聖女拾ったら人生変わった

おもち丸

第1話 スライム狩り

 「はぁ......仕事とはいえキツいな。暗すぎて全然前が見えねえし、何より臭いが酷い」


 ロイドは傭兵団の一員だった。傭兵と言えば響きは良いが、実際のところは便利屋のようなものである。

 事実、ここ最近の仕事は地下水路の清掃がほとんどだし、まともな戦闘にいたっては半年くらいしていない。


 「まあそう言うなよ。俺たちがこうしてスライムを駆除してるから王都は清潔なんだ。それにこういう汚れ仕事は報酬が良い」


 「最後のが本音だろ」


 無駄口を叩きながらも、俺たちはせっせとスライムを狩り続けた。

 スライムの倒し方は簡単だ。中心にコアと呼ばれる内蔵があるので、そこを剣でグサっと刺してしまえばいい。

 このコアは乾燥させると薬になるらしく、地上に持って帰ればそこそこの値段で買ってくれる。


 「——よし、今日はこんなもんか。コアは1人あたり16個......さすがに減ってきてるな」

 同僚のアッシュは独り言のように呟いた。

 さすがに目も慣れてきたのか、角張ったしかめっ面がよく見える。


 「そのうち絶滅するんじゃねえか?」


 「やめろよ、縁起でもない。スライム10体で銀貨が3枚も貰えるんだぞ?普通なら鉱山で1週間働いてようやく手に入る金額だ」

 

 「冗談だよ、それに関してはお前が正しい——って、おい。なんだ今の音......足音か......?」


 はっきりと聴こえたわけではない。しかしそれは静かに、不規則に鳴りつづけている。

 不思議なことに、その小さな足音によって俺たちの会話はぴたりと止まった。それは恐怖というよりも、一種の警戒に近い沈黙だった。


 「どうする?声かけてみるか?」

 俺は最大限の小声でアッシュに耳打ちした。


 「やめとけよ、凶暴なモンスターとかだったらどうする」


 「靴を履いたモンスターがどこにいんだよ」


 そんな風に口喧嘩をしていると、いつの間にか足音は止まっていた。

 あれっ、と思い後ろを振り返ると——————そこには、少女が立っていた。


 「うわぁ!!!!!」

 大人が出す声とは到底思えない、情けない叫び声が出た。

 アッシュも俺に続いてうわっ、と声を上げたが、どちらかというと俺の声に反応しているようだった。

 少女は引いていた。

 

 いくらなんでもこのまま会話はできないと思い、俺は腰にぶら下げていた水筒の水を飲み干してから口を開いた。


 「驚かせてしまってすまない。俺たちは傭兵団の者だ。君はどうしてここに?」


 「まさかお前、今更礼儀正しい好青年を演じるつもりか!?なんだその図太さ!?」


 軌道修正は残念ながら失敗に終わった。

 とはいえこの子を心配する気持ちは本当なのだ、それだけは分かってもらいたい。

 

 「ひとまず地上に戻ろう。安心しろ、俺たちはあくまで傭兵だ。子供を攫ったりするようなことはしない」

 アッシュはそう言うと、スライムのコアが入った袋を俺に持たせ、少女を背負った。


 「地上まではどれくらいかかる?」


 「1番近い出口なら10分くらいだな。スライムが少なそうな道なら倍はかかるが」


 「そっちで行こう。安全に越したことはない」


 お前も格好つけてるじゃねえか——と思ったが、口に出すのはやめておいた。

 か弱い子供の前だ。精一杯強そうに見せるのが大人の役目だろう。

 ならば俺も役目を果たさなくてはならない。

 この暗闇の中を先導し、彼女を守るという役目を。

 

 

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