第14話 お説教、そして旅の心得

 武器の制作をしていたら気絶していた。

 10年以上はこの仕事をしているはずだがこんなことは初めてだ。


「いいですか、人間の魔力はエネルギーです。魔力を消失すれば死に近づくこともあるんですよ。」

「ああ、ごめんなさい。」

「連絡が取れず気になってみたら作業場で寝ているとはもう少し常識的な考えを持ってください。」


 ということでケルカさんにこってりと絞られていた。

 魔法については使えるからと今まで深く考えてこなかったがかなり初歩的なミスをしていたようだ。


「いいですか、人間自体も魔力の塊みたいなものです、というかこの世の物は全てが元は魔力です。」


 ケルカさんは、いわゆる学問的な話での魔法を教えてくれた。よく理解はできなかったが、概要はわかった。

 この世の物は全てが魔力によって構成されている。だから魔法で出したり操作したりが可能なそうだ。


「で、身体強化をしながら魔石にも魔力をかけていたと?」

「まぁ、はい。」

「あのですね、そんな無限に魔力を流し続ければそうなりますよ。」


 ケルカさん達からすれば、一般人の魔法は効率が悪い物なのだそうだ。

 同じ人間なのに身体強化をしていてもかなり性能が違うとは思っていたが、そもそもが違うらしい。


「厳密には身体強化ではないんですよ。魔力で体を構成するものを無理に活性化させているだけです。」

「だから魔石も強化できたんですか。」

「まぁ、魔力を送るだけですから。反応したって感じですかね。」


 火に油をかけ続けて無理やり火力を上げた感じだろうか。


「ていうかどうしてそんなことを?」

「なんかいい感じにできそうな気がして……」

「で、それができあがったと。」


 完成した斧の方に目をやる。4mはあろうか巨大なハルバード、メルーラさんに頼まれ赤い装飾をほどこした、どこから見ても目立ち見つけられるであろう武器。

 彼女にぴったりのものだと思う。


「とりあえず、持ってみますか?」


 とりあえずこれ以上床に座ってお𠮟りを受けるのもつらいのだ。


「ん?おお、じゃ早速だが腕前を拝見する。」


 人の𠮟れている姿を遠くから眺めていたメルーラさんが待ってましたとばかりに早速ハルバードに持ち上げる。


「うん、いい武器だ。持ち心地からいいな。握りしめた時しっくりくる。」

「それはよかったです。」

「しかしだな。これ、本当に良く作ったな。」

「え?」


 不具合でもあっただろうか。いや、興奮して寝ずに作っていたしなにか失敗したかもしれない。もしそうなら職人として恥ずるべきだ。


「何かおかしいところが?」

「いや、これ魔石の純度いくつだっけ?」

「たしか、43と聞いていますが?」


 かなりの大きさと純度を兼ね備えた魔石だった。


「もしや純度が落ちてます?」

「いや、逆だな。上がっている。」

「本当ですか!?」


 なにか起きると思って試したがまさか本当にうまくいくとは。


「そんなこと可能なんですか?」

「さあな、だが現に出来ているんだ。可能ではあるんだろ。」


 正直自分でも何故かとはわかっていない。


「触ってみてもよろしいですか?」

「おう、いいぞ。」


 渡されたハルバードをケルカさんは目を細めながら丁寧に観察する。


「確かに、純度が上がっているような気がします。魔石に魔力を反応させながら圧縮したから?いや、そんなことは……」


 なにかブツブツと呟きながらハルバードの全身に顔を近づけている。


「あいつ、結構勉強熱心だからさ。」

「え?」


 メルーラさんが、珍しく小声で自分に耳打ちしてくる。


「本当は、家とかなければ研究者とかになってたと思うぜ。今の立場でも頑張ってるがな。」

「なるほど。」


 そういえば王様が言ってたいた、貴族も王族もそういうシステムだと。

 今のケルカさんを見ると確かにそういった苦労で成り立っている国なのだと思う。


「メルーラさんは何かやりたいこととかあるんですか?」

「いや、私はそういうのはないさ。今の仕事も十分好きだよ。めんどくせーけどな。」

「メルーラさんらしいですね。」

「まーな。」


 彼女も彼女で国のために様々な努力をこれまで積み上げてきたんだ。

 今まで貴族というものに少し羨ましさを覚えたこともあるが、最近は尊敬しか感じない。


「ていうか、そろそろケルカのあれを止めるか。」

「そうですね。」


 新しい武器に夢中なケルカさんを止めに入る。武器を手放す彼女はなんだかおもちゃを持った子供のようだった。


「というか二人とも、私に何か連絡をしていたんでしったけ。」

「あっ、そうでした。出立のめどが立ちましたのでご報告の連絡を。」

「ああ、なるほど。」


 そういえば今回の仕事はこれからが本場であった。忘れていたわけではないのだがついつい気を取られていた。


