第7話 イメージ大事

「いい? 丹田からたなごころになんか線が一本つながっているのをイメージして。それが出来たら、ライターの火をイメージしてみて。」


「はっ、はい! でも、ライター、ですか?」



「うん。ガスコンロの火でも結構大きかったから、焚火とか山火事とかイメージしちゃったら大変だからね。」


「うーん、山火事ですか‥‥‥。」



「だめだ! イメージするな!」


「あ! でも、そんな大きな火なんて出る訳が‥‥‥きゃあ!」



「ほら見ろ! 『プール』のイメージ!」




 じゅううううううううう



 いろはちゃんが山火事をイメージしてしまったせいで、運動公園の芝生の上には直径10メートルほどの炎が立ち上ってしまったが、すかさずオレが大量の水をイメージしたことによって瞬時に消火することが出来た。



「ふう、あぶなかったぜ‥‥‥」


「ふぇ、ふえ、ふええええええええええ! なんですか! なんですか今の炎! 主任! 今の何ですか!」



「だから言ったじゃないか。イメージは恐ろしいって」


「はい、ごめんなさい! でも、でも、私、魔法使えましたーーー!」



 いろはちゃんはそう言ってオレに抱き着いてきた!


 うーん、やっこくていい匂いだー。


 オレ、魔法使えたことよりも今の方が幸せなんですけど!



 さすがに下半身が反応しそうになったので、オレはあわてていろはちゃんを引きはがそうとするが、いろはちゃんはそのままオレにしなだれかかり、足にチカラが入らないのかそのままずりずりと下の方ににじり落ちていく。


 やばい、このままではオレの下半身の目の前にいろはちゃんの顔が来ちゃうじゃないか!


 「い、いろはちゃん? 大丈夫?」


「な、なんか身体にチカラが入らなくなって‥‥‥。ごめんなさい、主任、私重いでしょう?」



「いや、重くはないんだけど、大丈夫か?」


 オレは意を決していろはちゃんの両脇に手を差し入れ、身体を抱え起こした。


 ああ、胸が、胸の感触がー!



「はい、なんか、ぼーっとしちゃって‥‥‥。でも、すこし休めばよくなると思います‥‥‥」


 いろはちゃんを支えて移動し、どうにか車の後部座席に横にする。



 うーん。ラッキースケベの件ははひとまず置いておいて、いろはちゃんは一体どうしちゃったんだろう?


「しゅ、主任。たぶんこれって、魔力枯渇って奴じゃないでしょうか?」



 おお、言われてみれば。


 いきなりあんな大きな炎を発生させたんだ。


 『魔力』とか言うのが実際に存在するのかはわからないが、もしあるのならば枯渇してもおかしくはない。


「うーん、まるっきりゲームかラノベの世界みたいだなー。」


「ほんとそうですよねー。正二さんって何者なんでしょうね?」



 たしかに。


 ここまで状況証拠が明らかになったのだ。


 もはや、正二さんが『大賢者』であるとか、少なくとも『魔法』を使える存在であることは間違いない。



「でも、これで正二さんの『火魔法』が暴発してもどうにかなりますよね?」


「え?」



「だって、主任の『水魔法』、すごかったじゃないですか! あんな大きな火を一瞬で消しちゃうなんて、私感動しました!」


「えーと、でもそれじゃあホームの中水浸しになっちゃうけどなー」



「あ。」


「それに、水浸しになるんなら普通にスプリンクラーでいいような‥‥‥」



「あ。」


「まあ、その方法はこれからまた考えよう。送っていくね?」



「はい、お願いします」



 オレはそのままいろはちゃんを自宅まで送り届けようとしたが、よく考えたらいろはちゃんの車はファミレスの駐車場に停めたままであることを思い出す。


 いろはちゃんの自宅の場所を知るチャンスが失われたことを、悲しく思ったのは内緒だ。



「主任、いろいろありがとうございました。」


「帰りの運転大丈夫?」



「はい、大部落ち着きましたから。」


「じゃあ、間違っても家で魔法を暴走させないようにね?」



「はいっ! 気を付けます!」



 こうして、その日はそのまま自宅に戻ったのであった。





◇ ◇ ◇ ◇


「メシもファミレスで食ったし、明日は休みだし。さあ、どうすっかなー。」


 アパートに帰り、シャワーを浴びたオレは独り言ちる。



 いろはちゃんとの魔法レッスンでいつもより帰宅は遅くなったが、時計はまだ夜の10時。


 まだ寝るには早かった。



「そういえば、昨日は魔法騒ぎでINできなかったからな。ちょいと様子見してくるか。」


 PCを起動させ、VR用のヘッドセットを装着する。


 オレの唯一の趣味ともいえるVRMMO『ブリルリアルの栄枯衰退』、通称『ブリアル』の世界にログインすることにした。


 VR装置がオレの網膜を認証し、聴覚のサウンドチェック、そして脳波の検出をオールクリアし、オレは架空の異世界へとダイブした。



「ん?」


 降り立ったのは、所属するギルドの本拠地の在る区画。


 それにしても、今、ダイブしたときになんかいつもとは違う違和感があったのだが‥‥‥。


 なんかアプデでもあったのだろうか?


 そう思ったオレは、ステータスを確認してみる。



「あれ? なんで?」



 そこに在ったのは、『new!魔法:火属性』『new!魔法:水属性』の文字。






 なんで戦士職なのに魔法が使えるようになってるのー?!

 




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