5 襲撃
翌朝。任務遂行を目指して、目星をつけていた人間の元へ向かう。一種の勧誘みたいなものだな。価値があれば本国に連れ帰るし、ないのならば放置若しくは抹消。そもそも本国が亀裂を作った場所には意味がある。僕がいるから、というわけではなく。向こうにいる際、こちら側の世界を観測していると、ここら辺で魔法を観測できたらしい。
いや、魔法ではない何かという方が正しいらしい。噂によるとこの世界では古来より妖魔やものの怪が闊歩していたとかいないとか。数多くの寺や神社があるのも過去の歴史を物語っているのだろう。ともあれ、魔力の無い世界に魔法に近い何かがあるなら、究明しないは悪手である。...ということだ。
休眠から起きた
昨晩の騒動で散らばっていた人間が避難のために一つの場所に集まっているだろう。該当人物が力を使うか何かしらの行動。取って特定出来る程度に炙り出せるのが理想だな。
時刻は9:24分。人間が起床して活動を始める時間帯。おそらく各避難所には銃火器を装備した警察かそれに準ずる者が配備されているだろう。ある程度の裁量を現場に与えられているのが良い点だな。
続々と近辺の魔物が集合する。最初の投下量と現在の数を見ると明らかに数が減っている。全個体が命令に従うわけでは無い。だが、それを差し置いても減りすぎている。
「んー?理由わかるやついる?」
魔物が首を傾げる。どうやら誰も知らないらしい。数がいるなら分散させて一気にやろうと思ったが少ないなら仕方がない。地道に行くか。
「よし、じゃあ皆んな!何をすればいいか今から説明するよ!」
魔物が各々頷く。生まれたときから軍事用に徹底できに飼育されている個体達だ。下手をすれば人間より知性が優る個体もいるだろう。
「今から人間が集まっている避難所へ攻撃をしかけまる。目的は魔力及びそれに似た力を持つ者の確保。攻撃箇所が多いので数日に分けると向こうも備える可能性がある。そのため、衝撃力と迅速力を一番に、一気に向こうが対処しなければならない状況までもっていきたい。」
ある程度被害は出るだろうな。向こうの世界では当たり前にあったものがこちらの世界ではほぼ、いや全くない。大気中の魔力に少なからず頼っている魔物には苦しい環境だろう。状況から察するに、本格的に向こうの対応は始まっていないだろう...。こちらの数と考えて...一週間ほどか。一週間以内で探し出せればこちらに利があるな。
「まずはそうだな...近いしここ行こう。」
最初の目標は我らが母校と洒落込もう。
~~~~~~~~~~
青い空。澄んだ空気。僕は今、屋上にいます。一度やってみたかったんですよ。この世界の娯楽である漫画とかで屋上で風感じたり、話し合ったりするの。実際は鍵かかってたり、立ち入り禁止じゃないですか。
「んーー....!...眠い....。」
暑すぎず寒すぎない光で照らしてくれる星。このなときは、寝るにかぎ....。...ダメですね、起きましょう。先ほど見た感じでは、ここにはかなりの数が避難している。もともと規模が大きい高校であったことに踏まえ、近隣住民や生徒の家族がなだれ込んできたのも理由の一つだろう。
現状、魔力以外の力は感じられないが、そもそも分からない可能性もある。曰く、「なんか全部等間隔で並んでるのに一つだけ距離近かったら違和感あるでしょ?あれと一緒です。」とのこと。説明がよく分からないのが副団長クオリティ。
屋上に上がるまで先生や友達にもあったが、現状を把握できている人は少ないらしい。人間の知性を高く見積りすぎたか?とりあえず、時間も限られてるのでとっとと始めよう。
イメージするのは魔力の伝達。蜘蛛の巣のように張り巡り。情報を共有できる道。
「...[伝達。開始せよ。]」
配置していた魔物が応答する。犇めき合うように動いているのを感じる。突如、校門から悲鳴が聞こえる。
「き、来たぞ!!やつらだぁぁぁぁ!!!!」
屋上から見下ろすと、下種3級ビルベルを筆頭にムカデのような形をした下種4級キルキル。丸呑み蛙こと下種2級フローグが殺到している。
「閉じろぉぉ!!来るぞぉぉぉ!!!!」
校門をすぐさまに閉じる。しかし、数の暴力で決壊するのは時間のうちだ。ある程度の恐怖を煽れれば何体か校舎に回して中から荒そう。無意味に殺す必要はない。あくまでも炙り出すのが目的なのだから。
