第14話

作戦は成功した。しかし、被害を出し過ぎた。これは責任追及は免れないだろう。

「とりあえず、ぶっ倒れているであろう神代君を回収しよう。」

私は神代の方に向かった。



「空くん、起きてよ!空くん!」

「生きてそうだね。よかった。」

「遅い!有栖、さっさと治して!」

「治すも何も体力切れで倒れただけだよ。そんなに気を使い過ぎない方がいい。」

「わかった。けど、せめて何か、何か枕になるモノをちょうだい。」

「はぁぁ。君たち、恋人なんだろ?膝枕でもしろよ、鬼哭。」

鬼哭は日照った顔を咄嗟に手で隠す。

「そ、そんなことしていいの?こんな……私が………」

「いいんじゃないか。コイツは少なくとも気にしないと思うぞ。お前がなんであれ、差別されていようが。」

「そうだね。私が、臆病すぎたのかもしれないね………」

ああ、ここからは彼らの時間だ。私が手を出すわけにはいかない。私は彼らに背を向け、歩き始める。

「あ、忘れてた。起きたら神代に手助けするように言っといてね。」

「空気の読めないやつね!KYよKY。ああはなりたくないわー。……………………けど、ちゃんと伝えとくよ。」



「蘇生が大変だ。ヴァン、月華、頑張って患者をこの瓦礫の山から救い出して。そして私の前に並べてー。」

「ちゃんと仕事してくださいよ。寝っ転がってないで。妾の時代だと働かない者には飯など不要だったのですよ。」

「そうですよ、お嬢様。私たちだけでは限界があります。少しは手伝ってください。」

「じゃあ新しく眷属にしたホージュでも使えよぉぉ。」

「あいつなら人間になるべく危害を加えないで人間と暮らせと命じて街に向かわせましたよ。」

「はぁぁ?!どうして?」

「悪魔といえど子供は子供です。きちんと願いは叶えさせないといけないでしょ。」

「はぁ。お前はそういうやつだった。」

「喋ってないでお嬢様も手伝ってくださいよ。」

「わかったわかった。手伝うよ。………あれ?霜山と星川は?」

「ああ、境華ちゃんは全身筋肉痛で動けないって言ってましたよ。」

月華が答える。

「星川は?」

「………星川って誰ですか?お嬢。」

まさか瓦礫の下に埋もれて………………………

「お嬢様!生徒を発見しましたよ。ん?なんだこれ?生徒をクッションみたいなのが包んでる。」

「ヴァン、これ絵の具ですよ。」

「絵の具………」

彼、なんとも言えない表情してる。

「お嬢、何か知ってるんですか?」

「ああ、星川だ。彼女の能力がどれだけ持つかわからない。早くしろ!」

「……あ、はい!」



三人はどうにか瓦礫をどかした。

瓦礫をどかす過程で星川が見つかったが、彼女は有栖たちに気づくことなく下を向き続けた。

星川を中心に絵の具がクッションのように周りの生徒を瓦礫から守っていた。それにより生徒の過半数は死なずに済んでいた。

「腐っても一級か、星川。流石だね。」

下を向いていた星川が有栖の方をゆっくり向き、喋る。

「はぁはぁ、有栖ちゃん。私……頑張ったんです。全員とはいかなかったけど、私の能力でどうにか死なせないようにはできました。…………私でも役に立ちましたか?」

だいぶやつれていた。精神的に追い詰めたのだろう。

だが、有栖は理由がわからない。いや、わかっていたとしても理解はできないだろう。だって彼女は、ある一人の男を除き全ての人間を自身の欲のために使うと決めている。けれども彼女に人の心がないわけではない。

