第12話 時計と鏡

 時計がカチカチと音を立てている。針が周り、秒針は短針と長針を追い越していく。数字に針が重なると、そこだけおかしな記号に見える。まるでその時間だけおかしな空間の時間になっていて、時計はこの世界との繋ぎ役となっているのではないか思わせるほどである。数字は12個あるため長針と数字は12回以上必ず重なる。重なった時だけ時計の縁どりは赤紫色になり、空は緑色。テーブルクロスは七色に、なっている可能性は無きにしも非ずということだ。向こうの世界ではそれが普通で唯一その世界を覗ける時間を示す時計は身近に溢れている。合わせ鏡は異界に人を連れていく訳だが、この時計は人をどこにつれていくのか。私は答えを知っている。訳知り顔で目を見開いて、鏡の向こうから手を振ってみた。制服を着た彼女は驚いてから走り出す。家に帰って玄関のドアに手をついて息を整えていたからトイレの鏡からも呼んでみた。また彼女は叫んでスマホを両手で握りしめて何かに打ち込んでいたから一瞬暗くなった画面に映る彼女の後ろに陣取る。驚く彼女の瞳には時計。数字で時間は4時20分になるところ。4時だなんて音読みでし、つまりは死を連想させるから不穏。特に4時44分とかが不吉とされているけれど、それはこの時間から気を逸らすためだ。カモフラージュでしかない。本当に危ないのは4時20分。24分差があるだけで十分黄昏時の範囲内である。だって長針と短針が4に集まるから。辻は人が交わるから縁が絡まって色々溜まって何かが起きる。時計も針が集まって糸が絡まる。その糸にからめとられるのはこの時間。手首に糸を巻いて引きずって鏡の方へ。手繰り寄せるその糸を編むのは短針と秒針の役目である。時計と鏡の共存関係はこうして続いていくのであろう。

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物語とも詩ともいえない私設世界 @usiosioai

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