第16話 門は閉じたまま

 目的だった国のブリッドには到着することはできた。


 「部外者はブリッドに入ることはできない。」

 「だから、なんで入れないんだよ。」

 「それが教義だからだ。」


 ただこの押し問答が終わる気配はしなかった。

 緊急なことや大事であることは伝えてはいるが、この2つ以外のセリフで返答をされたことが今のところない。


「入れないなら話し合いだけでも、そちらも緊急事態なもとはわかっているでしょう?」

「できない。教義がある。」


 ケルカさんにより初めて違う返答が得られたが、拒否する姿勢は変わらないようだ。

 甲冑のせいで顔色もわからないが、声も一定でまるで機械のような兵士さんだ。


「私たちも引けない事情があります。通してもらうまで待たせてもらいます。」

「…………」


 返事はなかった、しかし拒否されたこともなく一旦仕切りなおそうという形になった。


「で、どうするよ?龍の事を話しても無反応だったぜあいつ。」

「龍の印を見せても気にする気配すらありませんでしたね。」

 

 門番の兵士から少し離れたところで腰を据えて会議を行う。

 

「どうする?しばらく粘る予定ではあったが思ったよりも頑固そうだぜあいつ。」

「とりあえず、まだしばらくは粘りましょう。協力が得られなくとも、最低限なにか情報を得たいですし。」


 門番はかなり融通が利かない奴だった。国の仕事だろうからそれが当たり前なのではあるが。


「とりあえず交代で話しかけてみます?ここまでの休憩も少なかったですし全員待つ必要もなさそうです。」

「タローの言う通りだな。どのみち今日は入れるかわからないし野営の準備もした方がいい。」

「そうですね。とりあえず私から話してみます。」


 ということで一旦はここで滞在すること決まる。


「とりあえず私は食料になりそうなもの探してくる。川もあったし今日の飯は美味くなりそうだ。」

「じゃあ自分はテントの準備をしておきます。」


 各々が仕事へと向かう。

 テントと言っても小さく簡易的なものなので仕事といってもすぐに終わってしまうのものだ。


 「しかし、高いなこの壁。何メートルあるんだ。」

 

 ということで、すぐにやることが終わってしまい、周りの探索がてら見て回っていた。


「魔石ではないが、なんだろうなこれ。やけに堅そうだけど継ぎ目がない。」


 城壁といえば普通石などを積み上げているものだが、そうした感じでない。

 触ってみたが何かを塗ってる感じもしないので、元からこのような感じだと考えられる。


「だが、こんな固くて大きいものがあるか?」


 タローは鍛冶師だ、人よりも物の硬度などには敏感である。

 その肌感覚でこれはそこら辺の石とは明確に違うものであると理解できる。


「しかも国全体を囲っているしな。こんな加工できるものか?」


 門の方に目を向ける。相変わらずケルカさんが話しかけ続けているが無反応な門番。

 その後ろには大きな門は中央の扉が閉じられており、全体的として綺麗に整えられた形をしている。


「魔法で加工したものか?」


 興味尽きないものである。魔法が発達しているとは聞いていたが、予想以上のものがありそうである。

 この壁の向こうには一体どのような国が広がっているのだろうか。

 

「とりあえず、ケルカさんと一旦交代するか。」


 それを知るにはまずは入国できなければ意味がない。

 門番にずっと無視されているケルカさんのところへと向かう。


「あ、タロー様。交代ですか?」

「はい、とりあえずケルカさんも一旦休んでください。」

「ありがとうございます。正直、わかってても無視されるのは心にきますから。」


 少しいつもと違うというか、周りの環境の良い彼女には堪えてように見える。

 

「わかりました。ケルカさんも気にしすぎないでくださいね。」

「はい~。」

 

 ケルカさんの背中に声をかけると気の抜けた声でそう返して来た。

 まあかなり熱心に語りかけていたしそんなものだろう。


「えっと、ということで入れないですかね?」

「部外者はブリッドに入ることはできない。」

「ですよね。」


 すでにこれが無駄な問いかけであることはわかっている。

 しかし、こうも交渉すらできないとは思わなかった。


「あの、一応これもう一度確認してもらっても?」

 

