第十二話 王女と唐突な試練

 お父様とお母様は、私の前を、様々な種族の高貴そうな方達へ挨拶をしながら歩く。

 たまに私にも話しかける方も存在したので、私も何とか頑張って対応する。

 笑顔を絶やさないように。

 何も知らない少女の様に。





 そんな悪戦苦闘を繰り返しながら、遂に世界会議の、会場へと到着したのであった。

 入り口の重厚な扉は既に開いており、中は聞いていた通り円の形の机が中心にあった。

 そして参加する八カ国のうち、今年の担当国である獣人国の、その特色を感じさせる内装は野性味が強く、トラみたいな生物の剥製もあった。

 しかし見事にお洒落な空間に仕上げている為、野性味を芸術性へと変えていた。





 会議は、一時間で終わるときもあれば、四時間かかった年もあるらしい。

 …あ、この世界会議は四年に一度の開催ですよ。

 なんか、前世の某大会のようだ。

 そういえば前世の私、運動とかまるで駄目だったな……、なんて無駄な事を考えていると、私達に続いて、様々な種族の方達が続々と入室してくる。






 さて。

 正直今は暇だし、参加国について、先程の作戦会議で教えてもらった事を復習しておこう。



 大前提として、人族大陸から四カ国、魔族大陸から四カ国の、計八カ国の参加が義務付けられている。

 選出は、世界会議の開催が決まった当時、大きな力を持つ国順に上から、人族大陸からは四、魔族大陸からは三の代表国が決められた。

 我が国の参加は立地的にも立場的にも強制だから、魔族大陸からは三である。


 そして、参加国だが、まず人族大陸から。

 精霊国ムート(人族の国)

 ドラコー帝国(人族の国)

 獣王国デゼルト(獣人の国)

 翼王国ヒムレン(翼人の国)


 二つの亜人の国は、かつての世界戦争時、人族に味方した亜人族の国だ。だが今は、魔族とは和解している。


 ムートは、精霊信仰の中心となっている国で、ドラコーは、龍信仰の中心となっている国だ。

 この世界の宗教については、私の予想が当たっていれば、後で嫌でも復習する機会が巡ってくるだろう。


 そして、魔族大陸。

 世界樹国ヴェデーレ(エルフの国)

 カプリス共和国(ドワーフの国)

 魔国フスティーシア(魔人の国)

 最後に我が国シュトラール王国だ。

 

