序章…(断片)【無為の呪詛】

 ◇◇◇




 ――私達は、巫女。統べ導く巫女そんざい統巫トウフ

各々が万象の一端を統べる巫女達そなえもの御統巫オトウフ


 此土セカイを繋いで人世ひとのよを存続させるだけ要楔そんざい

人世みな恩恵ちにくほどこし、あたえて、授けささげだけ人柱そんざい

外からの災禍わるいものを払い、退しりぞけ、引き受ける生贄そんざい


 悠久の過去、摂理せつりいっした発展と増長の果てにおごり高ぶった人々が、愚かしき行為おこないの末に触れてしまったとされる禁忌なにか。その禁忌なにかもたらした厄災による罪と罰の咎辻くびきあるいは、人々がその存在を否定して喪われてしまった神様達かみがみ代行者よりしろ――。


 或いは、私達は、人を捨てた化け物――。

人ならざる身で、永遠に人に奉仕する化物。


 ――化物が輪になり、内側の人へご奉仕。

無為に受け継がれた、酷く歪な世の縮図だ。


 統巫トウフ系譜はじまりは、もたらされた厄災により此土セカイがもうどうしようもなくなったおりに、此土全土せかいじゅうに残ったあらゆる神秘を一身に受けた戦巫女しょうじょだとうたわれる。


 ただの平凡な神職の少女が、彼女の祈りが。

壊れた此土セカイを繋ぎ止めた。彼女自身を代償に。


 掉尾ちゅうびうろ。人の身ではなくなり、厄災を喰らえる厄災となり果て、それでもなお人世ひとびと明日みらいという理想を求め、自己を犠牲にした伝承の巫女様。


 巫女様は後を見据え、全てを統巫わたしたちに託した。

始祖たる巫女様に、最大限の敬恭と尊重を。


 しかしながら、


 ――ねぇ巫女様、ご先祖様?

貴女の選択は、正しかったのでしょうか?


 人はどこまでだって、愚かでしたよ――?


 ――ねぇ巫女様、ご先祖様?

いつまで私達は御役目を継げくるしみつづければいいのですか?


 救われる時は、訪れますか――?

 

 ――ねぇ巫女様、ご先祖様?

こんな此土セカイに本当に価値は有るのでしょうか?


 私達が心身を削り、何代も何代も重ね。

途絶える事すら許されず、犠牲になる意味は?


 ――巫女様、ご先祖様。おいでください。

答えてください。どうぞ、おいでください。

応えてください。どうか、おいでください。


 嘆いて、喚いて、神頼み。

 泣いて、叫んで、血を流す。


 やがて、


 私達の、肉も骨も風になり……。

 私達の、自も他も共になり……。


 遂に……そうかと、悟ってしまう。

幾程いくほどの命が無為に散り、幾刻流いくときながれが無為に過ぎ。


 私達は、おぞましき無為ものに成っていた。

 私達は、まわしき無為ものに行き着いた。


 もういいや。もう、やめよう――。


 ――どうせ、応えてはくださらない。

だって貴女は過去の人。だって貴女は無責任。

貴女はただの自己満足。貴女は唯の人の巫女。

貴女はただの自己犠牲。貴女は唯の人でなし。


 ――救いはいらない。あきらめた。

答えは決めた。幕を引こう……。


 ――貴女の逸話いつわなぞらえて。

是非ぜひゆだねて、さいを振ろう……。


 七辻ななつお仕舞いほころびこしらえて。

そろそろ納めに、参りましょう――。


 ――はじめに、一つ。


 貴女が眠った、その場所で。

報いそれを見定めに、参りましょう――。


 私達われらは、無意味な統巫ものおり

無為むい此土セカイに、あだを為そう――。


 どうぞ、おいでください。

 どうか、おいでください。


 せめて、無為われらめる為――。

 どうか、無為われらとがめる為――。




 ◇◇◇

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