身内には甘い。だが、利用できると確信するとどんなものでも使いたいという欲。

それらが戦い、大体身内への想いが勝つ。

ここで心無い言葉を彼女にかけることは今後の彼女の生産性が下がる。流石にそれは避けないといけない。

「ああ、役に立ったよ。全員とはいかなかったけどかなりの人が助かったよ。」

「そう……なんですね。よかった。こんな私でも役に立てたんだ。」

「まあ、ここで待っててよ。後は私たちでやる。」



救護がひと段落したところで有栖は原型が残っていた校舎の屋上に上がり、そよ風に当たる。

そこへ神代が来た。

「有栖さん、ありがとうございました。彼女も喜んでくれましたし、よかったです。」

「そうか。……彼女は君にかなり負い目を負っている。それを改善させた方がいい。」

「そうですよね……がんばります。」

それを聞いた有栖はうんうんと頷き、彼らの今後の関係の成功を祈る。

「そういえば、人数が一人足りないんですよ。生徒の人数が。何か知ってますか?」

「………知らないね。」

「そう………なんですね。変なこと聞いてごめんなさい。」

「もしかしていないのは、黒崎神無かい?」

「はい、そうですね。」

「彼女は……見つけたけど、もう魂がなかったので邪魔でした。故に片付けてしまいました。」

「遺族が悲しみますので、それがどこにあるか教えてください。」

「………すまない、記憶にない。………そうか。脳を攻撃されたせいで記憶障害が起きたのかもしれないね。すまない。」

「……そうですか。」

神代は疑いの目を向けたが、有栖がそれを語る気がないのはわかった。彼は追及をやめた。



「朱輪…さん、あの……夜桜夢冥を……探索しなくて……いいんですか?」

「ああ、そのことね。それは大丈夫。あいつはもう、何もできないよ。」

「えぇ?どういう……ことですか?」

「門を開く魔術式自体の解析をこれからやって、開けないように新しく魔術式を作ってもらう。」

「誰に……ですか?まさか……私、ですか?」

「いやいや。流石に違うよ。うちの組織にはいるでしょう?優秀な魔術師が。」

「?」

「というかもう来てるんでしょ?なあ、桜。」

校門の方から白髪のロングの女性が歩いてくる。

「久しぶりだよね?有栖。そんな親友に向かって言うセリフがそんなのでいいのかな?」

「は?桜、お前と親友になった記憶はないね。……というか、さっさとしてよ。私のミスもかなりでかいけど、元はといえばお前が原因だろ。」

「それもそうだね。ーーーーーーーーーーーーー終わったよ。雑な術式だね。これなら簡単に対策できる。」

境華はあまりの解析の早さに感心した。こんな優秀な人材が私達の組織にいたなんて、と思っていた。

「悪魔はどうするの?殺すの?」

「自由に生きてほしかったんだけど、……はぁ。こんなに被害を出したなら仕方がない。見つけたら殺すよ。」

「いいの?再契約するとかした方がいいと思うけど………駒は多い方がいいよ。」

「……力不足だね。等級詐欺をしてたとはいえ、特級レベルにも一矢報いれないなんて……うん。使えないね。そんなのいらない。計画に支障をきたすからね。」

「……そうか。」

「使えないのはいらないからね。本当にいらない。役に立たない奴はすぐ死ぬから。」

「……………は?」

境華が桜の服の襟を掴み話す。

「……あんた、何様のつもりですか?!自分のミスは棚上げして話を進めて。夢冥の計画のせいで、あなたのミスのせいで死んだ人が可哀想だとは思わないんですか?!あんたは?!」

「今回は転生石を使った魔術式だった。つまり、使用者に同意を得てる。私には関係ないね。」

「何を……言ってるんですか?」

「どうしてそんなに怒っているんだ?転生石は今の自分が嫌いな奴が主に使うんだぞ。無理やり使わせた場合ペナルティを課される。ここまで自由にやれたってことはそんなことやってないってことだ。死にたがりまでかまってられないよ、私は。」

「………あなたにとって死にたがりがどうでもいいのはわかりました。……けど、じゃあなんで、なんでさっさと来なかったんですか?……何様のつもりですか?あなたは。」

「魔女様だけど。………ああ、そうか。君は今回死んでしまった人がいることに怒ってるんだね?……被害者は可哀想だけど、まあ仕方なかったよね。」

「……何が、仕方がなかっただって?……ふざけるな!死にたくなかった人も今回は被害を被ったんですよ!」

二人の会話の雲行きが怪しいので有栖が割って入る。

「まあまあ落ち着いて、霜山。桜はこんなんでも冠位だから、自由に動いちゃいけないんだ。自由に動くと条約違反になる可能性があるからね。」

「そう……なんですね。けど、けどーーーーーーーーーーーーー」

言葉が詰まる。確かに条約違反をするとすぐに戦争になる。魔術院に戦争のための口実を与えちゃいけない。

だが、そんな……戦争をしないためにとはいえ、未来ある子供を見捨てるなんて、許されるわけがない。

「どうして、どうして夢冥を殺さなかったんですか?」

「君は蟻に対して何か感じるかい?……感じないだろ。それと同じだよ。」

「責任を取れって言ってんですよ。」

「なんで?君たちが弱いからでしょ。お前らの責任だ。私には関係ないね。」

「……私の、せい?」

視界が暗くなる。私のせい………なの?言葉が捻り出せない。否定ができない。

境華は、理不尽なことが嫌いだった。自身の人生が理不尽に壊された。彼女が自己肯定感があまりなく、精神的に不安定な理由がこれだ。有栖の言葉で一時的に明るい性格になっているように見えるだけで根本的な解決にはなっていない。

