第12話

差し出された手を握ろうと、上がりかけた腕を芹の手がスルリと絡めとる。


見上げると穏やかに笑う芹が、錦ノさんへと向いていた。


笑っているというか、ちょっと怖い。


「怖」


錦ノさんもそれを感じ取ったのか、ケタケタと笑いながら呟いた。


「死ね、錦」


「枢木さん大丈夫?こんな物騒なの旦那にして」


「?芹は優しいですよ」


「え、これが?」


切れ長の目を少し見開いた。


まるで私が変なことを言っているみたいだ。


「次に枢木って言ったら殺す」


「怖〜い」


真っ黒な雰囲気に当てられたのか、少し一歩下がる錦ノさんに苦笑いを浮かべた。


「橘様だわ。その隣は奥様かしら……あの二人だけ美の暴力ね」


「私、奥様に勝てますかね?」


錦ノさんと芹が静かに言い争いを繰り広げている中、数人の視線がこちらを向いている。


こそこそと小声で話しているが、地獄耳の私には聞こえていた。


「諦めなさい。ダイエットしても全身整形して跡形もなくメスを入れて糸で縫っても、璃星様の顔とスタイルにはなれないわ」


「恵まれてるわね〜。ご両親のお顔が見てみたいわ」


「璃星様はお優しい方だから、枢木家はとても良いご家庭だったはずよ」


「しっ!枢木の名は出してはいけないわ!」

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愛は要冷蔵ですー結婚編ー 夏目ことり @kotori_00

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