相合傘


 置き傘はあるけど使わなかった。

 折り畳み傘も持っているけどないことにした。

 だって、そうすれば、付き合ったばかりの彼女と一緒に相合傘ができると思ったからだ。



「まなみ」

「あれ? 傘は? ないの?」

「忘れちゃったんだよね」

「今日は雨だって、散々、朝から予報があったのに?」

「うん。天気予報なんてあてにならないじゃん?」

「いや、こうして雨に降られてるけど……」

「まあね」


 そういうこともある。

 あてにならないけど、あたることもあるのだ。


「はぁ、仕方ないなあ……じゃあ、はい。相合傘する?」

「する」

「……もしかして、相合傘がしたいがために傘を持ってこなかったとか?」

「だとしたら?」

「…………あは。同じこと考えてるなあって思って」


 まなみが小突くように肩をぶつけてくる。それだけで分かった冷えた彼女の体をそっと抱き寄せて、彼女が持っていた傘を受け取った。こういうのは、男が傘を持つものだしね。


 青色の傘だった。

 透明なビニール傘しか使ったことがない俺としては新鮮だ。


 雨足が強くなってきた。けれど豪雨というほどではない。……いこう。

 傘を開く。

 めちゃくちゃ小さかった。


「……ん? 子供用?」


 折り畳み傘だったので気づきにくかったけれど、開いてみれば子供……特に小学生以下を対象にした幼児用の傘にも思えた。相合傘をするにしては、小さ過ぎるだろう。

 ひとりで使っても雨風がしのげないのに、ふたりで使えば意味がない。

 頭頂部だけ濡れなかったとしてもそれ以外が濡れてしまうという状況だ。


 傘を差しているのに濡れ続けているのは認識がバグってしまいそう……。

 俺たちは濡れながら、帰路を歩く。

 傘、いらなくない?


「これくらい小さかったら、相合傘をするのに密着するでしょ? ほら、こんな風に、ぎゅーって」


 彼女が抱き着いてくる。

 密着、というか、俺の体に入り込んでくる気みたいだ。

 俺の体の、横の切れ目を探して、隙間から潜り込んでくるつもりか?

 密着していようが濡れることには変わりない。ずっと濡れてる。ずっと……。


 濡れた彼女の髪が肌に張り付いて、普段は分からない色っぽさがあるなあ。



「相合傘は、傘が小さいほど、くっつくことができる理由になるからね」


「うん、まあそれはそうだけど……でもね、濡れないことが前提だからね?」



 …了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出前先は事故現場 渡貫とゐち @josho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