第15話 デカい世界を旅する

この旅で目指す国ブリッド、実はその名前は正確なのかはわかっていないらしい。

 報告には大きな壁があり中央には王城が見える。そして門の入り口で部外者は追い返される。


「部外者はブリッドに入ることはできない。」

 

 そう兵士が言ってくる。なのでブリッドは国名だと考えられている。

 あとは魔法についてかなり発達していると予想されているくらいだろうか。


「しかし、わからないものだらけですね。」

「まぁ、世界なんて未知しかないですよ。」


 そう話しながら、今日も野営をしながら狩ってきた動物を捌く。

 今日は、キノコが生えている熊だ。なぜ、キノコが熊から生えてきているんだろうか、しかも中身も半分くらいキノコだぞ。


 旅が始まり一週間は立っていた。保存食はあるが基本的に現地調達というのが基本だ。

 初めはケルカさんと自分は慣れない物に苦戦していたが流石に慣れてきた。


「流石にもう特に驚きとかはありませんね。特に一昨日と比べれば。」

「まぁ、そうですね……」


 一昨日に食べた、鳥のような巨大生物。味は置いておいて、見た目がダメであった。

 まさかこの世に、見た目が目を逸らしたくなるような緑色に足が8本ある鳥がいるとは。


「しかし、ケルカさんはすごいですよ。あれをすぐ食べれるなんて。」

「覚悟はしてますから。それに色々と訓練はあるんですよ。」

「それは……流石大貴族の方という感じですね。」


 この一週間二人とは沢山話したが、大きく感じたのはケルカさんの逞しさだ。

 戦っているところは見ていたので強いのは知っていたが、大貴族の娘という事で勝手にこういう野営には向いていないようなイメージを持っていた。

 そんな人間がこんな仕事を国に任せられるわけがないとは旅が始まってすぐ気づくことになったが。


「しかし、一週間これだけ走ってまだ半分も行かないってのは改めて、この世界の大きさを感じますね。」

「しかも馬を走らせてこれですからね。」


 一週間、普通の馬の倍はあるかと思われる「黒馬」というのを走らせてはいるがまったく進んでいる気がしない。

 基本は森か山、たまに樹齢何年かわからない木々を切ったり岩を破壊しながら進んではいるが景色が変わらない。


「これでも、巨大な魔物にも遭遇してないから速いと思われますがね。」

「それがずっと続くといいんですかね。」


 様々な魔物を目撃することはあったが、襲われることはまったくなかった。

 翼が6つある鷹だとか、岩みたいな鱗を持っていた蛇だとか、言わずもがなどれもこれもがデカかったのだが襲われることがなかった。


「というか、その印が魔物除けになっているのかもしれませんね。」

「これですか?」


 龍につけられた敵の印。確かに人ではない魔力を感じるとか言っていた。


「生物の基本は強い敵には挑みません。例外もありますが、この辺りで生き残る生物はそこら辺間違えないでしょうから。」

「そういうものなんですかね。」

「俺もその予想で間違えてないとおもうぞ。」


 ケルカさんとの会話に木々の向こうからメルーラさんが入ってきた。


「お疲れ様です。メルーラさん。」

「ああ、とりあえず魔物除けはできた。今日はここで休もうか。」


 メルーラさんは焚火の周りに腰を据えると捌いた熊肉を焼き始める。


「その印だけど、私も魔物除けに近い効果はあると思う。」

「具体的にはどんな感じなんですか?」

「魔物除けは要は、魔物が嫌う魔力を作って魔物を警戒させる。で、それは魔力が異質で警戒されるって感じ。」


 魔力にも違いがあって、それが魔物は感じ取れるということなのか。

 メルーラさんの説明はいつも感覚的で合っているかわからないが。


「もっといえば、この土地の魔力じゃないのが警戒されます。国の周りの魔物除けも全ての魔物を弾ける訳ではないですから。」

「だから、兵士さん達が普段はそれらを狩っていると。」

「はい、魔力は相性があるとも言われます、それで偶に強い魔物は恐れず魔物除けを越えてくる。それを倒すのが我が家の仕事でもあります。」


 ケルカさんが肉を食べながら、さながら学校の教師のように教えてくれた。


「まぁ魔物が近づいてこないなら都合はいい。私の普段仕事なら5,6回はどこかしらで戦闘になる。」

「そんなにあるんですか。」

「これでも単独なら隠密的にできるから少ない方さ。複数人だと見つかりやすい。だから戦闘のためにケルカもつれてきたんだ。」

「私はそれの専門ですからね。そこらの魔物なら基本真っ二つですよ。」


 食事中とは言えない物騒な会話が続いた。昔倒した魔物の話やら家に伝わる強力な魔物の話だ。

