第8話 VRMMO
戦士職なのに魔法が使えるようになっていたオレのアバター。
いや、確かにこのゲーム、自由度がとっても高いから、育成次第では戦士職でも魔法を使えるようにはなるんだけど。
でも、オレのアバターは戦士特化で肉弾戦オンリーのビルドだったはずだ。
魔法を覚えるような育成など、一つもした覚えがない。
でも、火魔法と水魔法って‥‥‥
やっぱり、原因はアレだよな?
もう、それしか思いつかない。
さらにステータスを見ていくと、称号の欄にもう一つ見慣れない文字が。
『new!大賢者の弟子』
やっぱりか。
何がどうなっているのかはわからないが、どうもオレが正二さんから魔法のレクチャーを受けて、現実世界で魔法が使えるようになったことがこのゲームの中にも反映されているらしい。
なにこの不思議テクノロジー!
え? 現実とゲーム内の能力リンク?
そんなことあるわけないじゃん!
でも。
現実世界で魔法を使えることだって、不可能だと思っていたができたんだ。
それに比べたら、むしろこっちのほうが現実味があるのでは?
だめだ、思考がまとまらない。
でもとりあえず、覚えた能力の検証だけはしておこう。
そんなとき、オレの元にギルメンからの個人チャットが届く。
○るるちゃみ☆:『はろはろ~! キットくーん! 昨日はINしてなかったね! めずらしいってみんなで話してたんだよ!』
○キット:『るるちゃんはろはろ~! 昨日はちょいとリアルで大変だったんだよ(;^ω^)』
○るるちゃみ☆:『へ~、そうだったんだー。今日は大丈夫なん?』
○キット:『んー、大丈夫じゃない(;^ω^)。おいら、これからちょいとソロムーヴが続くと思うの』
○るるちゃみ☆:『えー、つまんなーい。強力な前衛は貴重なのだよ?』
○キット:『ごめーん(m´・ω・`)m ゴメン…。いろいろ検証したくてねー。でわ、今日も検証に移るからちょいとチャットできなくなるー。』
○るるちゃみ☆:『わかったー(´;ω;`)。ギルメンにも言っておくねー。でも、はやく復帰してよヽ(`Д´)ノプンプン。じゃあねー♡(*´з`)』
このやり取りで分かるように、オレのハンドルネームは『キット』という。
まあ、
で、ギルメンでありもっとも古いフレでもある『るるちゃみ☆』ちゃん。
うん、彼女のリアルは分からないが、ゲーム内ではオレの恋人(脳内限定)の愛しい人だ。
まあ、あっちがどう思っているかとか、そもそも中身が本当に女性なのかもわからないのだが。
チャットを終えたオレは、検証に集中するためチャットモードをオフにする。
これで、他のフレやギルメンには『チャットオフライン』と通知されるから会話にわずらわされることはない。
オレは、居住区から出てフィールドに向かう。
検証なので、人気のないところがいいだろう。
『転移のアプリコット』を一つ消費して、『エルツォイロナス平野』に転移。
ここは、初心者がある程度レベルを上げた後のサブクエストで来ることが多い場所のため、新規のプレイヤーも中堅以降のプレイヤーもあまり用のない、比較的空いているフィールドである。
なぜここを選んだのかは後で教えよう。
「さて、まずは火魔法だが‥‥‥」
オレはゲーム内で覚えた『火魔法』と『水魔法』をこのフィールドで試そうと思っている。
だが、それにはとある懸念があった。
それは、ゲームと現実がリンクしてしまったこの状況で、ゲーム内で魔法を行使したときに現実でもその現象が起こってしまわないかということだ。
まずは、実際にそうなっても被害の少なそうな『水魔法』から。
まずは現実世界で発動しないイメージを強く持ち、それからゲーム世界での発動をイメージする。
イメージの大きさは、被害を抑えるため、おちょこ一杯分の水。
これなら、現実世界で発動しても少し床が濡れるくらいで済むだろう。
ところで、この、オレの覚えた魔法だが。
通常、ゲーム内では『ファイヤLv1』とか、系統ごとに魔法名とレベルが表示され、威力やエフェクトもそれに応じたものになるのだが、オレの覚えたそれは全く違っている。
オレのそれは、前述のように『火魔法』などと、その系統のみの表記でLv等は何処にも標記されていない。
これは、魔法の威力などはオレの脳内のイメージに反映されて行使されるということだという推測が成り立つ。
その辺の検証も合わせて行って見るのだ。
「いくぞ、『おちょこ』!」
ゲーム世界では、イメージ通り少量の水が生成された。
ここまでは想定通り。
「さて、現実世界はどうなっているかな?」
オレは敵の出るフィールド内にもかかわらず、その場でログアウトを選択する。
そう、この人気のない、かつ敵の強さもそうでもないフィールドを選んだ理由は、こうしてアウトとインを繰り返すことによって、イン直後に敵にタゲられたり、不幸な意図しない横取りやトレインを防ぐためでもあったのだ。
ログアウトし、現実に戻る。
そこには、何も汚れず濡れてもいないアパートの床が目の前にあったのであった。
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