ダンジョンに魔物はつきもの

茂頭九太郎

第1話:出会い

一筋の光すら入らない密室に、1匹の凶暴な獣が捕らえられている。

「がぁぁぁ!」

 獣は手足についた鎖を外そうと、必死に暴れている。

「くそッ、くそッ、今に見てろ、俺は絶対ここから逃げ出してやる」

 獣は強い怒りを含んだ声で叫ぶ

「"あれ"は俺のもんだ!!」


 30年前、この星「チキュウ」にはとある巨大な塔のような建物「ダンジョン」が突然地面の中から現れた。

 ダンジョンから、魔物と呼ばれる異形の怪物が大量に出てきたことで、ダンジョンは封鎖された。

 それから5年後、ダンジョンの外に出た魔物をあらかた一掃したことで、ダンジョンの調査や、研究を行うために設立された組織「ギルド」が内部への調査に向かった。

 するとダンジョン内部では、大量の金銀財宝や、チキュウでは取れないさまざまな物質が発見され、それを機にギルドによるダンジョンの調査は本格的になった。

 ギルドは調査拡大のため、破格の給料で、調査員を募集し始め、さらに経歴や年齢は一切問われず、試験に受かれば採用されることから、ギルドの調査員は人気の高い職業となった。


 そして現在、ここにも1人、ギルドの調査員となるために試験に挑む者がいた。

「それでは今から、ダンジョン内部へ入り、制限時間まで、ダンジョンで生き延びる、実技試験を行う。この試験は、魔物がいるダンジョン内部で行う以上、命の危険を伴う試験だ。皆心してかかるように」

 長いひげを生やし、眼鏡をかけた試験官が受験者たちに忠告する。

「ついに今日で決まるのか。姉さん、見ててくれ。俺、絶対調査員になってみせるから」

 彼の名はカイ。調査員を目指している青年であり、調査員の姉を持つ男だ。


「それではダンジョンの門を封鎖する。もうここからは後戻りはできんぞ」

 そう言い、最後の忠告をした試験官はダンジョンの門を封鎖し、実技試験が始まった。

 試験内容はダンジョンの中で72時間生存するというシンプルなものである。食料の持参や、野営のための道具、魔物対策のため、剣やナイフなどの武器の所持などや、グループを組み、試験を進めることも認められている。

