8

その日の夜、僕は夢を見た。


「お兄ちゃん……」


それは、いつかの幼い頃にあった日の記憶。


公園のブランコに乗り、琉璃と一緒に翡翠を待っていた時。


「あのね?ワタシ、ひぃ君と結婚するの」


妹は、やけに嬉しそうに話していた。


「ヒスイと?」

「うん」


僕はそんな琉璃から視線を逸して俯いた。


漕いでいたブランコを止めて地面を見つめる。


「いいなぁ……」


ポツリと呟いた言葉に、琉璃は此方をチラリと見つめて言った。


「お兄ちゃんも、ひぃ君好きだもんね?」

「うん……」


頷く僕に、琉璃はニッと笑って告げる。


「だからだよ?」

「えっ?」

「ワタシが結婚するの」


琉璃はブランコを思いっきり濃いだ。


「ワタシが結婚したら、ひぃ君はワタシ達の家族になるんだよ?そうしたら、ワタシとひぃ君とお兄ちゃん。三人でずっと一緒にいられるから!」

「あ、そっか……!」

「うん!だからワタシ、ひぃ君と結婚するの!ワタシ達がずっと一緒にいられるように!!」


琉璃は楽しそうにブランコに揺られていた。


靡く黒髪が風に舞い、黒いワンピースの裾が揺れる光景を、僕は目を細めて見つめる。


そう。


全ては、翡翠と離れない為。


僕と琉璃が結託して。


「ザクロー!ルリちゃーん!」


あの優しい少年を僕達のモノにする為に。


「あっ、ひぃ君だ!!」

「ヒスイ、こっちこっち!」


三人でずっと一緒にいる為に……。


『お兄ちゃん』


夢の中で琉璃が笑って言った。


『これで三人、ずっーーと一緒にいられるね?』


左手のクスリ指に光る指輪を嵌めながら、駆け寄ってきた翡翠の左手に縋り付く琉璃に、僕は笑顔で感謝した。


「ありがとう。琉璃」



翡翠と結婚【やくそく】してくれて。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束 冬生まれ @snowbirthday

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画