死にたがりが異世界で恋をする
紫野 葉雪
第1話
今、ある少年...
「....なんで、僕を迫害してくる奴らは今ものうのうと楽しく生きているのに...何で心の綺麗な人はこの世にいないんだ。優しい人程行きずらい世の中だってことは分かってたけど...ここまで非情とは思わないじゃないか」
とスラスラ出てくる言葉達、どれも全て本音である。しかし、どんなに本音を垂れ流したとしても夕の目に涙を流すことはなかった。大方、感情を抑え込みすぎてしまった結果なのだろう。だが、夕はそんなことはどうでも良くなっていた。幼い頃から考えていた夕の願いは『ただ..ただ、大切な皆とこれからも一緒に暮らしたかった』それだけなのだ。いくら夕が他の人とは違う力があったとしても、夕はただの人間なことには変わりない。それを忘れて夕はもちろん、夕の味方をした皆まで迫害したこの世界の人々を夕は永遠に許さないことだろう。そして夕が物思いにふけっていると美しい夕日を見た。
「....そういえば、僕の名前の夕って「夕日みたいに周りの人を癒し、寄り添い寛大な心で冷静に物事を判断することが出来ますように」って願いから..だっけ...?僕には大それた名前過ぎると思うんだけどな」
と夕は自嘲気味に呟く。そして、夕は思考を振り払うようにして段差に飛び乗り1歩踏み出したらいつでも落ちることが出来る状態になった。すると急に後ろから幼い頃から感じられる視線や気配を感じたのだ。するとその気配を醸し出す人物に話しかけられた。
「あら、そうかしら?私はあなたに似合っている名前だと思うのだけど..」
「....そう、ですか」
と夕は短く言いながら後ろに振り返った。すると、夕とは真逆のシルクのような白色のセミロングで青色と水色、ミント色が混ざりあった青系の美しい瞳の綺麗な女性が目の前にいた。そんな女性が夕に優しく微笑みながら、話し出す。
「こんにちは。初めましてと言うべきかしら、私の名前は
「....では、架雅巳さん。僕の名前は知ってますよね?幼い頃から僕を見てたんですから」
と夕に言われ嬉しそうな顔になる由紀。一方、ずっと淡々と話している夕。夕は内心で(早く、向こうに行ってくれないかな..人の目の前で自殺はしようと思えないし)と考えていた。そんな夕の表情を見ても尚、由紀は話す。
「あら、やっぱり気づいてたのね!」
「はい。そう言えばあなた、この世界の人じゃないんですよね?じゃあ..この建物の下の階に行くといいですよ」
夕はそう言い、屋上にある1つの扉を指さした。そんな夕に由紀は(....あんなことが合って尚、得体の知れない私に優しくしてくれるのね)と内心で呟いた。その心の声は、慈愛と優しさに満ちていたのだ。
「ありがとう!でも、私はあなたを置いて行ける訳ないでしょう?今にも飛び降りようとしている状態だもの」
「そう、架雅巳さん。早くこの世界から逃げた方がいいですよ。ここ...貴女の知っての通りこの世界は貴女のような優しい人には似合わないです」
と言い、由紀から目を逸らす夕。そんな夕に由紀は驚きながらも優しく微笑んだ。夕はその姿に息を呑む。なぜなら、由紀の微笑んだ姿がかつての母に似ていたためだ。
「....やっぱり、このまま死んでしまうのは勿体ない位優しいのね。あなたは」
「別に、僕は優しくないです」
「謙虚ねぇ、尚更ここで死ぬには惜しいわ」
と由紀はそう言いながら指を鳴らした。その刹那、景色が変わり屋上の美しい景色から由紀の髪のように白く汚れの無い空間に夕と由紀が同じ立ち位置で居た。
死にたがりが異世界で恋をする 紫野 葉雪 @Hayuki1007
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