 そう言って手の印を見せる。ここに着いた時初めにも見せてはいるのだが変わらいか確かめてみる。


 「部外者はブリッドに入ることはできない。」


 変わらないようだ。

 

「えっと……どうしたものかな。」


 とりあえずなにかきっかけを作らなくてはならない。ケルカさんも言っていたが諦めるにしても最低限なにか情報が欲しい。


「えっと、ブリッドってどんなところなんですか?」

「……」

「あの、あなたのお名前はなんていうでしょうか?」

「……」

 

 無反応。もはや指先すら動くようには見えない。


「名前は教えられない。決まりだ。」

「えっ?」


 そう思いきや急に返事がきた。

 特に何か会話が発展したわけでもないが、これだけでもかなりの進捗のように感じてしまう。


「じゃあなんとお呼びすれば?」

「決まりはない。」


 それは好きに呼んでいいよというお返事なのだろうか。


「えっとじゃあ門番さんで。門番さんはなんでそんな頑なに話を聞いてくれないんですか。」

「決まりだからだ。」

「それは誰も入れないのがですか?」

「ああ。決まりだ。」


 ぶっきらぼうだが確実に先ほどよりは話してくれている気がする。

 流石に彼も諦めてきたのだろうか。交代制で話しかけ続けられるとわかったら、そうなるのも理解はできるが。


「あの、なにならお話できるんですかね?」

「……禁止されいないことだ。」

「それはどんな?」

「国に関すること。」


 なるほど、閉鎖的と言っていたし情報統制は当然か。

 言われてみれば、侵入者は記憶を消して追い返していたと聞いている。閉鎖的というより秘密主義だ。


「なら、あなたのこととかは?」

「……話すことはない。」

「なら、なんで僕には返事をしてくれたんですかね?」


 彼の表情は見えない。甲冑が邪魔をして肌すらどこからも見えていない。

 しかし、彼が今考えこんでいるというの伝わってくる。


「……優しそうだからだ。」

「えっと。それはどうも。」


 予想外の答えだった。無機質な機械みたいな人だと思っていたが、そんな子供みたいな理由で返してくるとは。


 「あの、門番さんはどのくらいここにいるんですか。」

 「わからない。仕事だ。そういう決まりだ。」

 「覚えていないと?」

 「いや、わからない。」


 どういうことだろうか。普通大体は覚えていそうなものだが。


「えっと、僕は鍛冶師を10年以上してるんです。というか名前を言ってなかったですね。僕はタローです。」

「……」

「なにか話せること話しません?なんでもいいですよ、身の上相談とかでも。」

「……」

「できればお互いの上司とかが話し合えれば理想なんですがね。」


 ケルカさんの気持ちがわかってきたかもしれない。これは少し自分が惨めに感じてしまう。

 会話は相手の興味というのが重要なんだ。


「話しは聞ける。国のことは話せない。」

「えっ?」

「私はなにも話せない。だから聞かせろ。」

 

 意外なことに、彼の方からこちらに興味を示してきた。


「とりあえず、僕の国の話でもしましょうか?」

「ああ。」


 そのあとはとりあえず、色々と話した。自分の国の話だとか、鍛冶師の事についてなど。

 当然、龍と敵対したエピソードについても語ってみたが、軽い相槌以外は特に帰ってくることはなかった。

 でも、長い話をずっと聞いていることだけは確かであった。


「で、まぁここに来るまで色々とありまして……」

「おーい、タロー飯の準備できたぞー。」

「あ、わかりましたー。すいません、門番さん。行ってきても?」

「ああ。」


 思ったよりも長いこと話していた。

 特に彼からなにかを話されてはないが、たぶん少しは仲良くなれたのではないだろうか。


「えっと、また話しても?」

「ああ。」

「それじゃあ、明日にでも。」


 なんとなく、仲良くなってなにか新しいきっかけを作れるような気がする。


「おい。」

「?」


 初めて門番の方から声をかけてくる。ついつい慌てて振り返ってしまった。


「部外者はブリッドに入るな。」

「それはどういう?」

「……」


 返事がない。彼はまた初めの何も返事をしなかった時に戻ったようだ。


「入るな、か。」


 その言葉は仕事ではない、彼自身のお願いのように思えた。

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武器はデカければデカいほど良い、美少女が持てばより良い 三重知貴 @tomotaka1001

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