第18話 プロローグ

 頭の中がぼんやりと霞み、意識がゆっくりと浮かび上がってきた。


 体の締め付けられる感覚が無い。

 いつもならエメアに力強く抱きつかれてるのに。


 当たり前だ。

 死んだのだから。

 

 そう思うと目を開ける気にもならない。


 ……いや、おかしい。

 死んでいるのに、考え事をすることが出来ている。


 私はそっと瞼を開けた。


 すると目の前にあったのは、テレビと色んなゲームのソフト達。


「……ここはあの子の部屋……………なんで?」


 驚き過ぎて思考が一瞬停止してしまった。

 エメアを助けた直後のこれ。


 情報量の数で吐きそう。


 ……いつの間に日本へ帰ってきたんだろう。

 っていうか今まで起きたことが、全て夢だった可能性すら……


 ――――――カチャカチャ、カチャカチャ


 聞き慣れたボタンの叩く音が、背後から聞こえてくる。


 私以外に誰かいるようだ。

 そんなの候補は1人しかいない。

 ここはあの子の部屋なのだから。


 少しだけ後ろを見るのが怖い。

 

 名前を覚えてないし、それに……エメアとの出会いが夢だったらって思うと…………

 とはいえこれでは何も進まないので、確認するしかない。


 私はゆっくりと音がする場所に、視線を移した。


 そして目の前にいる人物を見て、また思考が止まる。


「あ〜もう、またゲラコ◯ッツに負けた……!」

「…………なんで貴女がここに?」


 そこにはベッドに寝転がって、ゲーム機で遊んでいる、ムムララの姿があった。

 

「なんだお前、やっと起きたのか」

「なんで貴女がここにいるのかって、聞いてるんです! 答えてください!!」


 あの子じゃなくて、ムムララ?

 

 もう何もかも分からない。

 こいつは日本にいるはずのない人物。


 それとも日本と異世界で、行き来が出来るとでも言うのだろうか?

 

「うるさい奴だな。アレとわたしを一緒にするのはやめろ。虫唾が走る」


 銀髪の女性はゲーム機を置き、低く冷たい声で言った。

 私から視線を外すことなく、額のあたりに刻まれた皺が不快感を隠しきれていない。


 人違いだった?

 ……確かによく見ればムムララとは違う所がある。

 

 眼の色。

 ムムララは青だけど、この人は金色。

 

 でもそっくりさんとかいう次元じゃない。

 それくらいには似過ぎている。


 まあ別人なら別人で構わない。

 そんなことより重要な事がいくらでもある。


「それはすみません……あの、聞きたいことが山ほどあるんですが、よろしいでしょうか?」

「あぁ、わたしも言いたいことがあるから手短にな。あまり時間が無い」

「ありがとうございます。ではここはどこで貴女が誰なのか、私はどうなっているのか、エメアが無事なのか、何故貴女がここにいるのか、などをお聞かせ願いたいです」


 質問が多かったかもしれない。

 でも仕方ないと思う。

 この状況、知りたい事が多すぎる。

 他にも聞きたいことはあるけど……


「お前さ、手短にって言葉が聞こえなかったか?」

「充分に短いと思いますけど」

「……はぁ、分かった。お前のして良い質問を一つに絞る。何を聞きたいかさっさと決めてくれ」

 

 めちゃくちゃめんどくさそう。

 扱いが雑すぎる。

 視線がゲーム機にチラチラ行ってるし、多分早く再開したいんだろうな。


 とても横暴。


 でも、して良い質問が一つというなら、これしかない。


「分かりました。では私からの質問は、エメアが無事なのか? だけで良いです」


 結局、私は私のことなんてどうでも良い。

 夢オチでなければ……だが。

 

「そんなことを知ってると思うのか? 赤の他人だぞ。わたしをなんだと思ってるんだ、お前」

「神様……とかじゃないですか?」


 状況が状況だから、私にはこの発想しか出てこなかった。


「なるほど……言い得て妙だな」

「というか知らないんですか? だとしたら別に聞きたい事も、特に無いんですが……」

 

 エメアに比べれば、他全ての優先度が下回る。

 他にも聞きたいことはあったけど、私が1番知りたいことを知らないのなら、聞く気も失せるというもの。


「なにを期待外れみたいな目で見ている。妾が与えた力を使って、獣人の娘を飛ばしてのはお前だ」

「は…………?」

「飛ばした本人が方向を知らないと、おかしいだろ?」


 この人が与えた力。

 何の事だろうか?

 

 いやでも、それ以上に……


「時間が無い。そろそろ自己紹介といこう。わたしの名はゼレシア」


 ゼレシア。

 

 聞き覚えがある。

 商人が色々教えてくれた時に出た名だ。

 確か――


「この時代では、世界を滅ぼしかけた邪神と呼ばれているらしい」



 

 ---




 邪神か。

 だから何だという話でもあるけど……

 私、死んでるし。


 一応自己紹介を返しておいた方が良いのか……な?

