最終話 エーデルヴァイスとブローディア
目が覚めると、そこは一面に広がる蒼穹だった。
青く、
久しぶりに見た気がする、清らかなあおいろの。
視界の端には、純白に煌めく浄化の大地があって。どうやら、意識を失っている間に浄化された
耳に届くのは、風と飛行機の音だけで。静かな空気は、戦闘が終わったことを告げている。視界にも、〈ティターン〉の姿が入ってくる気配はない。
通信機は被弾で使い物にならなくなっていて、誰の声も聞こえてはこなかった。
――全部、終わった。
真っ青な
そう。全部、終わったのだ。
これで、五年にも渡る
王家の使命は、完璧に果たされたのだ。
……けれど。
果たすべき使命を終えた私は。なんで、ここにいるんだろう。
お姉ちゃんはもう、この世界には存在しない。最愛の、そして唯一の肉親は、今度こそいなくなってしまった。
私が必要とする人も、私を必要とする人も、いなくなってしまった。
心地の良い風を頬に受けながら、リーナは目を閉じる。
「疲れた、な」
私のなすべきことは、今日で全て終わった。そして。これからを生きる意味も、失ってしまった。
なら。いっそのこと、ここでゆっくりと浄化を待つのもいいんじゃないか。
そう思って、身も心も全て世界に委ねようとした――その時だった。
遠くから、ざく、ざく、と、白い大地を踏みしめる音が聞こえてくる。
「たとえこの世界からいなくなったとしても、誰かが覚えていれば、そいつがこの世界に
聞こえてくるのは、この数ヶ月で何度も聞いた少年の声だ。
時には一緒に笑って、時にはお互いを傷付けあって。そして。背中を預けた、第二特戦隊の元副長の。
踏みしめる音が近くで止まるのを感じて、リーナはゆっくりと目を開ける。入ってきたのは、レンの顔だった。
目の冴えるあおいろに、幾度となく激情を灯してきた朱色の双眸と黒髪が映える。
「……なん、ですか?」
自分でもびっくりするぐらい小さな声だった。
何とか聞き取ったらしい、レンは真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「王家の使命は果たされた。だから、リーナ。おまえが戦う理由も、これからを生きる理由も意味も、なにもないのかもしれない」
唯一生きる意味だった使命は、完全に果たされてしまった。だから、リーナにはもう、この世界を生きる理由も意味もない。
「けれど」
強い意志を感じさせる声で、レンはそれを告げた。
「たとえ、いたという証拠が残るとしても。それでも、おれは――おれ
朱色の双眸が、リーナの瞳を真正面から見つめてくる。
「生きる意味がなくても。理由なんてなくてもいい。ただ、おれたちのために、生きていて欲しいんだ」
「……それは、あなたたちの勝手な願いでしょう」
「ああ。それも分かってる。……だから、無理強いはしない」
そう言うと、レンは左手を差し伸べてくる。
「それでも。おれは、リーナと一緒に生きていたいんだ。これからも、この先も」
差し出された手を、リーナはじっと見つめる。
……私には、ここにいる価値がないのだと思っていた。
私がいたから、お姉ちゃんは無理な作戦を押し付けられて死んだのだと。
私がいたから、レンは心に傷を負ったまま戦場に引きずり出されたのだと。
私がいたから、レイチェルが死んでしまったのだと。
だから。王家の使命を果たすことが、その
そして。使命を果たした私には、存在する価値なんてないんだと思っていた。
けれど。どうやら、違ったらしい。
「え? あぁ、まぁ、一応、
手を差し伸べた体勢のまま、なんとも言えない表情でレンが通信機に喋りかけている。
話している様子から見るに、どうやらイヴもフリットも無事らしい。
彼の背後に見えた二人が、リーナを確認するや手を振ってくるのが見えた。
その様子を、リーナしばし呆けたように見守って。ふ、と不意に自然な笑みがこぼれ落ちる。
「……わかりました」
レンの視線が、こちらに振り向けられる。不安と期待が混ざりあった、きれいなあかいろの瞳で。
そんなレンの手を取って、立ち上がる。
呆けたように見つめてくるレンの手を両手で握りしめて、リーナは心からの笑顔で告げた。
「私は――、私も、
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ここまで読んでいただきありがとうございました!
面白かったと感じていただけたなら、星やお気に入りを入れてくれると嬉しいです。もう一つの更新中作品「エンジェル・フォールン」もこの作品と同じように少年少女がわちゃわちゃする作品ですので、興味があればぜひ。
では、改めて、ありがとうございました!
亡国王女とエーデルヴァイスの騎士 暁天花 @Akatsuki_Tenka
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