第11話 大賢者の試し

 はあ、朝が来てしまった。


 ああ、いい夢だったのに。


 起きるのがいつもよりつらい。


 昨夜の夢には、いろはちゃんが出てきてとっても幸せだったのに。


 ちなみ夢の内容は内緒だ。



 朝起きたらいろはちゃんからメッセが来ているかと思ったら来ていなかった。


 うん、ちょっと寂しい。


 でも、今日休みって言ってたから、もしかして徹夜オールでゲームにINしているのかもしれないな。





 眠い目をこすって出勤し、着替えてホールに出ると正二さんの食事介助に入る。


「はーい、正二さん、おはようございますー。朝のご飯ですよー」


「力道山は勝ったかの?」



「あ、すみません、オレ、昨日テレビ見なかったんですよー」


「そうかそうか。もぐもぐ」


 うん、今日の朝食はスムーズだなー。


 普段は結構、なかなか口を開けてくれなかったり、咀嚼しなかったりで時間がかかるんだけれど、今日は早めに次の日課に移れそうだな。


 なんて思っていると、


「お主、無事に境界を越えたようじゃの? もしゃもしゃ。」



 不意に声を掛けられドキッとする。


 正二さんの顔を見ると、表情。


「はい。の導きのおかげでチカラを得ました。」



 オレは真摯に返答する。


 普段の正二さんは、老人ホームに入居している、オレにとってはお客様の一人だが、こうしてつながっている時の正二さんはオレの魔法の師匠である。


 そう思って接することが、自然なことであると肌で感じ、自然、居住まいも恐縮したものになってしまう。


「もう一人のおなごも越えたようで何よりじゃ。もしゃもしゃ。」


「本当に、感謝いたします。」



「まずは目の前のことに励め。いずれ時は来る。くちゃくちゃ。」


「はい。仰せのままに。」



「ところで力道山は‥‥‥」


「ごめんなさい、わかりません。」



 いつもの正二さんに戻ると、さっきまであたりに纏わりつくように広がっていた圧のようなものが霧散する。


 その変化を感じている入居者さんも中には居るのか、そのとたんに朝食をのどに詰まらせていたような表情をしていた入居者さん達が一気に回復する。


「早く、吸引機を! ってあれ? ヨシエさん? 詰まってなかったの? 取れた?」


「ヨシゾウさん、大丈夫ですか?」



 おっと、ホール内はちょっとしたパニックになっているな。


 今日のインシデントレポートは激増するのだろう。



 入浴、昼食を経て午睡の時間。


 オレはスタッフルームで記録を書きながら、監視カメラ映像で正二さんの動向を観察している。

 

 何が悲しくてカメラでご老人の様子を見ているんだろうと思いつつもモニターを眺めていると、正二さんが目を開けた。


 そしてなにやらもごもご動く口。


 

 やべえ!


 呪文暴発させちゃう?



 オレは慌てて正二さんの居室に駆け込む。


 

 ◇ ◇ ◇ ◇



 正二さんの居室に入ると、ベッドの上空に魔力が集まっている。


 幸い、まだ魔法は発動していない様だが、もう数秒もあればこの魔力が何らかの現象を引き起こすことになるだろう。


 火魔法であるかどうかはこの時点では不明だが、集まっている魔力の量からして水でも風でも大惨事は免れないだろう。


 もし土だったら土砂崩れみたいな有様になるのだろう。




 んー、でも、これどうすりゃいいんだろ?


 もう詠唱も終わっているっぽいから口をふさいでもどうしようもないしな。


 っていうか、冷静に考えたら老人ホームで入居者の口をふさぐなんて虐待もいいとこだよな。

 

 ラノベとかだと、魔力を霧散させるとかいう便利な干渉技があったりするんだが、オレに出来るだろうか?


 でも、やらなくては、最悪老人ホームが全焼とかしてしまう。


 入居者、スタッフの命がかかっている。



 どれ、やるだけやってみるか。


 幸い、『霧散させる』というイメージは持っているのだ。


 イメージを前面に押し出して、丹田から手の平に魔力を集める!



「『魔力干渉』!」



 正二さんが集めた魔力塊に、オレの手のひらから放出された魔力が干渉し、魔力塊が霧散する。


 ふう、どうにかなるもんだな。



 冷や汗をぬぐい、正二さんの顔を見ると、その目はじっとこっちを見ていた。


 いる。



「若いの。魔力の操作は順調なようじゃな。」


 え?



「魔界に行ったのじゃろう? そして、魔界でのチカラも相乗された。今のはいわば試験じゃ。」


 おいおい、今の魔法の暴走はわざとだってか?


 なんて心臓に悪いことをしてくれるんだこのじいさんは!



「まずは合格じゃ。まだまだ拙いところはあるが、まあこれだけできれば及第点にしておこう。」


 すんげえ上から目線なのが気になるけど、オレはどうにか合格らしい。



「ちなみに、今のは余のメ〇じゃ。」 


 そのネタ知ってんのかよ! 96歳!



 それにしても。


 さっきの魔力の塊は、この老人ホームや周辺の敷地までもふっとばしてしまいそうなチカラが感じられた。


 その魔力が、ほんの初歩の低級魔法だったなんて。


 やはり、自称大賢者だけなことはあるんだろうな。





「ママー。漏らしたー! 拭いてー!」


 そしていつもの状態に戻る正二さん。


 うん、老人のバブみはやめて欲しいかな?





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