屋上から降りてくると中はパニックに陥っていた。誰もが逃げ惑い、阿鼻叫喚と化していた。こういう時こそ冷静にならなくちゃいけないのに、あーほら、そこやばいよ!荷物崩れ...あー崩れた。
四方に配置させたためどこから逃げても無駄だろうに。なんか悪い人になってる気分だ。いや、悪い人か。裁かれるべきは僕の方か。
「お母さーーーん!!待ってー!!」
「おいどーするんだよ!!逃げ場なんてねーぞ!!」
「じゃああいつらを倒せるって?!無理に決まってるだろ!!」
おーおー。凄いことになってる。不安が不安を呼び連鎖していっている。このまま放置していてもいいけどなぁ...。どうするか。
「律!おい律か!!こっちこい!!」
名前を呼ばれて振り返ると豪や守、他の生徒がいた。
「律も避難してきたんだな!!そっちにいると巻き込まれるぞ!!早くこっちこい!!」
連れられて入った場所は3-B。先日まで授業を受けていたお隣だ。中には簡易的なテントが張ってあったり、食糧が積み重ねてあったりと、生活の準備が着々と進められている跡がある。
外の様子と違って、ここの中にいる人たちは比較的に落ち着いており、外へ逃げるか立て篭もるか、それとも迎え打つかを話し合っている。
「律、俺たちこれからどうする。」
「と、とりあえず、逃げた方がいいんじゃないか!?」
豪はしっかり考えてるのに、守は逃げ腰だな。まったく、守らしい。...自然と笑いが込み上げてくる。
「り、律...?どうかしたのか、?」
豪が心配している。確かに急に笑い出したやばいやつだ。
「...いや、二人らしいなって思って。二人は僕の友達だよね?」
「え、急になんだよ。当たり前だろ。」
「仕方がないからね!僕が友達になってあげてるのさ!そ、そんなことよりも、早く逃げるなら外に出た方が...」
たかが二年半。されど二年半。大きな気づきを得て、大切な人間の友達もできた。もしかして、これすらも団長の予想通りなのだろうか。感謝しないといけないな。
窓から魔物が見える。どうやら、ここには目ぼしい反応が無いらしい。後は仕上げをして確認するだけか。
「豪、守。ありがとう。これ渡しとくね。多分あいつらから襲われなくなる。」
二人にお守りを渡す。魔力を込め、匂いをつけた守り。これがある限り、関係者であると分かるだろう。
「お、おう。ありがとな。それにしてもどうしたんだ?まさか外に出るつもりじゃないよな?」
「そうだよ律!豪の言う通りだ!逃げるなら皆んなで逃げようよ!」
...こちら側に来てまもない頃、高校生というものに身を移したが、明らかに異質な人と思われていた僕を見ないふりもできただろうに、わざわざ声をかけてきやがって...。別れが惜しいじゃないか。けれど、僕は帝国民で彼らは異国の人間。責務は果たさなければならない。
「...」
無言でドアを開け飛び出す。団長、絶対許さないからな!こんな感情...ここに来てなければ知り得なかったじゃないか。
「「律!!」」
~~~~~~~~~
豪と守が律をおいかける。外からは大きな破壊音と共に聞こえる悲鳴。土埃が舞い、視界が悪くなる。必死に呼びかけ、追いかける。律にとって大切な友人であるように二人にとっても律は親友なのだ。
「り、律....お前....」
疑問に思うところはあった。帰国子女という割にはどこから来たかをはぐらかすし、何より何も知らなさすぎる。それに体育の授業では人とは思えない記録を出したかと思えば、次からは平均ほどになっている。まるで怪しまれないように合わせてきているかのような。
それでも、変なところは多かったが律は親友で大事なやつだった。それも今日まで。どうやら目を伏せるのは終わりらしい。目の前には怪物の頭を撫でている律がいる。
「豪、守。ごめんね。」
違う。そういう言葉は聞きたくない。ただ、またあの頃見たいに三人で...!律の表情が変わる。あの顔は真面目に向き合う時の顔だ。つまりはそういうことなのだ。律はあいつらの仲間だ
「騙してたのか....!一年の時から...!なんで...!」
律は何も答えない。
「俺は...!お前のこと...!友達だと...!」
律は怪物にまたがるとそのまま外に走り出し、去っていった。律が消えていったと同時に、示し合わせていたかのように校門から校庭に侵入していた怪物は消えていった。この日、死者は出なかった。
末端による異世界侵略日記 お豆の墓場 @omameda
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