第3話
喫茶店に来るの実は初めてではない。
現場仕事だったぼくは食事処がないと喫茶店で食べることが少ないがほどほどにあった。
なので注文に困ることはない。
だが、彼女は違った。
「喫茶店って初めて。デザートとかコーヒーとかそんなイメージがあったけど、意外に食事がメインなのね」
「まあ、イメージそんなところだよね」
カズ君とやらと来たことないんだねとは言わない。
男女の仲では喫茶店って割と定番な筈なんだけどね。
本当に脈というか意識すらされてないんだなとは思ったけど絶対に言わない。
大人とは面倒そうなことには自ら首を突っ込まないものである。
まあ今首下まで浸かっている気がしないでもないが……。
僕はブラックコーヒーをを頼み、彼女はパフェとフライドポテトとオレンジジュースを頼んだ。
……なかなか食うな。
「で、君の名前すら知らないんだけど自己紹介と行かないかい? 僕は佐々木優作。一年A組……は知ってるね。君は?」
「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。私は鯵白響(あじしろひびき)。隣のクラスのB組」
僕は思い切り顔をそらした。
噓でしょ? 流石に入学後二月で振られてる――告白すらしてない――なんて思いもしなかった。
脈どころか心停止してるくらいこの子と彼の間に脈は存在していないことになる。
本当に幼馴染? 実はお互い存在を認識してることを幼馴染と言ってない?
「やっぱりベイブ●ードとか遊●王とかミニ●駆に全力注いでるのがダメだったかな、この前ショップ大会で優勝したのもダメだったかも……男友達としか認識してないのかな……」
「色気のない理由出てきた」
なにこのホビーアニメの申し子。
ホビーアニメだったら君ヒロインだよ。
だが残念ながら現実なのである。
いくら多様性の世の中とはいえ好きな人がその多様性の一つを好きとは限らないのだ。
たぶんというか絶対に君が悪い。
「でもカズ君もホビーが好きなんだよ! いつも私の調整付き合ってくれるし新しいカードが出たら教えてくれるし! …………最近は音楽とかファッションとかそっち方面ばっかりだけど私に付き合ってくれるし……脈はあったと思うんだ!」
たぶんカズ君年の近い妹か娘くらいの生暖かい目で見てるよ。
このこ放っておいたら孤立しそうとか思われてたよ。
カズ君の優しさだよそれ。
カズ君のことよく知らんけど。
「そっか、僕はホビー系はてんでわからないけど優しい子なんだね彼は」
たぶんもう興味なくなってるけど幼馴染がハマってるものを否定せず付き合ってくれてるあたり本当に優しい。
僕の中でまだ何も知らないカズ君への評価は鰻登りだ。
「わかる!? そうカズ君は優しいの! 私を否定しないし他の女の子が私の趣味を否定しても庇ってくれたし! 私がお母さんにいい加減おもちゃを卒業しなさいって言われた時も『響が好きなものなんです。あまりお子さんの好きなものを否定しないで上げてください』って言って説得もしてくれたんだよ!」
「本当にいい子だね!? もう僕の中でストップ高くらいにはいい子だよカズ君!」
「でしょでしょ! カズ君は天使! カズ君は私の最高の幼馴染! あっ、ポテトきた。うまうま」
店員さんがポテトととコーヒーとオレンジジュースを持ってきたので一旦話を中断する。
見れば来た端からポテトをバキュームカーが如く口の中に放り込んでいく響さん。
そういうとこだと思うよ? 君が異性扱いされてないの。
というかシェア目的じゃなくて君一人で食べるのねポテト。
見る間にポテトが半分になった。
僕はなんとも言えない気持ちになりながらブラックコーヒーを啜る。
ここのコーヒーはとてもうまい。
今まで飲んだコーヒーの中で断トツだ。
だけどもう少し、もう少しましな気分で飲みたかったものだ。
なんだこの蝶になると思って飼ってた芋虫が実は蛾だったみたいな気持ちは。
もう少しこう、彼女を慰める感じになると思ってたのに君実はそんなに落ち込んでないだろ? なんで落ち込んでるのにそんなに爆食できるんだ。
やけ食いか? やけ食いなのか? でも凄い幸せそうな顔だな、じゃあやけ食いと違うか。
あ、ポテトなくなった。
「なのに! カズ君はほかの女の子と付き合っちゃった!! 私なにがダメだったのかな!? 私こんなにもカズ君大好きなのに! あっパフェ来たうまうま」
「そういうとこだぞ」
ポテトを食い終わり、急にスイッチが入ったかと思えばパフェに幸せそうに舌鼓をうっている。
こいつ実はそんなに同情してやる必要性ないな?
ある意味男らしい彼女に、僕はもう真面目に話を聞く気がなくなってしまった。
終わってから始まる学生生活 @kaigyakunaaitu
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