故に、彼女は苦しんだ。心臓がきゅーと縮められたみたいな痛みが彼女を襲った。過去が脳裏をよぎる。

話せない。もう、彼女にはそんな意思など……

「じゃあ、もう帰りますね。この術式を無効化する魔法陣を作って、蒼にそれを搭載した道具を作ってもらわないといけないからね。」

境華は結局文句を言えないまま桜は帰ってしまった。

有栖は桜を見送るために校門まで一緒に行く。

「桜、蒼は元気かい?」

「ああ。元気だよ。何か伝えるできことがあるなら伝えるけど。」

「じゃあ、こう伝えてよ。『君を殺す準備ができた。さあ、戦争をしよう。場所は日本の幽世。思う存分殺し合おう。』とね。」

「………伝えておくよ。一応伝えておくけど、私は家族思いだからね。危険なことはなるべくさせたくないかな。」



報告書

担当者 熊太

夜桜夢冥が起こしたこの事件は朱輪有栖らの活躍により解決した。

しかし、夜桜夢冥が魔界への門を開けたことにより花咲学園はかなりの被害を被った。

死者はゼロ名であったが、有栖の回復能力による治療のせいで記憶障害や身体的な障害が残ってしまった。

夜桜夢冥は逃走。黒崎神無は行方不明になっている。

黒崎家からは見つけ次第、即当家に引き渡せと我々に指示していた。生死は問わないとのこと。

黒崎家は詮索しない方が良い。普通、こんな指示を出さない。何かを隠している可能性がある。

我が組織への被害は以下のとおりである。

1、星川は精神的な負担によりしばらく働くことはできない。

2、霜山は身体的な負担により一週間ほど休んだため仕事に穴が空いてしまった。


朱輪有栖が怪しい行動をしていたという報告を神代からされた。

警戒しておいた方がいいかもしれないので監視として誰かをつけておくべきである。



「ご苦労様。三号。君はこれからどうしたいの?やっぱり全てから解放されて生を謳歌したい?」

「はい。それのために、それだけのために頑張ってきたんですから。」

「わかったよ。記憶と能力はどうする?」

「記憶は消してください。能力はなるべく違うものがいいかな。」

「わかった。記憶を消す手段は手配しないといけないから少し時間かかるよ。能力はその表から好きなの選んで。」



「おはよう。初めてましてかな。」

有栖はベットで目覚めた十四歳ほどの見た目の少女に話しかける。

「誰?あなたは?」

「私はあなたのお母様だよ。」

「お、母さま?」

「そうだよ。君は私が作ったんだ。」

「そう、なの?えっと、わたしはなに?」

「君は、神様だよ。」

「かみ?わたしが?」

「そうだよ。君は私の最高傑作だ。」

「えっと、なまえはなに?おしえて。」

「君は譜楽花凪。ある楽譜と神をもとに作り出した、この世でただ一人の人工神だ。」



「彼女の記憶は消したよ。」

「ありがとうございます。椎名さん。」

「仕事だからね。けど、良かったのかい?もう君には裏切らない駒がないよ。」

「ああ、そこはご心配なく。もう、新しい駒は用意しました。それに彼と決着をつけるって決めたんです。」

「そうか。それで、これからどうするの?すぐにその決着とやらをすぐにつけに行くのか?」

「いやいや。そんなわけないでしょ。まずは条件を揃えないと。」

「条件?なんだよ、それ?」

「私が蒼と戦うためには一国を落とさないといけない。冠位として戦ってくれないと意味がないので。

………だからそのために幽世に行きます。」

悪魔より深い闇、深淵と呼ぶべき女は笑う。誰かを馬鹿にしたからではない。自身の悲願が目の前まで来ている事、後少しでとどく事。それがとても嬉しくて笑っているのだ。

待っていろ、蒼。国どころか何もかもを落としてやる。

君を倒すのはこの僕、いや私、朱輪有栖だ。

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深淵と羊 巴氷花 @tomoe2726

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