第47話 後輩はギャルのために


 潤さんからハニートラップを仕かけられたり、ギャルがナンパにあったりと早々に問題が起こったわけだが、それ以降は特に問題はなく海水浴を俺たちは楽しんだ。


「さて、今回はこのくらいにしといた方が良さそうだな」


 昼前になった辺りで、イケメンが海水浴場の混雑具合を見てそう言う。


 本当は海の家にでも行って昼食と行きたかったが、この人数でそれは止めておいた方がいいだろう。


 全員、イケメンの提案に頷くと俺たちは撤収準備を始める。


 そして、海水浴場を出て最寄り駅まで移動していると。


「先輩」


 一番後ろを歩いていた俺に、滝さんが近寄ってきた。


「私たちが遊んでる間、心亜さんと何かありましたか?」

「どうしたんだ急に?」

「何だか、心亜さんとの距離が近いと思って」

「そうか?」

「はい。だから何かあったのかと」

「……」


 俺的には特にそんな感覚はなかったのだが、滝さんから見ると距離感が違って見えるらしい。


 だが、ナンパのことはみんなを心配させるので、二人だけの秘密にすることになっているので、正直には言えない。


「俺の一発芸を見せたんだが、それを気に入られたんだ」

「一発芸? どうして?」

「暇だったからな、心亜に無茶ぶりされた」


 完全に嘘とは言い難いはずだ。

 心亜が一人で出歩いたせいでナンパから助ける羽目になったし、俺の自虐ネタは一発芸と言えなくもないからな。それに。


「ふ~ん。心亜さんらしいですね」

「だろ?」

「で、本当は何があったんですか?」

「えっ……?」


 何で嘘ってわかったんですか?


「隠さないで教えてください」

「そ、それはその……」

「覚士っちがナンパされてた私を助けてくれたんだよ~」

 

 言葉に困っていると、聞き耳を立てていたのか、心亜があっさりと暴露した。

 俺の今までの努力は何だったんだ……


「心亜さん。それ本当ですか?」

「うん。すごく面白かった~」

「面白かったんですか……?」

「そうそう、覚士っちがね――」

「心亜さんストップ!」

「え~、良いじゃん別に~」

「そうですよ、気になります」

「ダメなものはダメだ!」


 あれは俺の黒歴史に名を刻むイベントだったのだから。


「まあ、覚士っちがそこまで言うならこの話はなかったってことで」

「え~」

「それより、梓の方はどうだったのかな~?」

「――っ、そ、それは……」

「俺も気になるな」

「ちょっと先輩!」


 上手く話題を切り替ることに成功した俺は、そこから仕返しとばかりに根ほり葉ほりイケメンとどうだったのかを聞いた。


 特に進展はなく、普通にずっとドキドキしていたらしい。

 本当、相変わらず純粋だ。


 というわけで、まだまだ俺は彼女の恋に協力する必要があるとわかったところで、俺の人生初の青春海水浴場イベントを一端終わりにしたいと思う。


         ※※※


 海水浴を終えた翌日。


「それじゃ、覚士、梓ちゃん。バイト頑張って!」

「覚士さん、また来ますわ!」


 真竹先輩にそう言って、二人の美少女が店内を後にする。


「ねえ、先輩」

「ん、どうした?」


 二人が去った後のテーブル席の後片付けをしながら、私は尋ねる。


「あの二人のどっちが本命なんですか?」

「……は?」

「『は?』じゃありませんよ!」


 最初は勇生斗さんを狙うライバルかと思ったけど、昨日今日と二人が先輩に接する様子を見て確信した。


 大日南凪咲と潤怜奈。

 信じられないけど、この二人の美少女は先輩のことが好きだ。


「あそこまで好きアピールされて気づいてないんですか?」

「いや、まあ気づいていないというか……」


 先輩は何とも言えない微妙な表情をしながら続ける。


「俺、すでに告って振られてるし。逆に告られて振ってるんだよな……」

「はっ……?」


 まったく意味がわからない。

 いや、先輩のことだからあの二人に一度告白して振られたというのは理解できる。


「告られて振ったって、意味わからないんですけど?」


 あの美少女厨の先輩が、二人の告白を断るなんて信じられない。


「まあ、そのあれだ……今は普通の青春がしたいっていうか……」

「はあ?」

「いや『はあ?』と言われてもな……」


 先輩はそれ以上何も言わず、困ったような表情で作業に戻る。


 本当に私が知らない間に何があったのだろうか。


 未だに信じられないし、できれば何があったのかを知りたいところだけど、今はひとまず置いておく。


「ねえ、先輩」

「今度は何だ?」

「先輩って今、好きな人とかいます」

「えっ……」


 先輩が衝撃的な感じで私の方を見る。


「何勘違いしてるんですか。私が先輩のこと好きになるわけないじゃないですか」

「――っ、そ、そうだな……」

「で、どうなんですか?」

「……いない」


 そっか、いないんだ。


「ありがとうございます」

「おい、結局何でこんなこと聞いたんだよ」

「教えませ~ん!」


 私はそのまま先輩から皿を受け取り、そそくさと洗い場まで持っていく。


 ちなみに勘違いしないで欲しいけど、本当に先輩のことは何とも思っていない。


 好きな人がいないか聞いたのは、心亜さんのため。


 これは私の勘だけど、心亜さんは先輩のことが好きだ。

 それも質が悪いことに、心亜さん自身はそのことに無自覚で、取られて初めて好きだったことに気づくパターン。


 いつもお世話になっている心亜さんに、そんな悲しい思いはさせたくない。


 というわけで、先輩に好きな人がいないと知った今、私はこれから心亜さんの恋を応援しようと心に決めるのだった。


 



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