム内と違って、ステータス欄があったりとか、明確な数字で把握できるわけではないが、明らかに筋力や体力が上がっているのを実感する。
特に実感するのは仕事中、入居者さんを介護で持ち上げたりする時だ。
まあ、軽い軽い。
これまではよく腰痛に悩まされてきたが、これからは無縁となるだろう。
そして、いろはちゃんは火の魔法の他に、薬剤の生成能力も反映されている。
錬金術師なのか薬師なのかはわからないが、生産職系のビルドが現実でも反映できるというのは、オレの身体強化なんかよりもとんでもないことに思える。
なんせ、もしかしたら身体の欠損を治せるポーションなんかも現実世界で作れるのかもしれないのだ。
文字通り、世界が変わる可能性を秘めている。
まあ、その張本人であるいろはちゃんは、まだ事の重大さに気が付いてない様だが。
いや、いろはちゃんは賢い子だから、とっくに気付いているかもな。
実際、さっきラインを送ってみたがまだ既読にならないので、早番で早く帰宅してすでにゲーム世界にINしていろいろ検証しているのかもしれない。
うん、とりあえず現実世界での検証では入居者さんの褥瘡(床ずれ)の治療薬から初めてもらおうかな。
さて、コンビニ弁当も食ったし。
明日は休みだし。
オレもゲームの世界にINして、オールまでとはいかないまでも、昨日INできなかった遅れを取り戻すとしますか!
◇ ◇ ◇ ◇
―ギルドチャット―
○キット:『こんこん~』
○るるちゃみ☆:『@キット:はろはろ~!(^^)!』
〇ばくれつ牛乳:『@キット:こんこんばんわ』
〇パワーボウズ:『@キット:おお、来た来た』
〇友情階段:『@キット:待ってたぜ前衛』
〇あまいじる:『@キット:これでいつメン揃ったな』
〇ばくれつ牛乳:『@キット:パーティー行ける?』
○キット:『最近顔出せずにスマン(m´・ω・`)m ゴメン…』
○キット:『@ばくれつ牛乳:もちろん! むしろお願い!(*´ω`*)』
〇パワーボウズ:『@キット:誘うね~』
○るるちゃみ☆:『どこ行く~?(=^・・^=)』
〇友情階段:『プレイサグン大渓谷なんてどお?』
〇あまいじる:『賛成』
〇友情階段:『じゃあ、準備でき次第現地集合よろ』
○るるちゃみ☆:『ほいほい(^^ゞ』
○キット:『ちょいと遅れる~』
〇あまいじる:『行ってる』
〇パワーボウズ:『一番乗りー』
〇ばくれつ牛乳:『リアル用件ちょい放置』
〇友情階段:『@ばくれつ牛乳:便所だな』
オレはギルメンと今日もパーティーを組むことができたことにほっとしつつ、回復アイテムなどを買い込んで『転移のアプリコット』を使用した。
オレが所属するギルド、【予言の遺産】は、18人ほどが所属する中規模ギルドだ。
ただし、いわゆる幽霊ギルメンもおり、アクティブメンバーはさらに少ない。
なので実質は小規模ギルドと言っていいだろう。
メインは戦闘職で、特にガチというわけでもなく縛りはない。
こうやって人数が集まったときにみんなで組んで、ゆる~く遊んでいる感じだ。
最近はギルドの『いつメン』がほぼ固定化されてきており、今日揃ったメンバーの誰かが欠ければ活動に支障が出る状況だ。
なので、ここ数日検証のためにチャットオフラインにしていたり、INすらできない日が続いたオレは若干都合が悪い。
それでも受け入れてくれる仲間って本当にありがたいし嬉しい。
ちなみに、『ばくれつ牛乳』さんは、名前通りの拳闘士系の肉弾戦ビルド。もちろん前衛だ。
続いてタンクの『パワーボウズ』さん。クエストやダンジョンアタックなんかでは彼の存在は欠かせない。彼? 中身の性別は不明だ。
『るるちゃみ☆』さんは攻撃魔法寄りの後衛職で、ゲーム内のオレの恋人(脳内限定)だし、『あまいじる』さんは回復寄りの後衛、『友情階段』さんはギルマスなのに斥候職という強い個性を持ったビルドである。
これにオレを含めた6人パーティーで、『プレイサグン大渓谷』での狩りが始まった。
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