第2話
別に一人でも苦ではない
強がりではなくて本当に
ただ暗闇に一人ベンチに項垂れる先程の人物が、まるで孤独な自分を見ているようで無性に話しかけてみたくなった
看護師に見つからないように静かに外へ出る
ザーッという激しい雨音の中先程の人物に近づいた
「よかった」
思わず幻ではなくてよかったと声に出してしまった桜は、急に恥ずかしくなり赤面する
桜の声に反応するようにその人物はゆっくりと顔を上げた
胡乱な目を向けたその人物は息を呑むほどに綺麗な顔立ちをしていた
肩まで流れるような漆黒の髪、透き通るような肌、そして血のように赤い目━━まるでガーネットのよう
無機質な雰囲気を醸し出した若い男性だった
「きみは?」
桜はあまりにも現実ばなれした容姿を持つ人物を目の当たりにして、思考が停止していた
「何か用?」
なんとか意識を取り戻すことに成功した桜は、ゆっくりと深呼吸をしてから話しかけた
「……雨ですよ」
緊張していたとはいえ、我ながら初対面の人に何を言っているのだろうと思う
「知ってる」
答え終えると、また項垂れたその人の頭上に桜は折りたたみ傘を差し出す
「大丈夫ですか?看護師さん呼んできましょうか?」
「お腹すいた……」
「え?お腹が空いているのですか?」
桜の問いに男性はコクンと小さく頷く
「何か食べ物ないか聞いてきましょうか?」
男性はふるふると力なく首を振ると
ゆっくりと立ち上がった
「━━何を食べても満たされないから」
男性は桜の差し出した傘から抜け出ると、ゆっくりと病院へと向かって歩き出す
ここにいる人にしては珍しく随分と若い人物だった
20代くらいだろうか
桜は真夜中に空腹を抱えていたその人のことが妙に印象に残った
次の更新予定
桜とヴァンパイア 涙乃(るの) @runo-m-runo
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