 相手が相手だが。


「えっと、私の名――」

「いや名乗らなくていい。お前の名前はアイラ。それは知っている」

「はぁ、そうですか……」


 ここは知っててもコミュニケーションをとって欲しかった。

 

 そんなに時間が無いのだろうか?

 視線はゲーム機に向かってるのに、時間が無いとはどういう事か、凄く聞きたいんだけど!!


「それと知りたがっていた、いくつかの質問を簡潔に答えてやる」

「それはどうも……」


 質問……ね。

 もうどうでもいいな。

 早くエメアに会いたい。

 あぁでも、次会う時はエメアが死んだ時になるのかな。

 

「一つ目、この場所はそうだな……簡単に言えばお前の精神世界、記憶、もしくは魂の中だ」

「魂の中……?」


 私の精神世界ってあの子の部屋なんだ。

 どういう原理でこの部屋になっているのか知らないけど、私の中がエメアじゃなくて、あの子の部屋だという事がとても気持ち悪い。


「落ち込む必要はない。この部屋の内装は、妾がリフォームしたからこうなっているだけだ」

「それはよか……今、ナチュラルに心を読みませんでしたか?」

「妾がリフォームしたと言ったろ。記憶を基にやったんだから、心くらいは読めて当然だ。普段は読まないが……あまりにも落ち込んでいるように見えたからな」


 それでこの訂正か。

 普段は読まないっていう保険を入れられても、喋ってる相手が心を読んでくるのは、普通に気持ち悪い。


 優しいのはありがたいんだけど、この人……邪神とは早く関係を切りたいな。


「記憶も読めるからな。後で考えていたことを読ませてもらうぞ。覚悟しておけよ」

「……本当にやめてください」


 最悪だ。

 というか今『後で』って聞こえた気がする。

 

 私に後が存在するのだろうか?


「二つ目。これは質問に答えるというよりは、妾が勝手にやったことだが……」

「記憶を読まれてる事があまりに最低なので、何を言われても驚きませんよ」

「アイラ――お前には生き返ってもらう」

「うそ……!?」


 私が生き返れる?

 

 つまりエメアに会いに行ける!!!


 なんて最高なのだろう。

 もはや記憶云々がどうでも良く思え――

 

 いや……そういえば話をしている人物が、あまりに問題だった。

 相手がただの神様なら良かったけど、残念ながら【コレ】だ。


「失礼極りない思考」

「すみませんでした!!」


 忘れていた。

 記憶も心も読めるんだった。

 発言に気をつけないと、生き返るのが取り消しになってしまうかもしれない。


 エメアに会えるのなら、媚びを売る相手が邪神でも構わない。


「何か勘違いしているようだが、生き返らせるのはお前の都合じゃない、妾のためだ」

「えっとつまり……エメアに会うことを、許してもらえないってことでしょうか?」

「それは好きにすると良い。行動制限を掛けるつもりは特にない……だが、その都度出す妾の命令には従ってもらう」

 

 この神様が何を求めているのか、いまいち分からない。

 ちょっと高待遇すぎる。


「話を進めるぞ」

「はい」

「生き返ってもらうと言っても、元の体ではない。消し飛んでるからな」

「では、どうするんですか?」

「お前はもう少し、自分の体に違和感を持った方が良い」


 ゼレシアは右手を横にパッと出し、全身鏡を創りだした。


「これで自分をよく見る事だ。その体とは長い付き合いになるんだからな」

「……分かりました」


 正座をやめて、ゆっくりと立ち上がり、鏡の前へと進み出る。

 映っていた姿は、身長が大体10代前半くらいで、髪が薄い灰色、瞳が紫色の女の子……私。


「エメアより小さい」


 どうせなら身長は高い方が良かった。

 私の方が歳上なんだから、お姉さん振りたいのに……

 

「エメアエメアうるさいな。なんで妾と会話が成立する人族は、こんなのばっかりなんだ……」

「なんか……すみません」

「不満そうだから言っておくが、その体は妾が作ったんだ。だから成長することはない」


 微妙に嬉しい補足が入った。


 そうか、成長しないのか……

 そうなるとエメアに、身長マウントを取ることが出来ない。

 でも老化しないのは嬉しい……かも……?


