異世界ポンコツロボ ドンキー・タンディリー(1)

紅戸ベニ

第1話 雲の高さから五人が……落ちる!

(★作者からのことば:できるだけ小学生が読めるように書いています。ここから読みはじめてもこまりません。ただ、このすぐ前のエピソードもあります。『回想かいそう・ベルサーム 巨大ロボット侵攻しんこうの日』https://kakuyomu.jp/works/16818093086540669105/episodes/16818093086540722718 では、ごゆっくりとお楽しみくださいませ)


  ※      ※     ※      



「バノちゃん、お話、聞いて?」


 ウインは、自分から教えることがあるということを、うれしく思っています。教えてもらうばかりではなく、少しでいいからおかえしをしたかったのです。

 地球からとつぜんに異世界いせかいに来て、何日かが過ぎました。

 なにも知らないままやってきた異世界であっても、ウインが学んできたことがやくに立ったのを話したかったのです。生きるためにたくさんのことが役立ちました。家族に教わったこと、学校で学んだこと、それから、本で読んで知ったことも。ここでウインが生きる大きなささえになったのです。

 ウインは読書好きの十一歳の少女です。

 物語を読むことで、たくさんの冒険や楽しいこと、悲しいことを経験けいけんしてきました。知識も手に入れることができました。おかげで、はじめてのことだらけの異世界でも、それなりに適切てきせつな行動をとれたと思います。

 それに、話したり書いたりと、言葉を使うこともできるほうです。


 ――バノちゃんと出会うまでも、出会ってからも、すごい体験たいけんの連続だったんだよ。


 そんなふうに心のなかで思います。

 乗り物の上にこしかけていると景色けしきが流れるように通りすぎていきます。

 遠くのなにもない大地はゆっくりと。近くの石や砂だらけの地面は、走りさるような速さで。ウインの乗った大きなマシンのそばを風にまき上げられた砂がうずをまいて後ろにとんでいき、荒野こうやの空気があせをあっというまにかわかしていくのです。見上げると、地球とすこしも変わらない青い空が広がっています。

 けれど、ここはウインたちのふるさとの星ではありません。異世界のダッハ荒野。人のほとんど住んでいない何千キロメートルもの距離きょりにわたってつづく乾いた土地でした。

