第3話 魔法抑止策

「正二さんのについて、どうにかしないといけないと思うんだ。」


 オレは同じシフトで夜勤中のいろはちゃんにそう話した。



「は、はいっ。実は私も、同じことを考えてましたっ!」


 よかった。


 彼女も同じことを考えてくれていたみたいだ。


 何言ってんの? みたいな反応が来なくて本当によかったよ。


 この前避難訓練を前倒しで実施できたのは良かったとして。


 でも、あくまでもそれは、起こり得る事象に対しての対処療法にしか過ぎない。


 最も大事なのは、火事そのもの、つまりは正二さんが火魔法を暴走させることを防ぐ手立てを考えなくてはならないと思ったのだ。




「それで、正二さんがだという言葉を本当だと仮定して。」


「え? 正二さんって、賢者だったんですか?」



「あれ? 聞いたことなかった? ああ、そういえばそのことは他のスタッフには話してないから知らないのも当然か。」


「はい、今初めて聞きました。私は、その、正二さんが魔法を使えるって話していたことくらいしか知らなくて。」



「へー。オレもそっちの話は知らないな。いろはちゃんも、誰にも話せなかったんだね?」


「はいっ。変なやつだと思われるのが嫌で‥‥‥」



「無理もないよ。で、いろはちゃんはどんな内容を見聞きしたのかな?」


「はい、前回の水魔法の数日前なんですけどっ、食事中にちょっと大きくて硬い豚のお肉がおかずに出たんですよ。それで、正二さんにはこのお肉は危険だと思って脇に寄せたんですよね。」



「そうだね、正二さん歯がないから、そのサイズのお肉は誤嚥の可能性が高いね。いい判断だと思う。」


「ありがとうございますっ。で、そのお肉をあとでハサミで刻んで提供しようと思ってたんですけど、そのとき正二さんが「肉ぅ‥‥‥」ってつぶやいて、その時の表情はやっぱりいて、そしたらなんか、口の中でもごもご言ったと思ったら、「ウインドカッター」って聞こえた気がしたんです。で、そのお肉を見たらいつのまにか細切れに加工されてて、それで、それを食べさせたことがあってですね‥‥‥」



「‥‥‥今度は風魔法か。」


「ですよね! それって絶対正二さんが風魔法使ったってことですよね! 多分

もごもご言っていたのは呪文の詠唱だと思うんですっ!」



「ところでいろはちゃん。」


「は、はいっ?」



「魔法とか、呪文の詠唱とか、いろはちゃんはゲームとかに詳しいの?」


「あ、えーと、笑わないでくださいね? 休みとか夜勤明けの日とかはVRMMOとかにはまってまして‥‥‥。お恥ずかしい。」



「え、マジ? ショッピングとかデートとかじゃなくて?」


「デートとか、そんな相手いませんよぉ! しいて言えば、ゲームが私の恋人なんですっ!」



 おっとマジかー。


 まさかのオレとおんなじオタクカテゴリー。



「えーと、ちなみにそのVRMMOって、なんてタイトル?」


「よくぞ聞いてくれました! 『ブリルリアルの栄枯衰退』ってゲームですっ! このゲームすごいんですよ! とってもリアルなストーリーがあってっ! キャラメイクもすんごくいろんな要素があって! 戦闘でも生産でも補助職でも貢献出来てっ! そして何よりある条件を満たせば過去の時間軸に行って、バックストーリーの過去の歴史まで改変できるんですよぉ! でも、でも、まだその過去の歴史の文献も見つかっていなければ、タイムトラベルの条件を発見した人もいなくてですねっ! ネットでもSNSでも攻略情報でとってもにぎわってるんですよっ!」



 おっ、おう


 やべえ、この人ガチだ。


 でも、知ってる。


 なぜなら。


「ブリアルか! 実はオレもやってるんだ! 明日の夜勤明けもすでにギルメンとパーティー組む約束してるし!」


「えー! 主任もプレイヤーなんですねっ! わたしたち気が合いますね!」



「ああ、そうだな! そのうちゲーム内でチャットでもしようか?」


「はいっ! たのしみですぅ! うふふ!」



 おっと、すっかりゲームの話で脱線してしまった。



「えっと、話を戻すと、いろはちゃんも魔法とかのゲーム知識はしっかり持っていると。」


「あっ、はい、つい夢中になっちゃいました。恥ずかしいです。でも、知識はあるつもりです。」



「よし、じゃあ、それを踏まえてだ」


「はい。」



「正二さんが魔法を使える存在だと認定し、魔法を行使するときの状況を確認していこう。」


「はい、その時の状況とか、言動とかですね?」



「ああ、それももちろんだが、魔法の行使にとらわれず、正二さんがつながった状態で中二病的言動をしたときの状況をデータ化していきたい。協力してもらえるかな?」


「はいっ! もちろんです!」



 その夜勤の日から、オレたちは共通の表計算ソフトのスプレッドシートを作り、正二さんのの状況や言動を記載していくことになったのであった。






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