第49話 27番目に俺を振った美少女


 今まで告白してきた回数30回。

 綿密に計画を練ったものから、やけくそ交じりの無謀なものまで、様々な告白があった。


 だが、その中でも圧倒的な黒歴史と呼べる告白があった。

 それが、母方の従姉に当たる武田夏枝たけだかえに対するものだ。


 あれは去年の冬休み。

 一月と少し前にあった学園祭で、とある美少女に凄惨な形で振られた俺は、珍しくそれを引きずり、美少女の尻を追う活動に集中できずにいた。

 残された時間を考えれば、本来あってはならないことなのに。


 そんな心の状態で大晦日を迎え、母方の実家に帰った際、俺は彼女――武田夏枝に出会った。


 夏枝さんに会うのは約三年ぶり。

 彼女が高校に入ってから部活や受験やらで忙しく、会う機会が中々なかったのだ。


「おっ、覚っくん久しぶり~!」


 三年ぶりに会った夏枝さんは、口調こそ最後に会った時と変わらなかったが、大学生になったということもあり、髪は明るい茶色に染められ、メイクも本格的なものになっていて、印象は以前にも増して垢抜けたものになっていた。


「……覚っくん?」

「――っ、すいません。お久しぶりです」

「うわ~ちょっと固いよ覚っくん。もしかして私に見とれてたり?」

「――ま、まあ……」

「えっ、マジ? もう覚っくんったら!」


 何度か夏枝さんは俺の背中を軽く叩きながら、屈託ない笑みを見せる。


 最後に会ったのは、まだ俺があの決意をする前のことだったので、それほど意識しなかったが、改めて会って実感する。


 夏枝さんは本当に血が繋がっているかと疑いたくなるほどに美少女だ。

 

 それに加えて、昔と距離感も変わらず小さい頃と近い。

 

 その事実が、心が僅かに弱っていた当時の俺には、救いのように感じられて仕方がなかった。

 だからだろう、夏枝さんと別れるまでの数日間、俺は彼女と近い距離で楽しく話しているうちに恋に落ちたような錯覚を覚えてしまった。そして――


「夏枝さん」

「ん、どうしたの覚っくん。改まって」


 お互い元の生活に戻る前日。

 二人きりになったタイミングで俺は告げた。


「好きです。よかったら俺と付き合ってください」

「えっ、付き合うって……」

「もちろん、男女交際のことです」

「ちょっと、覚っくん。私たち従姉弟同士だよ?」

「そんなの関係ありません」


 別に従姉弟同士の交際が禁止されているわけではない。だが――


「ごめんね、覚っくん。私、彼氏いるから」


 俺の愚直過ぎる態度に、夏枝さんは困ったような笑みを浮かべながら答えた。


         ※※※


 今思えば、本当に愚かなことをしたと思う。


 どんなに心が弱っていたとはいえ、さすがに従姉へ告白するのは節操がないにもほどがある。完全に黒歴史だ。


 唯一救いだったと言えるのは、今回の告白を機に再び美少女と付き合うことへのモチベーションが戻ったことだろうか。


 とはいえモチベーションと引き換えにした代償は大きく、きっと、夏枝さんとしても俺のような男には二度と会いたくないと思われてしまったことだろう。


 だから、今年の夏は夏枝さんと会わないように実家へ帰ることを止めようかと考えていた。なのに――

 

「どうしたの覚っくん。何か顔色悪いよ?」


 避けようとしていたはずの相手が、自ら俺の部屋に上がり込んできている。

 一体どういう状況なんだよ。

 それに、どうしてこの人、こんなに平然としていられるんだ?


「いえ、その、どうして家にいるんですか?」

「えっ、叔母さんから聞いてない?」

「何をですか?」

「いや、私がしばらく居候するって」

「……は?」


 普通に聞いてない。

 というか、聞いていたらリゾートの合宿バイトにでも応募して意地でも家を離れていた。


「もしかして、覚っくんは嫌? 私と一つ同じ屋根の下にいるの?」

「いや、別にそういうわけでは?」

「本当? もしかしてあの告白のこと気にしてる?」

「そ、それは……」


 すごく気にしてますとも。というか。


「夏枝さんこそ気にしてないんですか? 彼氏だっているんでしょ?」


 彼女が以前告白してきた相手の家に居候するとか、俺が彼氏だったら絶対に嫌なんだが……


 夏枝さんは「ああ、それね」と表情を気まずげなものにしてから続ける。


「彼氏とは別れたよ。2か月前に。だから今の私はフリーだよ」

「そ、そうなんですか……」

「そう。だから覚っくんさえその気なら、別に私はいいよ?」

「は? いきなり何を?」

「あれ~、こう言えばてっきり動揺すると思ったんだけど……あ~さては――」


 昔のようにいたずらっぽい笑みを夏枝さんが浮かべる。


「覚っくん、今、彼女いるでしょ!」

「いや、いませんけど」

「って、即答かよ。でも、じゃあ何で? あっ、好きな人がいるとか――」

「それもいません」

「え~、納得できないんだけど~」

「普通に青春したいので、恋愛はいいと思っただけです」

「ふ~ん、青春ね~」


 依然として不服そうな表情をしているが、事実なのでこれ以上は何も言わない。


「まあ、そういうことにしといてあげる。というわけで、これからよろしくね、覚っくん」


 こうして、27番目に俺を振った美少女がしばらく家に居候することになるのだった。

 



 


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