 御伽噺を聞いているようで自分としては楽しかった、そしてキノコ熊は結構美味しかった。

 次があればスープにしたい。


「そろそろ、寝ましょうか。今日は私が最初に見張りをしますから。」

「わかりました。じゃあケルカさん、お願いします。」

「よろしくなー。」


 眠りにつく。今日の夜はいつにもまして明るい。前世では考えられないほどの星々が空を埋め尽くすように輝いている。


「(そういえば龍は空にいるようだけど、星が見えるという事は流石に宇宙に魔物はいないんだろうか。)」


 なんとなく、旅を始めてからは眠る前に色々と考えることが増えていた。

 だが、旅の疲れからか、直ぐに意識はなくなってしまうことばかりであった。


 次に目を覚ましたのはメルーラさんに体を揺らされた時だった。


「交代だ、頼む。」

「はい、メルーラさん。お疲れ様です。」

「ああ。ていうかさ、気になってたんだがよ?」


 暗くてしっかりと表情は見られないが、いつものはっきりといた声で聞かれた。


「いいかげんメルさんって呼んでいいんだぜ?これから長いんだ。そろそろ他人行儀がいらねーだろ。」

「ああ。なんとなく、慣れなくて。身分も一応上ですし。守ってももらってるし。」

「ここまで来たら身分なんてないようなもんだろ。」

「まぁ……」


 別に嫌なわけでもないんだが、仮にも貴族だし守ってもらってる。元来の性格でもあるが妙にそういう親しい呼び方になれない。


「ていうか、ケルカもだ。ずっとお前のこと様呼びだし。」

「それは自分も気になるんですが、そこはケルカさんの性格の部分なんじゃないですかね?」

「そうかもしれねーがな。」

 

 少し納得できないのか、声がなんだかすこしぶつくさした雰囲気を感じる。


「私たちは等しく命がけなんだ。そこに身分なんぞはない。あんまり距離感あるのは好きじゃない。」

「それは……メルーラさんは優しいんですね。」

「別に好き嫌いの問題さ。まぁ寝るよ。体力は温存しないとな。」

「はい、おやすみなさい。」


 一瞬焚火の明かりで見えた顔は唇を尖らせて態度を表明するようだったが、メルーラさんは横になるとすぐに寝ていまった。


「(ここら辺は流石にプロって感じだな。)」


 身分の違いに遠慮しているつもりはない。ただ、自分で壁を作っているのも事実だろう。


「この旅で二人とはもっと仲良くなろう。」


 焚火の前で、ひとつこの旅の目標を立てた。




 そこからの旅は色々あった。流石に魔物にも恐れることがあった。

 

 大きな山を越えた。

 栗のようなものが大量に落ちている山だった。その栗が人の背丈ほど大きくて刺さったら死ぬ程度だったが。


 サメにあった。

 川にサメがいるとはおかしな話なのだが確かにサメがいた。頭が二個ついていたが恐らくサメだ。


 大きな花畑もあった。

 どれもこれもが一回り大きな花々だった。その場にいた蜂も人間より一回り大きな蜂だったが。


 

 他にも色々あったが、国に戻って休める日までは、少ない荷物として持ってきた日記に記しておこうと思う。

 なおデカい魔物はだいたい二人が倒したりしてくれた。


「あれだな。」

「やっとですね。」


 そんな旅をなんとか続けていると遂に国へと到着した。


「あれがブリッドですか。」


 遠くには綺麗な青色の城が見える。そしてその城を中心にするように建物が広がり、囲うように大きな壁がある。


「とりあえず、中央に門がある。そこに向かおう。」


 ブリッドの周りには森が広がる。当然、道が舗装されているわけでもないがメルーラさんが迷うことはない。


 森を抜けると、大きな壁にでる。近くで見て気づいたが、壁というより大きな石を置いたような、継ぎ目のない壁。


「あっちだ、行こう。」


 メルーラさんについていき、壁に沿って移動しながら、唯一と思われる国に入る門へと向かう。

 

「あれだ。」


 メルーラさんが指差す方には確かに門と、強大な鎧を着た男がいた。


「おう!久しぶりだな門番!」


 メルーラさんが早速声をかける。

 そして門番はゆっくりと、その大きな巨体を立ち上げる。


 顔を上げる。首が伸びていまいそうだ。ケルカさんのお父さんよりも遥かに大きな男である。


 「部外者はブリッドに入ることはできない。」


 男は、機械のように冷徹に、警告するようにそう告げる。


「すまんな、今回はそういう訳にはいかないんだ!」

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