「にしても驚いたな、養成学校で聞いていたとはいえ、ダンジョンの中が本当にこんな感じとは」

 カイの目の前に広がるのは、建物の内部とは思えないほど広大な平原で、屋根があるはずの天井には大空が広がっており、地上は太陽の光でさんさんと照らされていた。

「なんで、縦長の形をした建物の内部にこんな空間があるんだ。地平線が見えるし。もしかしてここはダンジョンを通してやってきた別の世界ってのもあり得るのか?…」

 他の受験者たちが安全に夜を越せそうな場所を探すために、一斉に散っていった中で、カイはずっとスタート地点からダンジョンについて考えていた。

 すると、カイと同じく、スタート地点にとどまっていた緑色の石のネックレスをつけた女性がカイに話しかける。

「ねぇねぇ、君、私と協力しない?」

「えっ?」

「私さ、家の事情で食料ちょっとしか持って来れなくてさ、もしよかったら協力しない?私、戦闘は自信あるよ」

「あっあぁ…わかった」

 考え事に集中していたカイは思わず素っ頓狂な声をあげ、彼女の提案を了承した。

「よっし!決まり。私は、クレア・ディーフリートっていうの、君は?」

「俺はカイ。カイ・ニコラウ」

「カイか。いい名前じゃんか。そんじゃカイ、早速どうする?みんなみたいに安全に過ごせそうな場所探す?」

 クレアは他の受験生たちに指を差し、カイに問う。

「ああ、ひとまずは安全な場所を探そう」

 クレアの問いにカイは了承し、2人は歩き出した。


 日が沈み、月が昇り、辺りも暗くなったころ、2人は森の中を歩きながらあるものを見つける。

「カイ、あそこに大きめの洞窟があるし、あそこにしない?」

「でかした。いったんそこで日が昇るのを待とう」

 2人は洞窟に着くと、荷物を下ろし、座れそうな岩に腰を下ろした。

 洞窟についてから少しの時間が経った頃、クレアがとある質問を投げかける。

「ねぇ、なんでカイは調査員になろうとしてる?私は高いお給料目当てだけど」

「どうしたんだ、急に?」

「いや、夜が明けるまで暇だし、聞いてみようかなって」

「……」

 カイは考えながら、クレアの何気ない質問に答える。

「俺は昔、調査員としてダンジョンに入って、行方不明になった姉を探したいんだ」

「っ!?」

 クレアはカイの真剣な面持ちと、その内容に驚いた。

「もう10年の話だから、生きているかすらわからないけど。それでも亡くなったって知らせがない以上、信じたいんだ。まだ、姉さんはまだ生きてるって」

 カイが話し終え、少しの沈黙が流れたが、柔らかい口調でクレアが喋り出す。

「そっかぁ…じゃあこの試験、絶対合格しないとね!」

 クレアは場の空気を重くしないために明るめな口調で答えた。

「そうだな」

 カイもそれに釣られ、すこし笑いの混じった声で返した。


「それじゃあ俺も聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「ん?なに?」

「そのネックレスの石はなんなんだ?」

 カイはクレアの付けている緑色の石のついたネックレスを指さした。

「ああ、これ?これは母さんが、どっかの怪しい商人に安くするからって言われて買ったものらしいよ。いろいろあって私がもらった」

「なるほどな。なんだか、石ころというには表面がまったく凸凹てしないし、かと言って宝石というには透明度や光沢が足りないから、なんだろうと思ってたんだよ」

 ネックレスの石をまじまじと見ているカイを見て、クレアは問いかける。

「いる?君の持ってるパンと交換であげるけど?」

「その程度なら」

 パンとネックレスを交換したその時。

 まるで爆発音のような爆音があたりに響いた。

「!?なんだ」

「もしかして魔物」

 2人は洞窟の外へ出てみるとそこには30mほどはある巨体で3つの目を持つ魔物がいた。

「なんだよ…あれ」

「ん?ちょっと待って、あいつこっち見てない?」

 慌てている2人のほうをじっと見た後、3つ目の魔物は2人に向けて手を落とした。2人はそれをなんとか避けたが、地面に強い衝撃が加わったことで地割れが起きる。

「まずい、落ちる!」

「カイ!!」

 クレアが手を掴もうとしたが、遅く、カイは奈落の底へ落ちてしまった。


「生きてる…のか?」

 真っ暗な中で目覚めたカイはあたりを見回し、何があったかを思い出す。

 「そうだ!ぼーっとしてる場合じゃない、早くクレアを助けに行かないと!」

 カイは持っていたライトでよじ登れそうな壁を探そうとあたりを照らすと、ここは光が一筋も入らないほどの密室であることがわかった。

「なんでこんなものが?」

 カイはあたりを探索していたところ、突如、誰かの声が聞こえてきた。

「おい!誰かいるのか!」

 それは焦りと喜びを含んだ声で、カイが振り向くとそこには手足を鎖で縛られた、2本の屈強なツノの生やした魔物がいた。

「魔物!?」

 カイは思わず持っていたナイフを取り出し、構えた。

「おおい、待て待て、いったん話を聞いてくれよ」

 魔物は落ち着いた声で話し出した。

「俺はディノ。訳あってここに閉じ込められてんだ。もしよかったらなんだが、こいつ(鎖)を外しちゃくれねぇか?」

 カイはまだ、先程の3つ目の魔物への恐怖心が抜けておらず、パニック状態になっていた。

「何言ってんだ、魔物をわざわざ助けるわけないだろ!それにお前に構ってる時間なんてないんだよ」

 焦りと若干の恐怖が混じった声でカイはディノの提案を否定する。

「なんだ?何か急ぎの用事でも?」

 ディノはまだ落ち着いた声で、カイに質問する

「上で仲間が魔物に襲われてるんだ。早く助けに行かないといけないんだよ」

「ほぉう。そいつに勝ち目はあるのか?」

 ディノは若干の笑みを浮かべながらカイに問いかけた。

「正直、あまりないと思う。相手は俺より何十倍も大きい魔物だし」

「(なるほど、こいつはいい)」

 心の中で笑みを浮かべたディノは、カイにとある提案をする。

「なあお前、俺と取り引きしないか?」

「取り引き?なんの?」

 ディノの提案にカイは聞き返す。

「俺は自分の魂を他者の体に入れることのできる能力(スキル)を持ってんだ。お仲間さんを助けやるために俺が力を貸してやるから、お前の体の中にしばらく俺を居候させてくれないか?」

「取引の内容はわかるが、スキル?なんだよ、それ」

 ディノの口からスキルという聞いたことのない言葉が聞こえ、カイはそれにつき言及する。

「お前、ここ(ダンジョン)に来てるのにスキルについて知らないのか?」

「知らない、一体なんなんだよそのスキルってのは?」

「それはあの石に…」

 ディノがスキルのことを説明しようとした時、地上であの魔物が暴れているのかものすごい地響きがし、その爆音が言葉を遮った。

「うわっ!まずい、早くしないとクレアが危ない」

 先ほどまでの焦りを取り戻したカイは、ディノに尋ねる。

「よく聞こえなかったが、それを使ってお前を俺の中に入れれば、本当にあの魔物を倒せるんだろうな(もうのんびりしてる時間はない)」

「ああ、信じろ、お前に俺の桁違いの力を貸してやるよ」

 その返答を聞き、カイは決心する。

「わかった。その取引、応じるよ」

 そういうとディノは光の塊のようなものへ変わり、カイの中へ入っていった。


 クレアは地上で3つ目の魔物に追いかけられ、ついに体力が底をつき、転倒してしまう。

 立ち上がれないクレアに魔物は手を伸ばす。

「(あぁ…私、ここで死ぬんだ)」

 死を悟り、走馬灯のように家族との記憶が流れる。

「みんな、ごめん」

 そう言った瞬間、突如、地底から、屈強な2本のツノを生やした魔物が飛び出し、魔物の右頬に拳を当て、魔物は転倒し後ろに倒れた。

「!?なに…あれ」

 突然の事態に放心していることしかできないクレアを背に、ディノは近くにあった岩場の上に立ち、月に向かって雄叫びを上げた。

「うおぉぉぉっしゃぁぁぁ!、俺は自由だぁぁぁ!」

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ダンジョンに魔物はつきもの 茂頭九太郎 @TibaEI3513

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