 ヴェデーレは、よく近所に魔法練習で行っているあの国で、カプリスは、山の中の超巨大洞窟にあるらしい国。

 フスティーシアは、来るもの拒まずな、割と自由な国だそうだ。

 ちなみに魔人は、人の見た目に角を足した姿をしている。

 翼が生えている魔人もいる。

 身体能力は人よりは高いが、人はその代わり成長しやすいため、最終的な強さは同じぐらいになる。



 しかし今回の会議、精霊国ムートは欠席らしい。やむを得ない事情らしいが…。



 勿論他にも、様々な国、様々な種族はあるのだが、小国であったり、国交を拒んでいる国なんかもあったりといろいろなのだ。






 続々と入ってくる各国の代表の中に、先程のエルフの宰相、ラミアの姿を見つける。

 あ、目があった。取り敢えず笑顔で誤魔化すと、あちらも笑顔を返してきた。どうしろと。



 円の形の机に用意された八席のうち、七席が埋まったところで、世界会議が始まる。

 私とお母様は、お父様の後ろに立って、待機している。

 他の国の方達も、私達と同じようにしている。

 この状態で最悪四時間か…。





 三十分程が経過した。各国の挨拶から始まり、この部屋の内装を褒める時間が続き、そして今、ようやく会議が始まった。

 さっき今は暇だとか言って脳内で復習していたが、あれは間違いかもだったかもしれない。

 多分、これからずっと暇だ…。




 あれから現在一時間経過中〜。

 この体のおかげで肉体的な疲労は無いが、精神的な疲労が凄い。そして暇。

 今は、どこの国ではどんなものが足りないだとか、この国ではこんな問題がとか、そんな話をしている。

 そんな中私は、暇だからひたすら彼らの話を聞いていた。暇だから。




 だけど、このまま暇で終わった方が良かったのだと気がついたのは、とある出来事の後であった。




 その出来事の始まりは、我が国の上下水道の話から始まる。

 このときの私は、話を聞く事すら飽き始めていたがそれはともかく、ドラコー帝国の皇帝が発した言葉から『悲劇』は始まった。


「シュトラール王よ。その上下水道についてだが、我が国でも導入したのだがな、下水の処理方法について、何か貴国では対策を施していないのか。」

 お父様は返す。

「ドラコー帝。我が国の下水の処理についてだが、清潔な水を混ぜ、汚染を薄めているぞ。」


 ドラコー帝との会話に割り込んで来たのは自然を愛する世界樹国ヴェデーレの王だ。

「しかしな、シュトラール王。それでは、汚染が無くなるわけではないんじゃ。なにか、他の対策を考えねば、やがて、周囲の自然も汚染されてしまうんじゃ。それはいかん。」

「うむ…そうであるがしかしな…。」

 お父様は考えこむ。



 やがて何かを思いついたのか、お父様はバッと顔を上げ、ヴェデーレ王の方を向いた。

 …嫌な予感が。



「実は、この上下水道を提案したのは、我が娘であってな、我が娘ならば、何か対策法を思いつくやもしれん。」



 は!?何言ってくれてんの!?

 …まずい。ここにいる全員が、驚愕の目で私を見てる!

 そして、こちらを振り返ったお父様と目が合う。


「テラスよ。何か、思いつく事は無いか?」

 さようなら、暇。

 ようこそ、試練。

 …なんて言っている場合じゃない!取り敢えず、考えている顔をしながら、

「そうですね…。」

とだけ、言っておく。

 やばい、今度は全員が期待の目で見てる!

 頑張れ、私の脳…何か、何か…。



 あ、閃いた。

「…では、グリーンスライムを使ってみるのは如何でしょう。かの忌物の力であれば、下水も浄化出来るのではないでしょうか。安全性は…、脆弱なグリーンスライムですので、恐らくは大丈夫だとは思いますが、一応何かの対策対策が必要かと思われますが。…如何でしょうか。」


 頑張ったね!私の脳!

 いや〜。何となく始めて、すぐに飽きてやめた忌物の研究が、まさかこんな形で役に立つとはなぁ。

 反応を伺う様な言動を取ったが、正直反応なんて如何でもいい。今は、何とか乗り切れた事を褒めてほしい。




 ヴェデーレ王が口を開く。

「なるほど、忌物の力を利用するとはのぉ。とても良い革命的な案で、わしは驚いておる。噂通り聡明であるんじゃな、テラス姫。7歳とは思えんのぅ。」

 そう言って少し笑うヴェデーレ王。見た目はまさに長老って感じで威厳たっぷりだが、私を見るその目は、優しさに溢れていた。

 孫の成長を喜ぶおじいちゃん感。

 そして、その言葉に同意する各国の代表達。 


 そして、私に話しかけるお父様。

「流石は我が娘テラスであるな!この様に、我が娘は時々、我に助言をしてくれるのだ。実に優秀な娘であろう!」

 その娘自慢したいだけな発言にも、何故か同意の声が上がるのだった。


 あれ、何か想定外の高評価受けてる!?

 でもまあ何か、役に立ったんなら良かった。






 その後、別の話題に移り、会議は進んでいく。私の危機は去った。

 今はこの暇という感覚も、実家のような安心感がして、心地よさまで感じ始める。



 私の危機から三十分弱が経過。

 これで大体、会議開始から二時間経った。

 そして遂に、今日の本題に会議が入ったのだった。

 そしてこれこそ、私が聞きたかった内容でもあった。



 今回の会議の主催である獣王国デゼルトの王が、その大きく、恐ろしい声で話を切り出す。





「ではそろそろ、最近何かと怪しい噂を耳にする『勇者信仰』についての話し合いに突入したい。」

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