「今から、一週間後になります。戻るのは場合によっては年単位で先になる可能性もあります。色々と準備をお願いします。」

「わかりました。」


 年単位で国を出る、まぁ外国に行って次の国を見つけたらそっちにもとやっていたらそうなる可能性もあるのだろう。

 改めてこの世界は多きすぎると感じる。


「一応旅の途中まで連絡は可能ですが、ある程度の距離が離れると限界があります。家族などには挨拶もしておくべきと思います。」


 目を合わせず、ケルカさんは伝えてくる。

 命懸けの旅にもなるだろう。つまり、そういう覚悟と準備をしておけということだ。


「ああ、両親や友人には顔を出しておきます。」

「はい。あと物資などは準備については大体はこちらで済ませます。持ってくる物は任せますが長旅ですので物は選んでください。」


 物資、そういえばあの、武器を出す時のあの魔法は使えないのだろうか。長旅ならかなりの物資になると予想できるのだが。


「あの、物資って魔法で持ち運ぶんですか?」

「収納の魔法ですか?あれは容量的に武器でほとんど持っていかれますので。物資を運べるものではないんですよ。」

「ああ、なるほど。」


 そんな便利な魔法でもないらしい。そんな魔法あれば一般の暮らしも大きく変わっていたんだろうか。


「ですので食料も現地調達です。他の国で調達できれば理想ですが、今回の旅はあまり予想通りにはいかないでしょうから。」


 なんだか、前世で見たアニメのようで、それはそれで楽しみである。


「(まぁ、どうせなら楽しむくらいの気概で行かないとな。)」


 命懸け、人類の存亡、様々なものがかかっている訳ではあるが、下手に緊張するよりもそのぐらい吹っ切れたほうがいいだろう。


「なんか、お前自信たっぷりって顔だな。」


 メルーラさんが顔覗きながら面白い物を見るようにそう言ってくる。


「ええ、今回の武器の制作のおかげで自信になりましたし、ここまで来たらやるしかないですから。」

「はは、いい気概じゃねえか!俺は好きだぞそういうの!」

「私は……まぁ後悔のないようにしてくださるなら。」


 各々に様々な感情はあれど、この三人ならばうまくいくのではないかと感じさせられた。




 それからの一週間は早かった。

 実家に戻り父親と沢山話した。


 「でどうやったんだよそれは?」


 ほとんどが鍛冶の話ばかりで、子供からでも技術を吸収する気満々であった。


「(家を出るときに衰えるとか言ってたくせに。)」


 親がいつまでも元気なことは嬉しいものだが、最近になって父の偉大さを知った後だと、ここからこの人は更に成長するのかもしれない。


「まあ、こっちは任せろ。どうにかしてやるさ。」


 これから国の鍛冶師をまとめることになった父。目指す背中はまだ見上げるほどデカいものになりそうだと感じた。


 それ以外も話したい人は沢山いたが、まあ機密もあるので深くは話せなかった。それでもまた戻ろうと思える一週間であった。


「では、参りましょうか。」

「はい。行きましょうか。」


 あっという間に日常から、想像のできない旅が始まる。

 出立日、飛竜で迎えに来てくれたケルカさんと国の端、森へとつながる草原に向かっていた。


「この一週間はどうでした?」

「まぁ満足いくかと。準備は万端です。」

「それはよかったです。」


 ケルカさんも表情が明るくなっていた。会議が連日続いていた時は疲れていたようがこの一週間でかなり休めたのだろう。


「もうすぐですね。メルーラさんは先に馬を付けて待っています。」

「そうですか。というか、馬って僕は乗ったことないんですが、大丈夫なんですかね。」

「大丈夫です。王家の馬は特別賢いですから。ある程度の指示さえ出せれば子供でも乗れます。」


 そんなすごい馬がいるとは。最初の国は1か月と聞いているしかなりいい馬なのだろう。


「見えてきましたよ。」


 ケルカさんの言葉に、飛竜から下を覗き込む。

 メルーラさんのような人影と、3つの大きな影が見えた。


「(あれかな、恐らくあの3つは馬?ん?大きくないか?)」


 少し疑問を覚える。がそれを待つこともなく飛竜は降下し始めるため、落ちないよう飛竜を掴む。


「おう!きたな!」

「メルーラさん、お待たせしました。」

「おう。ん?おいタローどうした。口が空いてるぞ?」

「えっとあれは?」


 目の前には馬がいた。いや馬のようなものがいた。黒い体に筋骨隆々でメルーラさんの武器よりも遥かにデカい体。


「そらあ、馬だぞ?」

「馬ですね?」

「はぁ。」


 そういえば、この世界はなんでもデカいのであった。

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