 ウインのトレードマークのポニーテールが風にさらわれて、うしろにたなびきます。旅立ってきたオアシスにもどろうとよびかけるようです。

 ――うしろには、もどらない。

 心だけ、思う気持ちだけを、前へと、遠くの空と自由な風に乗せて飛ばします。

 ウインの声はとなりに座る少女にむけてつむぎだされてゆきます。

 もうひとりの少女、バノが答えます。


「聞かせてくれ、ウイン。このダッハ荒野に君たちが現れた日のことを、教えてほしいよ」


 バノは少女ですが、男性のように話します。

 金色のかみをくしゃくしゃのくせっ毛のまま無造作むぞうさたなねた髪にしています。軍人の着るような青いごわごわした綿布めんぷのジャケットを羽織はおっています。

 日本人ばなれした容姿ようしのわりには、日本語を自分のことばとして話します。


「私は、君たちの大冒険だいぼうけんのうち、わずかしか知らないからね」


 荒野の大地を見つめて、またウインのほうを向きました。

 バノは、あとからウインたちの仲間になったたので、知らないことがたくさんあったのです。

 うなずき返して、ウインは、語り始めます。

 わずか数日前のウインたちが体験した物語の記憶きおくを。

 地球から異世界に飛ばされて来てまもなくの、命がけの冒険ぼうけんの話を――

 黄色い太陽が、二人の顔を照らします。

 ウインは、数日前のできごとの数々を思い出しながら、少しずつ語りはじめました。


   ※    ※    ※  


 ――雲の高さから落ちる人の気持ちがわかりますか。


「やだやだやだやだ、落ちる落ちる落ちる、死ぬ死ぬ死んじゃうー!」

 ウインは、声をふりしぼって、雲の高さから落ちてきました。

 といっても、身一みひとつで落下したのではありません。

 丸い乗り物の中に詰め込まれて、空に飛び出してしまったのです。

 イメージしてみてください、観覧車かんらんしゃのゴンドラを。人が乗った物体が空中に飛び出したような、そんな状況を。

 ウインを含めた五人の子どもたちは、せまい乗り物に入ったまま空高くにふき飛びました。今、何百メートルという高さから落ちようとしています。

 あきらかに、命が大ピンチです。

  青色にかがやく金属きんぞくの球体は、たまごにややたまるい形で、元は人型に作られていました。

 その正体は、ベルサーム国の甲冑かっちゅうゴーレム。

 人が作ったロボットのようなものに金属の板を甲冑、つまりよろいにしてかぶせたものです。いわば一人乗り戦車といったところです。

 ウインたちがめこまれている部分は胴体です。手足は、放り出されたときにちぎれてなくなってしまいました。

 ベルサーム国から脱出だっしゅつするときに空間のけ目の中につっこんでしまったために、空高くにふっとばされたのです。


 少し前のこと。

 芝桜ウインは、甲冑ゴーレムの中で目をさましました。

「私、どこにいるの? なぜ体がふわふわしてるの?」

 自分のおかれた状況じょうきょうをすぐに理解することはできませんでした。ポニーテールの髪型かみがたにした頭をぶるぶるふって、頭をはっきりさせます。

「やばっ、私たち、ベルサーム国から逃げてきたんだ」

 まず、自分たちが悪い大人たちから追われる立場であることを思い出しました。

「しかも、新兵器しんへいきの甲冑ゴーレムを泥棒どろぼうして逃げてきたんだった!」

 戦争の道具をぬすむというとんでもないことをしでかしてしまったことも、思い出しました。

 続いて、自分が空中にいることにも思いいたります。のぞき窓から見える景色は高い建物や山の上からとそっくりでした。ふわふわしているのは、ほんとうに体がいた状態になっていたのです。

「うわっ、空中を吹っ飛んでる!」

 この機械は空に浮きやすい魔法の性質を帯びています。ウインたちは知らなかったのですが、飛行試験ひこうしけんタイプのマシンで、こわれてしまっても雲の高さを横すべりするように飛んでいます。

 下に広がる景色は、どこかの荒野。白茶しらちゃけただだっ広い荒野です。

「たっ、高いよ、電波タワーくらいじゃすまない高さだよ。雲の高さだよ」

 考える力がもどってきました。そうなると、自分のおかれた状況がとんでもないピンチだとわかってきます。

「やばいやばいやばい、落ちて死ぬ死ぬ死んじゃう!」

 お腹の下のほうがきゅうっと痛くなりました。あせる気持ちばかりがふくらんだときになる、いやな感じです。

 なんとかしなきゃ、とつぶやいてまわりをたしかめます。

 ウインより一学年下の友人、本殿ほんでんパルミがそばに見えます。黒髪をボックスカットで短めにして、毛先に動きをつけたウルフパーマっぽくしたおしゃれな形にしています。

 ――パルミの眠っている顔もすごく美少女。この顔だけ見ていると、この子の口の悪さをわすれそう。

 とウインはほんの一瞬いっしゅんだけ思います。

「パルミを起こさなくちゃ。ほかの子は……」

 視線しせんを横にずらすと、小さな加藤カヒの顔が見えます。ウインもふくめて女子が三人です。仲間は五人。

 のこりの二人の男子の姿も見えました。

 同級生の元気な少年、庵小柄あんこづかトキトが手足をもぞもぞ動かしています。目をましつつあるのでしょうか。その足元に、甲野こうのアスミチもいます。

「ねえ、トキト、起きて、ウインだよ。もしもーし!」

 ウインは自分と同じ六年生のトキトを目覚めさせることにしたのです。五人の中では、ウインとトキトが最年長でしたから。

 死ぬか生きるかの大ピンチを、乗りこえるために。

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2024年10月22日 17:00
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