第2話

僕こと佐々木優作は小さなかころから友達作りがそこまで得意ではなかった。

 小学生の時には二人ほど友人らしきものもいたがそれとも疎遠。

 中学時代なんてまともに話したことがある人なんて一人だけだ。

 いわゆるぼっちであり、僕が勉強に打ち込むことになった理由もそれだ。

 打ち込むといっても学校の暇な時間を勉強に捧げていただけで、家ではそこまでではあったが。

 いわゆるコミュ障と呼ばれる人間であったのであろうし、関わりづらい人間であったと思う。

 休み時間になるたびに参考書開いてる人間なんてその時点で対話する気のない人間判定されてもおかしくはない。

 いじめがなかったのが幸運だっただろう。

 子供は異質を弾くのだ。

 だから比較的心優しい子が多かったのだろうと今なら思う。

 なぜ今、このようなことを言うのか。

 それは僕が友達の作り方を知らないということだ。


 「あー……働いてた時は全員年上だったからな……みんな気を使ってくれてたんだな……」


 僕は滑り止めで入った朝霧高校の非常階段にて、昼休みの間一人うなだれていた。

 入学して二月が経過していた。

 僕にはいまだ友達といえる存在はいない。

 いや、話す程度の子はいるが、なんというか仕事上の付き合いというか、必要なことだけ話す相手というか……染みついた社会人の経験が友人という立場まで気持ち的に足を踏み込もうとしない。

 というか相手が若すぎて精神年齢30代が10代と友達とか犯罪集がすごい。

 いや今の僕は16歳なんだから問題はないんだろうが気持ち的な問題だ。

 

 「いい年こいたら友達は作りづらい」


 別に一人でいる分にはどうってことはないが、親から友達一人いないのね、みたいな生暖かい目で見られるのが非常に心に来る。

 親を安心させてあげたいという至極まっとうな悩みではあるが、友達ってどうやって作るんだろうね。

 はあとため息ををつくと、非常階段の下、正確には校舎裏から声が聞こえてきた。


 「僕と付き合ってください!!」


 これぞ青春というべきか、学生らしさの固まりである告白イベントである。

 少し遠いので見えづらいがイケメン風な男と美女っぽい女の子がそこにはおり、男のほうは手を差し伸べて頭を下げていた。

 ……君は恋愛系のドラマを見すぎだと思う、そんな風に告白するやつ、まあいないよ。

 

 「よろしくお願いします」


 「やったぁあああああ!!!」


 「若いなあ……」


 どうやら告白は成功したみたいである。

 イケメン風の男と、美女風の女はどこか照れた表情で校舎に入っていく。

 恋愛か、はたして僕に縁はあるのだろうか。

 前の僕はそんな余裕かけらもなかったので考えすらしなかったが、今の僕は果たしてそういうことをするのだろうか。

 

 「まあ、その時はその時か……っておわぁ!!! 誰!?」


 「…………」


 そろそろ教室に戻るかと体を横に向けた瞬間、そこには何故か静かに涙だけ流した女生徒がいた。

 しかも非常階段の手すりが嫌な音を立てるくらい力いっぱい握りしめている。

 こわい。


 「えっと……行くね?」


 そう言って触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに僕は横を通り抜けようとし、肩をつかまれた。

 おっふ、神に触ってないのに向こうから触られた場合どういうんだろうか、魅入られたとでもいうのだろうか。


 「あれね、私の幼馴染なの」


 なにか言い始めた。

 顔は一切こちらに向けず、男がいたであろう場所を涙を流しながら見ている。

 こわい。

 普通に怖い。

 

 「私とは生まれた時から一緒にいてね、家も隣同士でカズ君は私をお嫁さんにしてくれるって言ってたの」


 「カズ君てだれさ、あーはい幼馴染ってやつつだね。残念だったね、じゃあ僕は行くね」


 「それでね、一緒の高校に入ろうねって約束して、いつの間にかあんなことになってたの」


 ち、力が強い……まったく離れない、肩が痛くないのに、凄まじい力が僕の肩に集約されているのを感じる。

 これでも前の僕の体に戻すために筋トレなりランニングで筋肉をつけてきたというのにそれが全く通用しない……。

 僕は彼女の手に宿ったとてつもないパワーに慄きながら、彼女の顔を見ると、涙は止まっているがブラックホールのような虚無の目をしている。

 色がないどころか黒い。

 本当に人間か……こわい……。 


 「ねえ、私どうしたらいいかな?」


 知らないよ?

 今日、というか今会ったばかりだよね?

 事情も…………今しがた聞いたけど、そんなこと僕に聞くかい?

 でもそんなこと言えない。

 ブラックホールのような何もかもを闇に吸い込むかのような目が怖いから。

 闇に引きずり込まれそうで、僕はどもりながらも答えた。


 「え、えと……ほ、放課後喫茶店にいかないかい、その、話したいことも沢山あるだろうし、その、ね?」


 問題の先送りである。

 というかアドリブに弱いな僕!

 言葉がまとまって出なかったよ!

 彼女は僕の言葉に一つうなずくと、教室に戻るのか階段を降りて行った。

 このまま彼女が僕のことを忘れてくれるように祈りながら僕も教室に帰った。

 しかしいったいどこのクラスなのだろうか。

 見た目だけで言えば腰までかかる長髪の美人であり、出るところ出てていて、ナイスバディの部類に入る女の子。

 高校生って時点でトキメキも何もないが、僕が若いままなら一目惚れくらいしそうなくらいには美人だ。

  

 「あんなに美人でも振り向いてもらえないとかあるんだな。近すぎると異性とは思われなくなるとはいうけど、本当なんだな」


 世の思い通りにならないことばかりだな。

 なんて、世の不条理と都合のいい奇跡が両方起きた僕はなんとも言えない表情で教室に戻った。

 そういえば名前聞いてないし何年生かも知らないや。

 

 

 放課後になった。

 そういえば今日は母がカツカレーを作ると言っていたことを思い出した。

 若いころの僕は料理なんて一切できなかったが、前の僕は妹のために自炊できるようになっている。

 今日は日課の筋トレもほどほどにして母の料理の手伝いでもするか、と思いながら鞄を手に持ち立ち上がり、教室の扉を開けた。


 「待ってたよ」


 「ひょぁはぁい!?!? ってビックリした!! ってアンタか!」


 「変な声だね」


 完全に忘れてた! というかこの子も覚えてた!

 てか僕クラス教えてないよね? どうしてここがわかったの!?

 というか開けるまで待ってたの!? 

 開けた瞬間虚無のような顔と砂漠で水を飲めていない遭難者みたいな声が聞こえてくるとか心臓に悪いよ! 誰でもさっきみたいな声出るわ!

  

 「え、えと……き、喫茶店……行く?」


 こくりと頷く彼女に、僕は内心大きなため息が出たが、放置するとなにしでかすか分からない不気味さがあったので仕方なしに彼女を連れ立って喫茶店に向かうことにした。

 下世話なことに、彼女は美人なのでクラスがどよめき、僕が付き合ってるとかなんとか声が聞こえてくるが、正直彼女の名前すら知らないので大いに間違いである。

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