明日は何して生きようか

辞甜

第1話

土曜日は特別な日。

特別に自分を殺す日。

私の隣で眠る彼女もそれは知っている。

ない事の様に振る舞うけれど、土曜の夜はいつも少し手加減される。

いつもはもっと、めちゃくちゃなのに。

これじゃあどっちが淫魔か分かんないねって、明日からは6回も、きっと私を笑わせてくれるのに。

本当は今日だってもっとぐちゃぐちゃにして、憂鬱なこのあとの事なんて全部考えらんなくして、そのまま甘いまんま死ねたらいいのに、なんて。

でも、これは隣りで目を瞑る彼女の願いでもあるから、息を潜めて私を引き止めない様に耐える健気な人からのお願いだから、死ねない。

あーぁ。貴女だけのものになれたらいいのに。

枕元にほっぽり出された薄桃色の眼鏡を指の先で弾く。カッ。硬くて冷たい音が鳴る。

私よりもずっと彼女の傍にいるのに肌のぬるさは移っていない。

彼女だけのものなのに。私は努力したってなれないのに。

無機物に妬いたって意味ないけど、彼女は寒がりなんだよって、私体温は高いんだってって、暖色のつめたいフレームに呟く。

だって、行ってきますなんて言いたくないから。

行ってらっしゃいなんて言われたらきっと、死んでしまうから。

だから、明日ホットケーキを焼く為に、溜めたドラマを見る為に。

知らないふりで男を漁る。

だって私は淫魔だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日は何して生きようか 辞甜 @1010musi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