第6話 32歳の春?
オレが自宅アパートで魔法を発現させた翌日。
昼食の休憩時間、いろはちゃんと一緒になった。
とはいえ、休憩室にはほかのスタッフもいる為、あからさまにいろはちゃんと魔法がらみの話をするわけにもいかない。
なので、コンビニ弁当を速攻で平らげたオレは、スマホの画面を見るふりをしていろはちゃんにメッセージを送る。
『昨日、魔法出せた』
『あ、そのこと詳しく教えて欲しいです!』
『でも、この場所じゃ話せないよね』
『そうですね。平田さんとか薮田さんもいますしね‥‥‥』
『ああ、聞かれたらオレたちその瞬間から変わり者認定だ。』
『あはは、私なんかすでに変わり者扱いですけどね?』
『え? どういうこと?』
『ほら、私結構きれいごと言ってるって言うか、学校で習った福祉の理念とか大事にしてる感出してるじゃないですか? ベテランの人たちから、大学出てるからいい気になってるとか陰で言われてるんですよね。』
『え! そんなの知らなかった! そりゃダメだ! オレが指導するから、言ってる奴教えて!』
『主任、ダメですよ。ただでさえ真面目な主任は風当り強いんですから。そんなことしたらもっと雰囲気悪くなりますって。』
『えー、でもオレは主任だから部下に指導するのも仕事であって』
『大丈夫ですよ! 私は、上司が主任でよかったと思ってますし、救われてますから! 年上のスタッフさんにも堂々と指導できる主任を尊敬してます! だから、私のせいで負担増やしてほしくないんです!』
な、なんてええ子なんや‥‥‥
そこまでメッセをやり取りしたところで、ちょうど昼休憩の終わる時間が近づいた。
最後にもう一回、スマホが振動する。
『あの話、ものすごく聞きたいので仕事終わったら
ははは、若い女の子との待ち合わせは嬉しいけど、こりゃオレの財布の中身とかそれなりにバレてるっぽいな。
福祉職の給料の低さは有名だからな。
主任になったところでベースが低いから世間一般よりかなりの低水準であることがばれていらっしゃる。
まあ、同じ会社だから当然か。
オレは午後の仕事を無難にこなし、どうにか定時で上がってファミレスへと急いだ。
ちなみに、今日の正二さんはオレの見ていた限りではつながることはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
ゴゴス店内――。
ハンバーグの夕食をつつきながら、オレは昨夜の話をする。
「えーと、丹田から
「イメージ? ですか?」
「うん、ちょうどその時ね? カップ麺食べようとして、お湯沸かそうとガスレンジに火をつけようと考えたんだ。そしたら、その瞬間、手の平から火が出てきた。」
「へー! 私もやってみよーッと!」
「ストップストップ! ここでやっちゃダメ! 放火犯になっちゃうよ!」
「あ、そうですね。でも、とても成功するとは思えませんけど‥‥‥」
「いや、成功する! だって、オレはそのあとその日を消すためにお風呂とかプールとか多量の水をイメージして、部屋水浸しにしちゃったんだから! イメージのチカラを舐めちゃいけない!」
「そ、そうですか。じゃあ、場所を変えますか?」
「じ、じゃあ、オレの部屋? とか?」
「主任の部屋には興味ありますけど、それじゃまた水浸しになっちゃいません? 無難に運動公園とかがいいんじゃないですか?」
「そ、ソウダネ」
こうして失意のオレは、どうにかファミレスの払いをおごりで済ませ、いろはちゃんを助手席に乗せて市民運動公園の駐車場へと車を走らせた。
「そういえば主任? ちゃんとご飯食べてます?」
「え?」
「だって、昨日の夕食カップラーメンだったんですよね?」
「う、うん。」
「お昼だってコンビニ弁当だったじゃないですか! いくらお一人暮らしとはいえ、とても健康で文化的な食事を摂っているとは思えませんっ!」
「憲法25条かw」
「だから、お互い日勤の時は私が夕食作りに行きますね!」
「い、いいんですかー!」
「はい! 主任が元気にお仕事頑張ってもらわないと、私の職場での居場所がなくなりますからねっ!」
「あー、そういうことね」
「うふふ、でも、主任に元気でいてもらいたいのは本当ですよ!」
「あ、ありがとう」
やばい。
今のオレ、年甲斐もなく顔真っ赤っか。
え、でもこれってそう言うことなのかな?
いや、期待するなモテないオレよ。
これで舞い上がって告白なんかしたら、この先白い目で見られて会話すらできずにセクハラ上司扱いされちゃうんだぜ?
でも、ちょいと期待しちゃうじゃない?
だって、男の子(32さい)だもん!
そんな会話をしているうちに、車は市民運動公園の駐車場にたどり着いた。
午後8時、田舎だけあって、駐車場にはほかの車一台もない。
これがもうちょっと都会だったら、怪しいカップルの一組や二組いるもんなんだろうな。
車進入止めのロープすら張られていない入り口から中に乗り入れ、おもむろに車から降りる。
「さあ、魔法をお披露目してみようか」
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