 ここら辺は実感しないと分からない。

 

「……時間だ。今ここに長居するとお前がまた死ぬからな。出て行ってくれ」

「ちなみにどこが出口なんですか? あの世界の戻り方を教えて欲しいんですが」


 そう言うとゼレシアは部屋の出口を指した。


「その扉を抜けると、意識が覚醒するように作った」

「あの……質問したい事が他にも、山ほどあるのですが……」


 私は生き返れて、エメアに会いに行けるようだし、今確認できる事は、早めに確認しておきたい。

 

「後にしろ。まずは起きて目先の問題を確認すると良い。時間が無いと言った理由を理解するはずだ」

「まぁ、分かりました」


 特に知りたいのは、この邪神が私の精神世界で居座ってゲームをしている点。

 いつ出て行ってくれるのだろうか。

 というかナチュラルになんでゲームしてるんだろ、この邪神。日本語読めるの?


 ……いや、考えるのはやめよう。

 まずはエメア探しだ。

 

 それと並行して、この居候を追い出す方法も考えよう。


 そう思いながら扉の取っ手に指を掛けたら、呼び止められた。

 

「お前本当に失礼極りないな。出て行く前にこれを見ろ」


 ゼレシアはそう言ってテレビのリモコンを持ち、電源を付けた。


 そこに映っていたのは――


《神様……!!カスみたいな命で……申し訳ありません!……だけど私の全てを捧げて……願わせて下さい!》

《エメアを……救ってください。これからの未来を……祝福してあげてください。お願い……します》

《私の命だけで……足りないというのなら!存在を……記憶も……!魂の全ても捧げ……ます……だから、どうかエメア……エメア……を――》


「これな〜んだ?」


 終わってる……こいつ。


「死ぬ前の……私……です……」

「泣きながら言ったこの言葉に、嘘偽りがあったのかな? もしかして本心じゃなかった、とか?」


 こいつは邪神だ。

 とんでもない人に魂を売ってしまった。


「全て本心……エメアを助けて頂いた事、とてもとても感謝しています」


 私は地に頭を付けながら言った。


 この映像を盾にされたら何も言い返せない。

 

 あの言葉に嘘をつくことは出来ないし、私一人の力じゃ絶対にエメアを助けられなかった。

 もし救うことが出来なかった状態で、神様の都合で生き返っても、私は全く動かなかったと思う。

 多分、そういうのを織り込んで手助けしてくれた。

 

 ……それにしてもしばらくは、この神様の言いなりか……


 エメアに会いに行けるのは嬉しいけど、はぁ……余計なことを考えるの、もうやめよう。


「それでは失礼します」

 

 そして今度こそ扉から出ようとすると……


「待て待て。久しぶりに人と話したんでな、ちょっとした冗談だ。だから畏まる必要は全くない。むしろ気持ち悪くなるからやめろ」

「……中々に趣味が悪すぎる冗談ですね。そんなことが出来るのは貴女くらいですよ。きっと」

「ふん、さっさと出て行け。妾はゲームの続きをさせてもらう」


 なんなんだコイツ。

 ヤバい居候が出来てしまった。


 まあでもそこまで悪い人じゃない……と思いたい。


 私は扉を開けて、その先へ進む事にした。




―――――――――――

 あとがき。


ここまでお読み頂いてありがとうございます。

一章終了です。


ここから作者が今後の展開やら、いつ投稿するやらについて駄弁るだけなので、興味ない人はブラウザバックをお願いします。




ここから先の話は、簡単に言ってしまえば主人公がエメアを探しながら、色々なことを経験する物語ですね。

私は恋愛ものしか書いたことないので、しっかりとしたファンタジーものが書けるか不安で仕方ありません。勉強します。


それと「私達の冒険はここからだ」エンドでも良いかな〜なんて思ってましたけど、結構な人に読まれてるので、続きを書くしかない......プラスでアイラとエメアのR18短編をハーメルンかノクターンに投稿したいから、続きを書くみたいなところあります。


私は大体右手が勝手に動いて、書いてるような感覚が大きいので、17話を書いてる最中とか自分でも泣いてましたね。

作者特権みたいなものですけど、頭の中に映像と音楽付きで流れてきますから。


それと本当は2月の百合コンテストに出して、受賞を狙うネタだったんですけど、書きたい欲が先行した結果、世に吐き出してしまいました。

ちょっとした後悔です。


次の投稿は少し休んでから......というか書く内容をまとめてからですね。


今月中か、遅くても来月には再開します。


最後に楽しかった、続きが少しでも気になる思われましたら⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローをどうぞよろしくお願いします


⭐︎⭐︎⭐︎は最新話下部、もしくは目次ページ下部の「星で称える」から行って下さい。⭐︎⭐︎⭐︎だと嬉しいです〜


↓目次ページ

https://kakuyomu.jp/works/16818093086707883198

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邪神の使徒になった転生少女の冒険録 〜獣人の女の子に拾われました。調子に乗ってたら首を噛まれ1年の間、噛み跡が付いた状態で王都を歩かされるそうです〜 中毒のRemi @Remiria0831

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